
僭越ながら始まりました「井上マサキのテレビっ子からご報告があります」。ライターでテレビっ子の井上マサキでございます。
1人の芸人が『アメトーーク!』から消えた。
詐欺グループとの「闇営業」問題を受け、雨上がり決死隊・宮迫博之が謹慎処分となった。既に収録が行われた番組は、宮迫の登場シーンをカットしたり、VTRに差し替えたりなどの対応に迫られている。冠番組の『アメトーーク!』も例外ではない。
だが、『アメトーーク!』は他の番組と勝手が違う。宮迫はMCとしてひな壇の芸人を仕切り、番組を進行する中心人物。それでも『アメトーーク!』は番組休止とせず、宮迫があたかも「最初からいなかった」かのように巧みに編集し放送した。
どうやって番組の中心人物を消したのか。また、消したことで何が起こるのか。謹慎処分を巡る一連の流れに議論はあるが、ここでは「アメトーーク!の編集はいかに行われたか」について見ていきたい。
「宮迫を映さない映像」が多く残っている理由
実は、『アメトーーク!』は通常のバラエティ番組と収録方法が違う。一般的なスタジオバラエティ番組は、収録時に複数のカメラを切り替え、「スイッチング(カット割り)」を同時に行う。2時間収録すれば、手元に残る映像は2時間分だ。
一方『アメトーーク!』は全てのカメラで映像を撮り、撮影後に編集する「全パラ収録」を行っている。これはロケで使われる手法であり、スタジオ収録では珍しいもの。同じ2時間の収録でも、カメラ台数×2時間の素材が残るため、編集の手間もかかるという。それもこれも、芸人たちが仕掛ける細かいフリや、気を抜いたときの仕草などを撮りこぼさないため。
この「全パラ収録」が、皮肉にも今回の「宮迫消し」を可能にしている。全てのカメラの映像を残しているため、「宮迫が映っていないカット」が多く残っているのだ。
最初に宮迫が消えたのは6月28日放送の「ネタ書いてない芸人」。この日はいつものひな壇トークではなく、5組の芸人が「ネタ書いてる芸人」と「ネタ書いてない芸人」に分かれてトークを繰り広げている。
スタジオでは両陣営の芸人たちが「ハ」の字に分かれて座り、中央に雨上がり決死隊の2人が座っている。MC席が映ってしまうため、スタジオ全体を映す「引き」の画は使えない。
印象的だったのは、アンガールズの2人が舞台中央でコントの一場面を再現するシーン。舞台正面からアンガールズを映すのが自然だが、恐らく後ろのMC席が見切れたのだろう、放送では左右の端のカメラから2人をとらえ、田中と山根の背中を交互に映していた。「全パラ収録」だからこそ、残された素材から巧みにMC席を避けることができたのだ。

不自然さを生む「余韻」の無さ
しかし、どうしても不自然な点は残る。「ネタ書いてない芸人」では、番組を進行する蛍原は映るが、宮迫は腕や肩がチラリと映る程度で、声も姿もない。MCと芸人の絡みがあっても【蛍原|芸人】と画面を2分割して乗り切っている。
もともと『アメトーーク!』のMCは蛍原が台本通りを進行し、宮迫がその場で話を回すスタイル。宮迫がいないと、芸人の話を受け止める人がいないのだ。「ネタ書いている芸人」と「ネタ書いてない芸人」たちはトークで次々と笑いを取っていくのだが、見ているとなんだか疲れてくる。余白というか、こちらに休む暇がない。
この「余白」については、番組初期からプロデューサーを務める加地倫三氏が自著『たくらむ技術』で触れている。スタジオが大爆笑に包まれて、笑いが10秒続いたとする。
「『7秒の余韻がカットされる』ということは、つまり『テレビの前にいる視聴者が、笑い終わって落ち着く時間がカットされる』ということだからです。自分の笑いが収まってないと、その後に続くトークに集中できません(中略)笑いが1つ死んでしまうことになるのです」
「ネタ書いてない芸人」が笑いを取ったあと、宮迫がいつも通りにツッコんだり、話を回したり、笑い疲れて「はぁ〜あ」と目元をぬぐったりすれば、声をカットすると同時に「余韻」もカットせざるをえないだろう。たとえ映像をつなぐことができても、視聴者の生理までは完全にケアしきれない。
いまこの状況だから成立する「映像トリック」
今週7月4日放送「パクりたい-1グランプリ」も、前回同様スタジオにいる宮迫を巧みに避けて編集している。ただ、2週分の放送を振り返って気がついたのだが、宮迫を消しつつも「わざと肩や腕をチラリと映している」気がする。編集で映像を少しズームインさせれば、宮迫をフレームアウトできる場面がいくつもある。なんだか「ここに誰かいる」という違和感をあえて残しているように感じるのだ。
その違和感をさらに逆手に取ったのが「パクりたい-1グランプリ」の終盤。永野による「モチを喉に詰まらせた新沼謙治」を、フジモンことFUJIWARA藤本がパクる。それを受け、ザキヤマたちから「モチを飲み込めた新沼謙治」「モチを断る新沼謙治」を次々に無茶ぶりされるところ。
スタジオ下手(MC席横)にはモチが乗った皿が差し出されており、ネタは餅を取りに行くところから始まる。必然的にMC席の前を横切ることになるため、「モチを飲み込めた新沼謙治」までは映像を切り替えてMC席を映さないようにしていた。
ところが「モチを断る新沼謙治」では、カメラはMC席の前を横切るフジモンを横から追った。フジモンの後ろにMC席が映る。ゲストの高山一実(乃木坂46)と蛍原のあいだに座っているはずの宮迫が、いない……!?
続く「モチで歌い始める新沼謙治」のときにも、MC席の「空白」が映し出される。さっきまで蛍原の隣には、宮迫の左肩が映っていたはずなのに、宮迫がいない。SNSでは「宮迫が消えた!」「ついにCGで消した!?」と驚きの声があがる。
本当にCGなのか。さらに映像をよく見る。「モチを断る新沼謙治」から、モチを差し出す手にスーツの袖が見える。どうやら途中から宮迫がモチを差し出しているようなのだ。企画は「パクりたい-1グランプリ」である。
思い出してほしい。『アメトーーク!』は「全パラ収録」で撮られていることを。様々な素材があるにも関わらず、あえて「宮迫をCGで消したように見えるカット」が使われたことを。
闇営業の一件から、『アメトーーク!』の視聴者は「宮迫がいるのに映ってない」ことを確認するようになってしまった。チラチラ映る肩や腕に宮迫の存在を感じていた。そこにあたかも「本当に消えた」カットをぶつける。「謹慎処分のためカットせざるをえない」という状況を逆手にとった映像トリック。ゾッとした。いま、ここでしか成立しないものを見た。
取り急ぎご報告したいことは以上です。
(井上マサキ タイトルデザイン/まつもとりえこ)