配信中毒者が本気で推すNetflix「名誉勲章 米軍の英雄たち」マジでヤバい…アメリカがわかる
どうもみなさまこんにちは。細々とライターなどやっております、しげるでございます。配信中毒2回。ここではネットフリックスやアマゾンプライムビデオなど、各種配信サービスにて見られるドキュメンタリーを中心に、ちょっと変わった見どころなんかを紹介できればと思っております。みなさま何卒よろしくどうぞ。

ちょっとやそっとではもらえない、すごい勲章にまつわるドキュメンタリーです


名誉勲章、それは米軍最高位の勲章である。英語で書くとMedal of honer。ゲームのタイトルにもなっているので、知っている人もいると思う。
今まで米軍に勤務した4000万人の兵士達のうち、受勲したのはたったの3600人。軍隊の勲章には「負傷したらもらえるもの」とか「激戦になった作戦に参加した人は全員もらえるもの」とか色々な種類があるが、名誉勲章はおいそれとはもらえない。単に戦功を立てただけではなく、飛び抜けて勇敢で、なおかつ自己犠牲の精神を発揮した兵士にのみ与えられる勲章なのだ。

ネットフリックスのオリジナルドキュメンタリーである『名誉勲章 米軍の英雄たち』は、この名誉勲章受勲者を1話につき1人紹介する番組だ。当たり前だが登場する兵士は全員アメリカ兵。しかし取り上げる戦争は第二次世界大戦からイラク戦争までバラバラだ。
そしてこのドキュメンタリーに出てくる兵隊が、もれなくめちゃくちゃすごい働きをしているのである。

例えばシーズン1の第5話に出てきたビート・ベルトルドは、もともとの弱視が災いし炊事兵として第二次大戦中のフランスのアッタンという街に赴任していたものの、彼の部隊は他の歩兵部隊の後退を助けるために殿を命じられる。しかし彼らの武器は小火器のみで、降伏を装ったドイツ軍の攻撃により部隊が大きな被害を受けてしまう。だがビートは残った武器をかき集めて道路に陣取り、敵が攻めてくるたびにありったけの弾を撃ちまくって撃退。たった1人で36時間以上にわたって不眠不休で街を守り通したという。ワンマンアーミー、超人かよという感じである。


出てくるのはほぼ全員この調子の人たちだ。朝鮮戦争で丘の上に陣取ったものの中国軍に押され部隊が壊滅し、たった1人で4つの機関銃陣地を往復して陣地を守り通したジョセフ・ビットリ伍長。アフガニスタンの僻地に建てられたキーティング基地で多数のタリバンに包囲されたものの、果敢に部隊を指揮して基地を取り戻したクリント・ロメシャ軍曹。名誉勲章の受勲の条件には「本来の任務を超えた働きを見せた兵士」というものがあるため、このドキュメンタリーに出てくるのはもう全員そういう人たちばっかり。どのエピソードも凄まじい。

特に強烈なのが、第7話に出てくるリチャード・エチバーガー曹長である。
この人は空軍の所属なのだが、1968年のベトナム戦争中にラオス国内のレーダーサイトに部下と一緒に赴任。しかし周囲を北ベトナム軍に包囲され、ロクに地上戦の訓練を受けていないのに必死に抵抗。さらに救援のヘリに先に仲間を乗せつつ自分は最後まで地上に残って抵抗を続けたという兵士だ。

サラッと書いちゃったけど、ベトナム戦争中にラオスで軍事行動をするのは立派な交戦規定違反、バッキバキのブラックオプスである。番組の中でも「普通に兵隊を放り込むと怒られるから、軍服を着ないで民間人のフリをしてレーダーサイトに兵隊を送り込んだ」「移動には実質CIAの航空部門だったエア・アメリカを使った」というような話が普通に紹介される。

いや、嬉しい。
冷戦中のブラックな話はオタクとしてはご馳走である。しかしそれにしても随分あっけらかんとしたものだ。機密指定は解除されてる内容だからおおっぴらに番組にしてるんだろうけど、それにしても元兵士の皆さんのテンションが平然としている。もうちょっと悪びれたりしなくていいのか。見ているこっちの方がドキドキしてしまった。

勲章受章者の扱いに、アメリカ兵の強さの秘密を見た


『名誉勲章 米軍の英雄たち』は1話が二部構成になっており、前半は実戦の様子を証言をもとに再現したドラマパート、後半は生き残った兵士たちや遺族の様子を記録したドキュメンタリーパートである。
そして、この後半部分の方も強烈だ。

というのも、アメリカ国内での名誉勲章受勲者の扱いがすごいのである。この勲章をもらった兵士は完全にオラが村の英雄であり、銅像が立つのは当たり前。遺族や同じ部隊の兵士はそれだけでリスペクトされ、受勲者の名前をつけた基金や賞や公共施設もバンバン作られ、親族が集まるたびに「おじいさんはすごかったんだよ……」という話をする。すごい……。「軍隊がくれる勲章」というものの価値が日本とは全く違う。


なんせこの番組で取り上げた兵士たちの遺族はまだ全然生きている。だから「母は父の死を生涯忘れませんでした」みたいな、痛々しい証言もけっこう出てくる。しかし最終的な結論がだいたい「父よあなたは強かった」なのである。「戦争は良くない」みたいな話が全然出てこない。まあそれを言っちゃうと色々難しいことになるからとりあえずスルーということなんだろうけど、それにしても戦争というものの扱いがめちゃくちゃマッチョである。

思えば『キャプテン・アメリカ ファースト・アベンジャー』において、スティーブ・ロジャース青年がキャプテン・アメリカ候補に選ばれたのは、自己犠牲を厭わず、仲間を守るために自ら手榴弾の上に覆いかぶさったからだった。名誉勲章の受勲に関しても、このような「仲間を守るために自らを危険にさらす」という部分は重視されるようで、番組で紹介される兵士たちの多くがそういった行動をとっている。その部分を評価し「あいつは本当にすごいやつだった」と証言を集めるのは、遺族にとってはこれ以上ない慰めになるだろう。なんせ名誉勲章受勲者は大体全員死んでるのである。

おれはアメリカ人ではないので、「いいのかそれで……」という気持ちにならざるを得ないところもある。だがそれと同時に、だから米軍は強いのかもなという気もする。戦場での英雄的行為を賞賛し、「仲間は仲間を見捨てない」「米軍と合衆国政府は遺族のケアまでしっかりやる」という建前が機能しているのだ。所詮建前じゃないのかという点もあるが、臆面もなく建前を主張できる土壌や制度があるというのは、紛れもなく一種の強さである。

その意味で、『名誉勲章 米軍の英雄達』は米軍、ひいてはアメリカという国の仕組みの一端に触れられるドキュメンタリーと言える。何をもって勲章を与え、それをもらうとどのような評価が与えられ、例え戦死しても遺族や栄誉は生き続ける……。アメリカというのはそういうシステムがはっきりと明文化されている国だということがよくわかる。おれはアメリカ人ではないので正直見ていると複雑な気分になるが、しかしそれは彼の国の強さを支えるいくつもの柱の一本であるはずなのだ。
配信中毒者が本気で推すNetflix「名誉勲章 米軍の英雄たち」マジでヤバい…アメリカがわかる
作図/しげる

((文・作図/しげる タイトルデザイン/まつもとりえこ)