TBSの日曜劇場「ノーサイド・ゲーム」(日曜よる9時)先週8月25日放送の第7話では、トキワ自動車のラグビー部「アストロズ」に激震が走った。その発端は、アストロズの主力選手である浜畑譲(廣瀬俊朗)に対する、国内リーグの強豪「サイクロンズ」が引き抜き工作があきらかになったことだった。
しかし浜畑はサイクロンズ監督の津田(渡辺裕之)とGMの鍵原(松尾諭)の直々の誘いを断った。浜畑の夢はあくまでもアストロズで日本一になることだからだ。それを聞いてアストロズのGMの君嶋隼人(大泉洋)は安堵する。
「ノーサイド・ゲーム」ライバルチームの誘いに応じた看板選手に承諾書を出すべきか、大泉洋が苦悩した7話
イラスト/まつもとりえこ

看板選手の引き抜きに動揺するアストロズ


だが、サイクロンズの本命は浜畑ではなかった。後日、アストロズのもう一人の看板選手である里村(住久創)が、サイクロンズからの誘いに応じて移籍すると宣言する。それがあきらかになるや、アストロズの選手たちは里村を裏切り者とみなした。

君嶋とアストロズ監督の柴門(大谷亮平)は、里村の説得にあたるが、里村はアストロズが優勝など無理だと断言、さらにヨーロッパのリーグ入りなどさらに上を目指すがゆえ、日本代表が多く所属するサイクロンズに移って実力をつけたいのだと訴えた。そんな里村に、君嶋は移籍承諾書は出さないと告げる。承諾書がなければ、里村はサイクロンズに移っても1年間はリーグ公式戦には出られない。だが、この宣告はますます里村との溝を深めることになる。

里村と物別れに終わり、君嶋はふいに「浜畑はあっさり引き抜きを断ってくれたっていうのにな」と口にするが、柴門は「あっさり? そんなわけないだろう」と君嶋を叱りつける。「選手だったら誰だってよりいい環境でプレイしたいと考える。まして浜畑はピークをすぎて1年1年が勝負だ。
残り少ない現役生活をどこですごすべきか、選手ならだれしもが悩む。浜畑も死ぬほど悩んだはずだ。それでもここに残ると決めた。腹をくくったんだろう」。柴門のこのセリフは、その後の浜畑の行動を見ると、より重いものに感じられる。

里村は、ラグビー部以外の同僚からも裏切り者扱いされ、仕事を押し付けられていた。夜、残業していると、浜畑がやって来る。てっきり説得しに来たのかと思った里村は、「みんなを裏切ったのは悪いと思ってます。でも、俺はもっとでかい舞台で活躍したいんです。このチャンスを逃すわけにはいかないんです」と訴えるが、浜畑は「ほな、さっさと終わらせて練習せいや」と言って、彼の仕事を手伝い始めた。「家族が困ってたら助けるのは当然やろ。……どこ行っても頑張れよ、里村。
応援してるで」。浜畑の思いがけない言葉に促され、里村はグラウンドに出る。そこでは、友部(コージ〈ブリリアン〉)がタックルの猛練習中だった。友部は里村の穴を埋めるべく主将の岸和田(高橋光臣)の指示で練習していたのだが、どうにもうまくいかず、「別の人に任せたほうがいいんじゃないですか」と弱音を吐く。

その様子を目にした里村は「無様な試合されたくない」と助言し、さらには自らが練習台となって、友部にタックルを繰り返させる。なかなか体がつかめず、何度も里村に飛びかかってはよけられ、倒れ込む友部。そんな両者の姿に、ほかのチームメイトも集まってくる。ついに友部が里村をつかまえると、里村は「その感覚、忘れるんじゃないぞ」と言い残してグラウンドを去っていく。浜畑もいつのまにかその様子を見ていて、里村に「最後、わざとつかまってやったんか?」と訊ねるが、返事はなかった。

移籍承諾書を出すべきか悩んだ末に君嶋は…


そのころ、翌日に里村の退社を控え、承諾書についてアナリストの佐倉(笹本玲奈)に訊かれた君嶋は、チームのために承諾書を出すべきではないと答えた。

翌日の夜、里村が一人黙ってグラウンドを通って帰ろうとしていたところ、君嶋とチームメイトが待ち構えていた。岸和田がここぞとばかり、「おまえは自分がいないと俺たちが勝てないと思ってるのかもしれないが、俺たちへ平気だ。だから、おまえがどこに行こうが勝手にやるがいい。
ただし、だらしないプレイをしてアストロズの名を汚すことだけは絶対に許さない」と告げると、「最後に俺たちからおまえに餞別がある」と言って、君嶋にあとを託した。「私はアストロズを勝たせるのが仕事だ。だからチームの不利になるようなことはできない。だが、本当にこれでいいのか、私も悩んだ」……君嶋がそう言うと、場面は前日の回想に切り替わる。

じつは君嶋は事前に浜畑のほか選手たちと相談していた。浜畑は自分もサイクロンズに誘われていたことをチームメイトに打ち明けると、里村の気持ちもわかるとして、みんなも同じ立場だったらどうなのかと訊ねた。「あいつからラグビーを奪って、ほんまに俺らはそれでいいんか」。浜畑の問いに、岸和田が立ち上がると「同じラグビー選手としてあいつがこれから1年間も試合に出られないのは残酷すぎます。あいつにとっても、日本のラグビー界にとってもマイナスだと思うんです。それに俺は、ただ勝つだけじゃなく、里村がいるサイクロンズに勝って優勝したい。そう思っています」。これにはほかの選手たちも次々に立ち上がって同調した。
浜畑は「GM、これが俺たちの考えです」と言うと、君嶋は「君たちは人が良すぎる」とあきれながらも、「勝つための戦略として間違っている。だが、私も賛成だ」と、一転して承諾書を出すことに決めたのだった。

グラウンドにて、君嶋は「これは我々の決意表明でもあり、君への挑戦状でもある」と言って里村に承諾書を渡す。「里村、サイクロンズでの健闘を祈る!」と君嶋が言うと、浜畑が里村の厚い胸板を拳で叩いた。涙、涙の見送りだった。

後日、「大きな柱を失ったな」と嘆く君嶋を、柴門が「そんなことはない」とグラウンドに目を向けさせる。そこでは佐々(林家たま平)や七尾(眞栄田郷敦)ら若手が切磋琢磨しながら練習を続ける姿があった。アストロズは彼らの成長により、優勝争いをするチームから本当に優勝できるチームへと脱皮しようとしていた──。

原作ではくわしく描かれない家族も重要な役割を担う


さて、このドラマの原作は、池井戸潤の同名小説である。小説『ノーサイド・ゲーム』はドラマのために書き下ろされたものとはいえ、両者のあいだには当然ながら違いもある。もっとも大きな違いは、小説にはくわしく描かれていない君嶋の家族がドラマでは一つの軸となっていることだろう。これは日曜劇場がホームドラマ枠でもあるということと、演じる大泉洋のキャラクターもあってだろう君嶋にマイホームパパとしての一面を持たせようとしたからではないか。


ドラマにおいて、君嶋と家族(とくに長男の博人)はラグビーを通じて関係を深めていく。アストロズのジュニアチームに入った博人は、第7話で一つ上のチームに昇格した。しかし、そのために仲の良かった少年がチームから外される。この直後、その子がチームをやめると言い出したため、博人は自分のせいだと落ち込んでしまう。だが、君嶋がひそかに佐倉に調べさせたところ、少年がチームをやめるのは引っ越すからだとわかった。博人も事実を知って安心する。こうした子供たちをめぐるエピソードは、緊迫しがちなドラマのなかにあって一種の清涼剤的な効果を発揮するとともに、君嶋にラグビーの本質に立ち返らせるなど、さまざまな気づきも与えている。

なお、ドラマと原作小説の違いでいえば、ドラマではサイクロンズの津田と鍵原が原作以上に悪者として描かれている。前回、第6話では二人がアストロズの紅白戦を隠し撮りさせてパソコンで観戦していたが、原作ではきちんと先方に許しを得たうえでグラウンドで観戦し、わりとフェアなところを見せている。

原作ではまた、サイクロンズに移籍した里村にも活躍の場が与えられていた。しかし、第7話での津田の言動を見ると、里村を引き抜いたのはあくまでアストロズを弱体化させるのが目的で、どうも彼に出番を与える気はないんじゃないかという気がしてならない。ドラマではサイクロンズをアストロズの敵役としての立場をより鮮明にすべく、首脳たちが原作以上に悪者として描かれているのだろう。


第7話では、トキワ自動車専務の滝川(上川隆也)の進めるカザマ商事の買収が着実に進み、滝川が社長となる日も近そうだ。原作では滝川にも、複雑なバックボーンがあることがあきらかにされるのだが、ドラマではそのあたりどんなふうに調理されるのだろうか。今夜放送の第8話以降の展開が気になるところである。(近藤正高)
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