最近手がけたドラマでいえばマンガ原作の『極道めし』(BSジャパン)、昨年の24時間テレビで放送されたスペシャルドラマ『ヒーローを作った男 石ノ森章太郎物語』(日本テレビ)、松坂桃李主演の『視覚探偵日暮旅人』(日本テレビ)も彼の手によるもの。



この同じ時期に、彼が脚本家・演出家としてつくった演劇の方を見てみよう。浅草九劇という新しい劇場のこけら落とし公演として上演された『あたらしいエクスプロージョン』。日本映画で初めてキスシーンを撮った人々の狂騒を描いたこの物語で、福原は「演劇界の芥川賞」とも称される岸田國士戯曲賞を獲得している。

間髪いれず手がけたのが土田世紀のマンガを原作に、関ジャニ∞の安田章大が主人公を演じた『俺節』。安田の魅力を引き出し、昭和の世界観を舞台上に再現してみせた。
その夏にはニッポンの河川『大地をつかむ両足と物語』。この劇団では役者が「役を演じながら」同時に照明と音響を担当する。手元足元に張り巡らされたスイッチをセリフの途中で押してライトを切り替える。
2018年冒頭には演劇界のリビングレジェンド・唐十郎の『秘密の花園』を上演。舞台後半でステージ上に嵐が起こる。比喩ではない。本当の水がこれでもかというほど降ってきて、役者もセットもずぶ濡れ、前方の観客もしぶきを受けながら観る、というものだった。
『あな番』のはじまる直前、2019年の頭にはいま彼のホームといえる劇団ベッド&メイキングスとして、登場人物がそれぞれに人に迷惑をかけながら自分だけの何かを探し求める姿を描いた。
キャラ造形力と物語力、福原の力が「あな番」を成長させた
伝わるだろうか、この幅広さ、極端さ。一度に数千人が入る大劇場でジャニーズを主演に据えた作品を上演した直後に、原っぱでの数十人相手の公演。けれどそのどれもが、登場人物一人ひとりのキャラクターがぐっと立っていて、「物語の力」を感じさせる作品ばかりだ。『あな番』でもマンションの住人たちのキャラがそれぞれ特徴的だからこそ、これだけ大勢のキャストが登場しながら混乱することなく、物語に入っていけたと言えるのではないだろうか(もちろんそれを演じる役者たちの力も多分に作用しているけれど)。
もうひとつだけ、彼が今まで手がけた作品について語ることを許していただきたい。
原作の秋元康がどこまでを決めているのかはわからない。だが一つひとつのセリフを紡いでいくのは脚本家の仕事だ。福原がこれだけ大勢の登場人物のセリフと関係性を具体的に立ち上げた。その結果視聴者は『あな番』に、いやおうなしに惹きつけられたのだ。
マンション内の殺し合いという非現実的な設定。主人公のひとりが途中で死んでしまう突飛な展開。最愛の人の死という悲しみを復讐の怒りに代えるどこまでもシリアスな状況。それが単なるトンデモドラマにとどまることなく、半年間どんどん視聴者を巻き込みながら突進していったこの状況は、福原のキャラクター造形、物語力が大きく支えていたと思う。
福原はよく、「現実に作用する作品を作りたい」と語っている。たとえば芝居を見た人の気分が少し浮きたつような、観た次の日に向かう心持ちがちょっと変化するような、そんな物語。『あな番』はそんな作品のひとつになりえたのではないだろうか。
極端なキャラや展開に突っ込みつつも『あな番』にハマってしまった人は、ぜひ彼が次に手がける舞台(再び関ジャニ安田を主演に据える『忘れてもらえないの歌』は全公演完売らしいので、次を!)を観に行ってみてほしい。
(釣木文恵)