全裸版「孤独のグルメ」を観ていたつもりが、全裸版「深夜食堂」みたいになっていた。だけど、いい話しのようでいて、なんだか納得がいかない。
先週放送された、原田泰造主演、サウナ好きによるサウナ好きのためのテレビ東京のドラマ25「サ道を観た後の率直な感想である。

サウナが好きな人のためのサウナドラマである「サ道」で何が起こっていたのか?

ドラマ寄りになってきた「サ道」


「サ道」の基本フォーマットは、サウナーのナカタ(原田泰造)がサウナ仲間の偶然さん(三宅弘城)、イケメン蒸し男(磯村勇斗)とダベりつつ、サウナの師である蒸しZ(宅麻伸)を探すというテイで全国の名サウナを堪能するというものだった。その堪能っぷりを見ていると、全裸版『孤独のグルメ』という称号を与えたくなる。

ただし、近年は異様なまでに饒舌になっている「孤独のグルメ」の井之頭五郎に比べると、「サ道」のナカタはまだ抑制が効いている。サウナは静かな祈りの場所であってほしい、という原作者のタナカカツキの思想を、脚本と演出と音楽が忠実になぞっているように見える。サウナで静かに汗を流し、水風呂に浸かってから、ゆったり休憩してととのうまでの行程をドラマで再現しているのだ。これは明確な作り手側の意志だと思う。


ところが、回が進むにつれて、フォーマットから外れるエピソードが増えてきた。8話ではサウナガールのミズキ(小宮有紗)が登場して女性向きのおしゃれなサウナを紹介したし、9話ではナカタがサウナを堪能する横で偶然さんが取引先の社長(山下真司)相手にサラリーマンの悲哀をたっぷり味わっていた。

サウナにもドラマがある。これまでは匂わせる程度だったが、いよいよフルスイングでぶっこんできたのが先週放送の10話だった。「孤独のグルメ」を観ていたつもりが、いつの間にか「深夜食堂」にスイッチしていた感じ。

脚本は根本ノンジ。
「居酒屋ふじ」あたりはドラマの仕掛けに振り回されていた感があったが、傑作「フルーツ宅配便」や、フジ月9「監察医朝顔」で大いに名を上げている。抑制された日常的な表現により、じんわりとサウナストーンから発する熱波のような感動をもたらすのが得意技だ。
サウナドラマ「サ道」は全裸版「孤独のグルメ」。荒川良々号泣の10話は全裸版「深夜食堂」みたいだった
原作

行き場をなくした男・村田


いつものようにキャッキャとホームサウナの「北欧」でダベっているナカタ、偶然さん、イケメン蒸し男の背後に、冴えない顔の男がいた。冴えない顔の男・村田(荒川良々)は会社でも家庭でも爪弾きにされ、孤独感に苛まれていた。

仕事では取引先から叱責され、会社に帰ってくると部下からも罵声を浴びてしまう始末。家族は顔さえ出さず、息子の受験の追い込みのため、京王八王子に買ったローンまみれのマイホームに帰ってくるなと言われてしまう(ラインで)。

グルメもサウナも「孤独」のまま楽しむことができる。
個人で輸入雑貨商を営む井之頭五郎もフリーのイラストレーターのナカタも孤独と隣合わせで生きてきた。それに比べて、村田はずいぶんクラシックな男だ。会社と家族という昭和的なコミュニティにしがみついており、そこから爪弾きにされるとたちどころに行き場所をなくしてしまう。

いや、あった。サウナだ。サウナは都会で孤独に生きる男(女も)を優しく包み込む。


笹塚にある「天空のアジト マルシンスパ」に滑り込んだ村田は、サウナストーンが醸し出す熱波に身体を委ねるが、やっぱり心穏やかではいられない。関係ないが、荒川良々が「村田」という姓の情けない男を演じていると、特殊漫画家・根本敬が描く悲劇の男・村田藤吉を思い出す。

温冷交代浴の魔力、おそるべし


サウナで次々と浮かび上がるネガティブな思考にとらわれてしまう村田だが、マグ万平による熱波ロウリュを受けているさなか、あることを思いつく。

「待てよ、ネガティブな思考を押さえつけず、汗のようにあえて出してみたらどうだろう」

熱波を浴びて噴き出す汗とともに、頬を伝う涙。取引先を許し、部下を許し、家族の幸せを願う。マイホームのローンのため、石にかじりついても会社をやめないと誓う村田。
全裸で。

しかし、村田の言っていることが正しいとは思えない。仕事ができないのならできるようになったほうがいいし、そもそも罵声に耐えたからといってあと20年も会社にいられるような時代はとうに終わった。若い女子社員に「バカ」と言われたことを根に持っているのも、女性への蔑視が根っこにある。彼が妻に邪険にされるのは、彼がそれまでまったく息子の受験に役に立っていなかった(相談相手にもならなかった)からだろう。

だが、先にも書いたが、村田とはそういう男なのだ。
会社と家族が自分のすべてで、そこから放逐されそうになっているのに気づかない男。サウナは彼にとって逃げ場である。

水風呂に浸かり、「マルシンスパ」が誇る屋外の休憩所でまどろむ村田。

「仕事があり、家があり、家族がある。それだけで十分、私は恵まれているじゃないか。そうだ、今の私のまま、ゆっくりと生きていけばいい。今の私のまま。今はこれでいい。これで、いい……」

ととのったー! あれだけ落ち込んでいた男を「今はこれでいい」と自己肯定させてしまう温冷交代浴の魔力、おそるべし。まるでアヘンのようだ。

村田が本当にひとりで「今はこれでいい」と思っていたら、会社からも家族からも捨てられてしまいかねない。ポンコツな男でもまるごと肯定してやりたいが、サウナに入って「今はこれでいい」と落ち着いちゃうのはどうよ。根本ノンジが皮肉として書いているのか、本心として書いているのかわからない。

さすがにこれだけだとヤバイと思ったのか、ラストでは村田をナカタらと交流させてハッピーエンドに持っていった。見知らぬ隣人と交流することからドラマが生まれれば、本当に「深夜食堂」みたいになっただろう。泣けるドラマを見せられると思ったら、けっこうな問題作だった10話であった。

本日放送の11話は、熊本の「湯らっくす」が登場! MAD MAX(という冷水シャワー)が爆発するぞ! 今夜0時52分から。
(大山くまお)

ドラマ25「サ道」
原作:タナカカツキ「マンガ サ道~マンガで読むサウナ道~」
監督:長島翔
脚本:根本ノンジ、竹村武司、永井ふわふわ
音楽:とくさしけんご
出演:原田泰造、三宅弘城、磯村勇斗、荒井敦史、宅麻伸
主題歌:Cornelius「サウナ好きすぎ」
エンディングテーマ:Tempalay「そなちね」
プロデューサー:五箇公貴 ほか
制作:テレビ東京、イースト・エンタテインメント
※放送後にTVerで配信中