「捕まえるなら、本当に悪い奴ら捕まえろよ!」

9月21日(土)放送のNHK土曜ドラマ『サギデカ』(NHK総合)第4回。
警察官・今宮夏蓮(木村文乃)は、一週間で1億1,200万円の被害を出した振り込め詐欺の掛け子・加地颯人(高杉真宙)を追い詰めたが、自ら手を離して逃がしてしまった。

慟哭の最終回へ「サギデカ」木村文乃に刺さるブーメラン「捕まえるなら本当に悪い奴ら捕まえろよ」4話
イラスト/たけだあや

「善良な市民」であり「加害者」


今宮「やるんだったら、本当にがめつい年寄りをピンポイントで狙ってくださいよ!」

第1回で今宮が加地に放ったこの台詞が、加地の心に残り1億1,200万円という大きな被害を生み出した。加地は振り込め詐欺を再開した。狙うのは富裕層で、かつ過去に強姦や放火未遂、飲酒運転による過失致傷示談・不起訴処分となった者の家族たちだった。

「ネズミ小僧に大義なんかねえよ」と手塚賢三(遠藤憲一)は言う。しかし、もし加地がやったことが世の中に知れたら、特にインターネット、SNSにおいては賛同の声も多く挙がると想像できる。現に、本人や家族が犯罪を犯しても示談、不起訴処分となった人や、すぐに逮捕に至らない人たちに「上級国民」などと名前をつけて恨んだり叩いたりする風潮は、近年確かにある。

手塚「まっとうに社会的地位を築いて、まっとうに金稼いで、まっとうにバカ高い税金払ってる人たちに何の罪がある」
今宮「わかってます」
手塚「示談だって正当な行為だ。起きてしまったことは二度ともとに戻せない。だとしたら、金で解決するという方法は、被害者を守るためにはホシに実刑を食らわせるより有効だったりするんだよ」
今宮「わかってます!」

犯罪者にすぐに実刑、死刑などを望む世の中に釘を刺すような手塚の台詞に、今宮は「わかってます」と繰り返し返事をする。真面目な今宮は、本当にわかっているはずだ。でも、今宮の声は震えて大きくなり、手塚の言葉を止めるようにも自分に言い聞かせているようにも聞こえる。

加地という「善良な市民」かつ「加害者」をめぐる、手塚と今宮のやりとり。彼のような人間にどう接したらいいのか、どうジャッジしたらいいのかと考えるときの葛藤や戸惑いが、このシーンに表れていた。

慟哭の最終回へ「サギデカ」木村文乃に刺さるブーメラン「捕まえるなら本当に悪い奴ら捕まえろよ」4話
イラスト/たけだあや

詐欺がなくならない理由、詐欺をやる理由


加地は、世話になっていた店長(玉置玲央)の死を目の当たりにする。「あいつも、酔っぱらって溺れ死ぬなんてかわいそうに。他人様を傷つけたりするから、天罰だろうな」と番頭(長塚圭史)は言っていたが、白々しいその語り口は加地への忠告・脅しでもあった。

店長が死の直前に加地に電話してきたこと、裸の死体のそばにスマートフォンだけが落ちていたこと、すべてに“上の人間”が関わっていたのかもしれない。そう考えると、きっと加地ももうただでは辞められないだろう。本作の制作統括・須崎岳プロデューサー(NHKエンタープライズ)がインタビューで語っているように、店長の死は〈振り込め詐欺に手を染めて、行く末に待っているのは悲劇〉ということを物語っている(参考記事)。

加地「あなた言いましたよね、俺に。俺たちは本当は弱い奴らから奪ってるんだって。確かにそうだったかもしれない。でも、警察だって同じじゃないですか。そっちだって、中学生とか金に困ってる奴とか、末端の弱い奴らしか捕まえてないですよねえ」

加地「捕まえるなら、本当に悪い奴ら捕まえろよ!」

弟と店長、自分のそばにいてくれた二人を金のために亡くした加地。彼の目的は、もはや金ではない。

加地「俺は、本当に悪い奴らの顔、絶対に見てやりますから」

第1話では、加地は「俺は弱者じゃない」と言っていた。
自分を弱い者だとは認めていないが、自分より強い者がいること、そして、それが「本当に悪い奴」だということを加地は自覚している。金と本当に悪い奴の前で、加地は無力だった。その正体を自分の目で見ることで、彼は自分の人生を取り戻せるのかもしれない。

実際の振り込め詐欺のプレイヤーたち全員が、加地のように孤独な境遇を生きてきたわけではないだろう。ただ、特殊詐欺に関わる若者の中には、金や仕事、人との繋がりがなく、自分の人生を取り戻すような思いで参加する者もいるのではないか。第3回に登場したキャッシュカード詐欺の福田亜佐美(古川琴音)にも、親に虐待されていた自分の人生への諦めとともに、どうにかしようともがく様子も感じられた。

手塚は第2回で、この世から詐欺がなくならない理由について「俺たち人間は、信じたいものだけを信じて生きてる。だから、騙される」と言っていた。それも納得できる。ただ、加地や福田の姿を見ていると、詐欺でもしないと生きる理由が見つけられない世界に、彼らが生み落とされてしまっただけなのでは、とも考えてしまう。

黙秘の暗示か。「黙ってた方が良いって言った」


店長、番頭、その上に首魁(しゅかい)の男・桑原傑(田中泯)がいる。
その桑原が金策の相談をしていた相手は、今宮のバイク仲間でベンチャー起業家の廻谷誠(青木崇高)だった。桑原は、頭の良い廻谷をブレーンとして頼りにしている。

廻谷「ああいう人のそばにいると、自分も良い人になれる気がする」

廻谷は、今宮についてそう話していた。桑原と関わってはいるものの、自分の会社の仕事はクリーンにやってきたという廻谷。彼も店長や加地と同じように、今の自分の状況を良いと思ってはおらず、別な場所へ行きたいと願っているのかもしれない。

今宮「今日は、あまりしゃべらないんですね」
廻谷「黙ってた方が良いって言ったの、あなたじゃないですか」

第3回、4回と繰り返し登場したこの会話が、今宮の前で廻谷が黙秘をすることの暗示にも思える。今宮は、桑原と廻谷のいる場所、真相までたどり着けるか。最終回は、今夜9時から放送予定。

(むらたえりか)

■作品情報■
土曜ドラマ『サギデカ』

総合:2019年8月31日(土)スタート 毎週土曜 よる9時から9時49分<連続5回>
BS4K:2019年8月28日(水)スタート 毎週水曜 よる7時50分から8時39分<連続5回>
再放送:総合 毎週木曜 午前0時55分から1時44分(水曜深夜)
配信:NHKオンデマンド  https://www.nhk-ondemand.jp/program/P201700161900000/

出演:木村文乃、高杉真宙、眞島秀和、清水尋也、足立梨花、玉置玲央、長塚圭史、鶴見辰吾、香川京子、青木崇高、遠藤憲一、ほか
脚本:安達奈緒子
音楽:谷口尚久
制作統括:須崎岳(NHKエンタープライズ)、高橋練(NHK)  
演出:西谷真一、村橋直樹(ともにNHKエンタープライズ)
制作:NHKエンタープライズ
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