“威厳タイプじゃない父親”を模索 本人×ケイタイモ、父親2人が考える「家庭に良いグルーヴを生む方法」

“威厳タイプじゃない父親”を模索 本人×ケイタイモ、父親2人が考える「家庭に良いグルーヴを生む方法」

父親目線の育児エッセイ『こうしておれは父になる(のか)』(イースト・プレス刊)の中で著者の“本人”は、妻の妊娠が判明して、“プレパパ”向けの情報を求めていたときの気持ちをこのようにつづっている。

「ビジネス書みたいな教育ガイドではなく、プレパパ目線、妊婦を至近距離で見ているパートナーとしてのエッセイが意外と見つからない」「おれたちみんな、マジで世界に一つだけの花だ。(~中略~)夫たちの心づもりも多様性が求められる」

一方、ミュージシャンのケイタイモは、多様な父親像という言葉を象徴するような存在かもしれない。辮髪にヒゲ、丸メガネというユニークなルックスを貫きながら、おむつ替えやお風呂入れ、幼稚園への送り迎えなどに奮闘する日々をコミカルに描いた漫画をInstagramにて毎日連載している。

父親が育児に携わることが当たり前になってきて、いわゆるイクメンタレントも増えてきた。しかし、まだ世の中に“父親”たちが足りていない。父親たちは、もっと他の父親たちに共感したいし、あわよくばお手本になる父親像を見つけたい!

音楽ライブや旅行が大好きなゴリゴリのサブカル人である『こうしておれは父になる(のか)』の著者・本人と、『家も頑張れお父ちゃん!』を出版して、近年は育児漫画の描き手としても注目されるケイタイモが対談した。一般的な“父親”のイメージからははみ出る2人が、父親の心構えを語り合った。

取材・文/原田イチボ(HEW) 撮影/ナカムラヨシノーブ

子供は風呂の縁に立ち、風呂の湯をがぶ飲みする


――本人さんは、2018年5月に息子さんが誕生して、来春に第2子男児が生まれる予定です。ケイタさんは、1女2男の父親です。

本人:お子さんが3人もいらっしゃるから、もうケイタさんは大先輩にあたるわけです。だから、『家も頑張れお父ちゃん!』を読みながら、子供が2人、3人いるとこういう感じになるんだなぁと驚いています。自分のところは、まだようやく歩き出したところなので、今後こういうやり取りも生まれてくのかな……とか。『マジで風呂の縁に立つの?』みたいな(笑)。

ケイタイモ:男の子は、バリバリ立っているし、風呂のお湯をがぶ飲みするよ。
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本人:飲むんだ!(笑)

ケイタイモ:1人目の育児は、とにかく不安だった。娘が寝ている横で、真っ暗な中、俺たち夫婦が買ってきた弁当を『シーッ!』って言いながら食べているとか。今考えると何やってたんだって感じだけどね。

本人:わかります! とくに寝返りを始めた頃の不安がヘビーで、眠っている間に息が止まっていたらどうしようと気が気じゃありませんでした。寝室にモニターをつけて、別部屋からiPadで解像度低い映像をズームにして、『お腹が動いている。生きているな』と何度も確認していました。

ケイタイモ:何があるかわからないからね。たとえばスタジオとかのオシャレな階段を降りるとき、階段と手すりまでの間に隙間なんかがあると『これは子供だったら落ちるな』と想像して思わずゾッとしたり……。そういうふうに物を見る目線が、自分の中に新たな尺度として生まれたのは感じています。

本人:子供が生まれると、家の中も完全に彼のための空間になっちゃうんですよね。アンパンマンをついに解禁したんですよ。自分のポリシー的に迎えない方向でいきたいと思っていたのに、彼が喜ぶもんだから……(笑)。今はリビング兼遊び場にグッズが転がっています。

パワーゲームより、グルーヴを生みだすことを重視


――お2人とも著書を読む限り、育児にずっと主体的に関わっている印象です。それでもパートナーを苛立たせてしまったことはあるんでしょうか?

ケイタイモ:苛立たせているのは今もです(笑)。

本人:私もです(笑)。

ケイタイモ:まさに昨日怒られました。今週ずっと子供がプール熱にかかっていたんですが、ちょっと症状が良くなってきたので、嫁さんが『今日は私が見るから外で仕事してきなよ』って言ってくれたんです。それで19時くらいに帰ってきたら、『遅い!』と叱られました(笑)。昔はそういうとき言い返していたんですが、今は結局それが無意味だとわかったんですよね。

本人:無意味とは?

ケイタイモ:言葉にすることによって、モノの輪郭がハッキリしすぎちゃうところがあると思うんです。『結局そういうことを言いたかったのか?』という方向に進んでしまうというか。心って常に変化していくものだから、それを言葉にしても仕方ないと思うようになりました。

――パートナーも育児疲れなどで不満を上手く言語化できない状態にあったとしたら、そこに言い返したところで余計な泥沼になっていきますよね。

ケイタイモ:俺が一番怖いのは、嫁さんの機嫌を損ねること。前に男友達が『嫁さんの言うことは素直にハイとやるようにしている。結局それでいいグルーヴが家族に生まれる』なんて話していたとき、そんなもんかねぇと思ったものだけど、確かに自分が言い返さないようにすると、嫁さんも『言いすぎたな』モードになるときがあって、衝突が減っていった。反論はナンセンスだと考えるようになってからは、むしろ嫁さんを上げるようにしています。

本人:そうか~!

ケイタイモ:あと、嫁さんに『こうだから、それはおかしい』なんて理屈で返していると、こっちが優位な感じになっちゃうでしょ? それを見て、子供の母親に対するリスペクトが薄れていくとしたら、絶対いかんなぁと思う。だからパワーゲームは無意味なんだよ。こっちが嫁さんの下にとにかく滑り込んでいく気持ちでいます(笑)。

本人:勉強になります……!

ケイタイモ:逆に俺は本人さんの本を読んで、料理を覚えてみる気持ちになりました。今まで料理をしたことはないけど、俺が料理を始めることによって、また回転し始めるグルーヴも絶対にあると思う。もちろんポイントを稼ぐって尺度もあるけど(笑)、家庭に新たなグルーヴを生むためにはありだなと考えているところです。
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仕事の忙しさでマウントを取る感じになるのは違う


――母親の大変さについての話はよく聞きますが、父親の大変さについての話はあまり聞かない気がします。『こうしておれは父になる(のか)』を読んで、妊娠・出産など、どうしても父親だとできないことがあるのも、またひとつの大変さなんじゃないかと感じました。『本人さんはやる気にあふれているのに、この場面はやれることがないんだ』と。

ケイタイモ:俺の一番好きなシーンは、まさに子供が生まれるとき、医師とか看護師とか全員がボルテージ上がっているのに、本人さんだけ何もできていないっていう(笑)。

本人:妻の肩を後ろから持って、クッソ泣いているだけでした(笑)。

――出産予定日の前夜は、なぜか同人誌の在庫をTwitterで売り始めたそうですね。

ケイタイモ:それも、なんかすごく共感できました(笑)。

本人:何もしようがないから、エネルギーの行き場がなくて、脳みそが空回りしちゃった感じなんですよね。
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――父親にとって、何もしようがないとき、どういう態度をとるかが大事なんだろうなと感じました。『何もすることがないから何もしない』という態度でも妻はイラッとするだろうし、無理に何かしようとしても邪魔ですし……。

本人:それは永遠のテーマだなぁ……。

ケイタイモ:結局は普段の態度だと思うんですよね。妻がイラッとするのは、段階を経て溜まってきている部分があるからで、『最近こうしてくれて助かる』とか『さっき、こんなことをしてくれた』と思い出せるものがあれば、怒りの臨界点には達しないと思うんです。ポイントって言い方は悪いけど、貯めておくとプラスに働くというか。こんなこと嫁さんに言ったら、めちゃくちゃ怒られるだろうけど(笑)。
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――でもわかります。ポイントが貯まっていない状態で、『実際やることないじゃん』と開き直られると確実に戦争が起きる……。

ケイタイモ:そうそう。ところで、本人さんは、『こういう状況だから自分もしんどい』とかは伝えたりします?

本人:『今は仕事がだいぶキツい』というのは共有するようにしています。ただ、圧倒的に大変なのは彼女なので、仕事の忙しさでマウントを取る感じになってしまうのは違うなと。

ケイタイモ:逆に俺は、嫁さんに対して、『こういう仕事が入るから頑張るね』的なニュアンスで伝えたつもりが、『忙しいから、後はよろしく』みたいに受け止められてしまって、『そんな呪いの言葉を言わないで』と長文メールで伝えられたことがある。だから難しい部分ではあるけど、仕事のことはあまり言わないようにしています。

本人:そうなんですよね。子供がちょっと咳をしていたりすると、これから仕事が忙しくなりそうだって伝えにくくなって……。子供の健康、妻の健康、自分の健康、全員の睡眠時間をどう確保していくかが本当に悩みどころです。
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今は、新しい父親像をそれぞれが探している時代


――こう言っては失礼ですが、おふたりとも、世の中にある多くの父親像とは違った雰囲気をしているような……。そんなおふたりが考える“父親”のイメージについて知りたいです。

ケイタイモ:うちの親父が亡くなる直前、一緒に食事しました。厳格な父親だったから、『音楽をやっていこうと思っている』と伝えても納得していない様子だったけど、食事の最後になって『頑張れよとまでは言わないけど』ということを言ってくれました。それがふたりで会った最後でしたね。自分の父親と、今こうして父親になった自分とは、全然別物の“父親”をやっている気がします。

――その中で、自分のロールモデルにしている父親像はあるんでしょうか?

ケイタイモ:そういえば、いないかもなぁ……。『こうはならないようにしよう』っていうモデルケースはいくらでもいるけど。

本人:むしろケイタさんが、ひとつのモデルになっていく気がしています。僕は子供が生まれる前から、威厳を感じさせる存在よりも、子供と近い目線で一緒に楽しむことができる父親になりたい気持ちがありました。子供たちと実直にコミュニケーションを取っていくケイタさんは、“お父ちゃん”として素敵だなと感じさせられます。

ケイタイモ:うちらの親父世代は、威厳を感じさせる方向に行っていたけど、俺には無理だと思ったんですよ。もしかすると、うちの親父も神経使って、そういう“父親”をやっていたのかもしれない。

本人:今は新しい父親像をそれぞれが探している時代なんでしょうね。はっきり意図しているかは別としても『威厳タイプじゃない父親像を作っていこうぜ』と考えている人が多いのは、他の父親たちとも話していて感じます。

ケイタイモ:確かに……。なんだかまだ話し足りないですよね? よければ、この後ファミレスでもいいから、もっと話しません?

本人:ぜひ!
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Profile
本人

都内在住の30代男性。さまざまなライブやフェスに足を運んで記録するインターネットユーザーとして人気を集めている。2019年8月、初めての妊娠、出産、子育てに家族で立ち向かった20カ月余りをつづった父親目線の育児実況ドキュメント『こうしておれは父になる(のか)』をイースト・プレスより出版した。

ケイタイモ

過去にBEAT CRUSADERS、現在はWUJA BIN BIN、ikanimo、HEAVENLY BOYS、ATOM ON SPHERE、須藤寿 GATALI ACOUSTIC SET、MUSIC FROM THE MARS、cooking songsなど色々な楽器を操り、様々な音楽シーンを行き来する演奏家/作曲家/イラストレーター。2018年よりInstagramにて連載開始した育児を中心としたコミックエッセイが注目を集め、2019年6月に『家も頑張れお父ちゃん!』(文藝春秋)として書籍化された。



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