若宮「信じられない」
獅子雄「事実は、信じ難いケースの方が多い」
若宮「嘘だろ」
獅子雄「死体は、歩かないんだよ」

11月4日(月)放送のドラマ『シャーロック』(フジテレビ系)第5話。

松門建設の営業部主任・町田卓夫(永井大)の部屋に、致死量を超える3リットルの血液が飛び散っていた。
血液は、町田と同じ建設会社の若手設計士・乾貴之(葉山奨之)のものだと判明する。しかし、死体はどこにもない。貴之は、10月25日を境に行方不明になっていた。
ディーン・フジオカ「シャーロック」岩田剛典「この男と僕の関係にもいつか終わりは訪れる」別れの予感5話
イラスト/まつもとりえこ

論理と感情を分断しない時代観


今回の監督は永山耕三。地面師詐欺を扱った第3話と同じ監督だ。「地面師詐欺」「パワハラ」と、社会問題をフックにした回を続けて担当している。

若宮「マジでやな奴だよな。もうあいつが犯人でいいくらいだよ」
獅子雄「危険な考えだ。どんな悪人でもやってない罪で裁かれるべきではない」
若宮「妙なこと言うなあ」
獅子雄「間違えは気持ちが悪い」

パワハラを指摘されても「あいつの誤解だよ。俺は可愛がってたの」という認識の町田。音声の証拠があっても、「あいつは俺を恨んでた。逆恨みしてたんだ」と歪んだ認知を平気で明かす(「逆恨み」と聞いたときの、獅子雄、若宮、江藤(佐々木蔵之介)の表情。心がひとつになっていた)。


若宮の「マジでやな奴だよな。もうあいつが犯人でいいくらいだよ」という思いは、もしSNSやニュース記事のコメント欄に書き込んだなら多くの賛同を得るだろう。ドラマの中でも、町田を「パワハラ大魔王」と叩く匿名掲示板がずいぶん盛り上がっていた。

獅子雄はそれに「危険な考えだ」と答える。倫理観からではない。「間違えは気持ち悪い」からだ。

インターネットの炎上や論争などでは、冷静で論理的なことが感情的なものより偉くて強いというルールを信じている人がしばしば目に留まる。獅子雄の意見は一見冷静で論理的。若宮の意見とはまた別な角度で持てはやされそうだ。しかし、その出所は「気持ち悪い」という感情だった。

若宮が熱く感情的で、獅子雄が冷静で論理的。そんなわかりやすい分断をしないところに、時代観が見える。


「愛する人が姿を消したとき、僕らは永遠に待ち続けてしまうんだ」


第5話では、獅子雄と若宮の別れを示唆する台詞がいくつか登場していた。

獅子雄「シマウマはいつもクヨクヨしていました。うんざりしたライオンは、どこかへ行ってしまいましたとさ。めでたし、めでたし」

若宮「命は死によって終わる。事件は真相がわかれば終わる。この男と僕の関係にも、いつか終わりは訪れる。それはどんな終わりなんだろう。少なくとも、幸せな結末ではない。そんな気がした」

ラストシーンで、すでに獅子雄との別れをイメージしている若宮のモノローグがあった。改めてこの回を見返すと、序盤の若宮のモノローグも気になる。

若宮「人は、心臓が止まったときに死んだと判断される。亡骸がなければ医学的にも死は認められない。
だから、愛する人が姿を消したとき、僕らは永遠に待ち続けてしまうんだ」

「誰でも別人になりたいと思う瞬間がある」(第2話)
「多くの人は、またいつか同じ勝負ができると思っている」(第4話)

「僕ら」「誰でも」「多くの人は」、若宮は精神科医という立場からか、自分を含めた人間全般のことを語る。「僕ら」とくくる言葉の中に獅子雄は含まれておらず、若宮が語るたびに被観察者である獅子雄の孤独が浮き上がってくる。

「愛する人が姿を消したとき、僕らは永遠に待ち続けてしまうんだ」という言葉。貴之の母親が死体を隠していたという事件の真相を、まだ知らないから出てきたとも取れる。でも、獅子雄の行方がわからなくなり、若宮がそれを待ち続ける姿もイメージできる。若宮の前にある日突然現れた獅子雄が、ある日突然いなくなってしまうことは想像に難くない。

今回、若宮は包帯の巻き方から、貴之の母・千沙子(若村麻由美)が元看護師であると気づき、獅子雄に評価されていた(若宮の言うことを素直に採用したのは、そういうことだろう)。それは実際、真相解明への大きな気づきだった。そんな近づきつつある二人に心温まる結末が用意されていないことを、第5話の時点で明言する潔さ。

クヨクヨしてばかりのシマウマを、食べずにその場を去ってしまう優しい孤独なライオン。「うんざりして食べる」ではなく「うんざりして去る」と言った獅子雄の言葉選びに、若宮への何らかの情を感じ取りたくなってしまう。

(むらたえりか)

=配信サイト=
FOD:https://fod.fujitv.co.jp/s/genre/drama/ser4l20/
TVer:https://tver.jp/corner/f0040635

=作品情報=
『シャーロック:アントールドストーリーズ』(フジテレビ系)
10月7日(月)スタート 毎週月曜21:00〜21:54
出演:ディーン・フジオカ、岩田剛典、山田真歩、ゆうたろう、佐々木蔵之介ほか
原作:アーサー・コナン・ドイル『シャーロック・ホームズ』シリーズ
脚本:井上由美子
プロデュース:太田大
音楽:菅野祐悟
オープニングテーマ:DEAN FUJIOKA「Searching For The Ghost」(A-Sketch)
主題歌:DEAN FUJIOKA「Shelly」(A-Sketch)
演出:西谷弘、野田悠介、永山耕三
制作著作:フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/sherlock/
編集部おすすめ