「スカーレット」38話。華麗、北村一輝のちゃぶ台返し
連続テレビ小説「スカーレット」38話。木俣冬の連続朝ドラレビューでエキレビ!毎日追いかけます

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連続テレビ小説「スカーレット」 
◯NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
◯BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~ 再放送 午後11時30分~
◯1週間まとめ放送 土曜9時30分~
「スカーレット」38話。華麗、北村一輝のちゃぶ台返し

『連続テレビ小説 スカーレット Part1 (1)』 (NHKドラマ・ガイド)

第7週「弟子にしてください!」38回(11月12日・火 放送 演出・小谷高義)


やっぱり「ええよぉ」だらけでなく、「えくないよぉ」があった。それをセリフで言われたわけではないし、予想外の出来事が。
喜美子(戸田恵梨香)の絵付けは単なる遊びと思われていたのだ。

本気でやるなら3年くらい無給、無休でつらい修業に耐えなくてはならないことを聞かされて、愕然となる喜美子。
そりゃそうだ。だからこそ「ええよぉ」だったのだ。よそ者には優しく身内には厳しい、それが世の道理である。
うまいこと行き過ぎる朝ドラあるあるを見事にちゃぶだい返し。作家の勝ち誇った顔が目に見えるようだ。


ちゃぶ台返し


そして、ほんとうにちゃぶ台返しもあった。
喜美子が絵付けをやって帰宅したその晩、常治(北村一輝)が飲んで帰ってきて風呂が沸いてないとわーわー言って、直子(桜庭ななみ)がキレて、さらにそれに怒った常治がちゃぶ台返しして、家のなかが荒れ放題になっていた。

喜美子の帰りが遅くなったせいで風呂は沸いてないは、待ちくたびれた直子と百合子(住田萌乃)が洗濯物をおもちゃにするは、喜美子がいないと生活がめちゃくちゃ……ってじゃあこの3年、どうしていたのだろうか。

風呂を沸かすのが苦手なのを嫌いと言ってだらだらしている直子はずっとだらだら風呂を沸かしていたのか。だとしたら常治が喜美子を待ちわびるのも無理はない。
お風呂沸かしてもらいながら父娘の語らいも、この3年はなかったのだろう。

直子はこの家の状況とそうさせている父が嫌いでたまらないようだ。
うんうん、わかるわかるぅ〜。これがふつうだろう。喜美子とマツ(富田靖子)が寛容というか従順過ぎるのだ。

しかも3年前より、常治がひどくなっている気がする。なんたってちゃぶ台返し。
それは時代の変化をも表しているのだろうか。
男、そして父(家長)が一番の時代が次第に変わりつつあるような。そのため余計に力を誇示したくなるような。

それにしても北村一輝、きれいに決めた。ちゃぶ台返しがうまかったのは、映画「自虐の詩」の阿部寛。

ハンドクリームとおしゃべり


風呂を炊いているときの喜美子の顔が、風呂の火でときどきちょっとだけ赤くなるけど、青暗い色味で、気持ちがちょっとブルーな感じがした。

その晩、マツがハンドクリームを塗りながら喜美子とおしゃべり。三姉妹の名前の由来を。

このハンドクリームは、さだ(羽野晶紀)がくれたものをお母ちゃんにあげようと大切にとっていたのだろう。
ハンドクリームの使い方がうまかったドラマは、橋部敦子が脚本を書いたドラマ「フリーター、家を買う。」(10年 原作:有川浩)。二宮和也演じる主人公が、浅野温子演じる母にハンドクリームを塗ってあげていた。

洗濯ものをたたむ行為とか、ハンドクリームを塗るとか、そういうアクションを描く作家は女性が多い。このようなちょっとした生活描写を朝ドラではときおり盛り込んでほしいものである。あ、そういうことあるよねーっていうようななにげない描写を思いつくことって脚本にしても演出にしても楽しいことではないだろうか。


翌日、喜美子が仕事のあとで絵付けを学ぶことは無理なので朝やらせてほしいと思ったが、前述のごとく、そんなに簡単なものではなかった。結局、芸術というのはものすごく無理して頑張れる人か、お金に困らない人しかやれないものなのだ。体力も財力もなく諦めざるを得ない人はたくさんいる。

面白いのは、家のしごとの大変さを荒木荘でいやというほど知ったはずの喜美子が、絵付けという芸術的な仕事に関しての想像力が働いてなかったことだ。こうして、家のしごとも、陶芸の仕事も、生半可では無理だということを学ぶのだろう。
なんだって仕事は遊びじゃない。

「遊びとちゃうねんで」と緑(西村亜矢子)も陶工たちに発破をかける。

彼女のやっている食事とお茶を出す仕事だって大変だ。八重子(宮川サキ)が、本来、緑とふたりでもやれる仕事にもかからず、なぜ喜美子が雇われたのか、ひとり辞めさせられるのではないかと思っていたと言い出す。社長の娘・照子(大島優子)のお友達はなにかと優遇されるわけで、そうじゃない人達にとっては戦々恐々だ。でも八重子はそれに対して意地悪を言うわけではなく、昼ごはんの後、一緒におしゃべりしようと誘うのだった。
ここにまた捻りがあって面白いのが、おばちゃんふたりは、姑や旦那の愚痴やなにげない話題で楽しく仲良くしようと言うのだが、たぶん、喜美子はこの人達と話題が合わないんじゃないだろうか。喜美子はあんまり嬉しそうな顔をしていない。
沈んで帰宅すると、ちや子(水野美紀)が訪ねて来ていて満面の笑顔に。
そう、喜美子はちや子との楽しいおしゃべりを知ってしまったから、もう後には戻れないのだろう。緑と八重子とも区別しないで仲良くしてほしい気はするけれど、話が合わないってこともやっぱりあるものだし、喜美子がどうするかとっても気になる。
(木俣冬 タイトルデザイン/まつもとりえこ)

登場人物のまとめとあらすじ (週の終わりに更新していきます)



●川原家
川原喜美子…戸田恵梨香 幼少期 川島夕空  主人公。空襲のとき妹の手を離してトラウマにしてしまったことを引きずっている。 絵がうまく金賞をとるほどの腕前。勉強もできる。とくに数学。学校の先生には進学を進められるが中学卒業後、大阪の荒木荘に就職する。やがて、美術学校に進学を考えるが、実家の経済事情の悪化により信楽に戻り、丸熊陶業で働くことになる。

川原常治…北村一輝 戦争や商売の失敗で何もかも失い、大阪から信楽にやってきた。気のいい家長だが、酒好きで、借金もある。にもかかわらず人助けをしてしまうお人好し。運送業を営んでいる。家に泥棒が入り、
喜美子の給料を前借りに行く。オート三輪を無理して買ったうえに捻挫して働けなくなって喜美子を呼び戻す。

川原マツ…富田靖子 地主の娘だったがなぜか常治と結婚。体が弱いらしく家事を喜美子の手伝いに頼っている。あまり子供の教育に熱心には見えない。
川原直子…桜庭ななみ 幼少期 やくわなつみ→安原琉那 川原家次女 空襲でこわい目にあってPTSDに苦しんでいる。それを理由にわがまま放題。東京に行きたいと思っている。
川原百合子…福田麻由子 幼少期 稲垣来泉→住田萌乃

●熊谷家
熊谷照子…大島優子 幼少期 横溝菜帆 信楽の大きな窯元の娘。「友達になってあげてもいい」が口癖で喜美子にやたら構う。兄が学徒動員で戦死しているため、家業を継がないといけない。婦人警官になりたかったが諦めた。高校生になっても友達がいないが、楽しげな様子を書いた手紙を大量に喜美子に送っている。喜美子とは幼いときキスした仲。高校卒業後、京都の短大に進学予定。

熊谷秀男…阪田マサノブ  信楽で最も大きな「丸熊陶業」の社長。
熊谷和歌子… 未知やすえ 照子の母

●大野家
大野信作…林遣都 幼少期 中村謙心 喜美子の同級生 体が弱い。高校で友達は照子だけだったが、ラブレターをもらう。いつの間にかモテるようになり、祖母の死以降、キャラ変する。高校卒業後は役所に就職する。

大野忠信…マギー 大野雑貨店の店主。信作の父。戦争時、常治に助けられてその恩返しに、信楽に川原一家を呼んでなにかと世話する。
大野陽子…財前直見 信作の母。川原一家に目をかける。

●滋賀で出会った人たち
慶乃川善…村上ショージ 丸熊陶業の陶工。陶芸家を目指していたが諦めて引退し草津へ引っ越す。喜美子に作品を「ゴミ」扱いされる。

草間宗一郎…佐藤隆太 大阪の闇市で常治に拾われる謎の旅人。医者の見立てでは「心に栄養が足りない」。戦時中は満州にいた。帰国の際、離れ離れになってしまった妻・里子の行方を探している。喜美子に柔道を教える。大阪に通訳の仕事で来たとき喜美子と再会。大阪には妻が別の男と結婚し店を営んでおり、離婚届を渡す。

工藤…福田転球  大阪から来た借金取り。  幼い子どもがいる。
本木…武蔵 大阪から来た借金取り。

…中川元喜  常治に雇われていたが、突然いなくなる。川原家のお金を盗んだ疑惑。
博之…請園裕太 常治に雇われていたが、突然いなくなる。川原家のお金を盗んだ疑惑。

城崎剛造…渋谷天外 丸熊陶業に呼ばれて来た絵付け師。気難しく、社長と反りが合わず辞める。
加山…田中章 丸熊陶業社員。
原下…杉森大祐 城崎の弟子。
八重子…宮川サキ 丸熊陶業で陶工の食事やお茶の世話をする。
…西村亜矢子 丸熊陶業で陶工の食事やお茶の世話をする。

深野心仙…イッセー尾形 

●大阪で出会った人たち
荒木さだ…羽野晶紀 荒木荘の大家。下着デザイナーでもある。マツの遠縁。
大久保のぶ子…三林京子 荒木荘の女中を長らく務めていた。喜美子を雇うことに反対するが、辛抱して彼女を一人前に鍛え上げたすえ、引退し娘の住む地へ引っ越す。女中の月給が安いのでストッキングの繕い物の内職をさせる。

酒田圭介…溝端淳平 荒木荘の下宿人で、医学生。妹を原因不明の病で亡くしている。喜美子に密かに恋されるが、あき子に一目惚れして、交際のすえ、荒木荘を出る。

庵堂ちや子…水野美紀 荒木荘の下宿人。新聞記者で不規則な生活をしていて、部屋も散らかっている。
田中雄太郎…木本武宏 荒木荘の下宿人。市役所をやめて俳優を目指すが、デビュー作「大阪ここにあり」以降、出演作がない。
静 マスター…オール阪神 喫茶店のマスター。静を休業し、歌える喫茶「さえずり」を新装開店した。

平田昭三…辻本茂雄 デイリー大阪編集長 バツイチ 喜美子の働きを気に入って、引き抜こうとする。
不況になって大手新聞社に引き抜かれた。

石ノ原…松木賢三 デイリー大阪記者
タク坊…マエチャン デイリー大阪記者
二ノ宮京子…木全晶子 荒木商事社員 下着ファッションショーに参加
千賀子…小原華 下着ファッションショーに参加
麻子…井上安世 下着ファッションショーに参加
珠子…津川マミ 下着ファッションショーに参加 
アケミ…あだち理絵子 道頓堀のキャバレーのホステス お化粧のアドバイザーとしてさだに呼ばれる。

泉田工業の会長・泉田庄一郎…芦屋雁三郎 あき子の父。荒木荘の前を犬のゴンを散歩させていた。
泉田あき子 …佐津川愛美 圭介に一目惚れされて交際をはじめる。

ジョージ富士川…西川貴教 「自由は不自由だ」がキメ台詞の人気芸術家。喜美子が通おうと思っている美術学校の特別講師。
草間里子…行平あい佳 草間と満州からの帰り生き別れ、別の男と大阪で飯屋を営んでいる。妊娠もしている。

あらすじ


第一週 昭和22年 喜美子9歳  家族で大阪から信楽に引っ越してくる。信楽焼と出会う。
第二週 昭和28年 喜美子15歳 中学を卒業し、大阪に就職する。
第三週 昭和28年 喜美子15歳 大阪の荒木荘で女中見習い。初任給1000円を仕送りする。
第四週 昭和30年 喜美子18歳 女中として一人前になり荒木荘を切り盛りする。
第五週 昭和30年秋から暮にかけて。喜美子、初恋と失恋。美術学校に行くことを決める。
第六週 昭和31年 喜美子、信楽に戻り、丸熊陶業で働きはじめる。

脚本:水橋文美江
演出:中島由貴、佐藤譲、鈴木航ほか
音楽:冬野ユミ
キャスト: 戸田恵梨香、北村一輝、富田靖子、桜庭ななみ、福田麻由子、佐藤隆太、大島優子、林 遣都、財前直見、水野美紀、溝端淳平ほか
語り:中條誠子アナウンサー
主題歌:Superfly「フレア」
制作統括:内田ゆき