
デビュー作から12年、原作キャラクターが憑依しているといわれる完璧な役作りで2.5次元舞台を演じ続ける俳優・鈴木拡樹。シーンを代表する『刀剣乱舞』をはじめ、さまざまな舞台で主演を務める。
大ブームを巻き起こしている2.5次元舞台だが、「シリーズとして続けていくには、来てくださる方への感謝をもって、先のことまで見据えなければいけない」と、座長としての苦労ものぞかせる。彼はリーダーとしてどのように舞台に臨んでいるのか。そして、テレビや映画への進出も著しい彼が、この先に目指す道までをじっくり語ってくれた。
編集/田上知枝(エキサイトニュース編集部)
ヘアメイク/AKI スタイリスト/中村美保
衣装協力/ジャケット、パンツ(TRANSIT UOMO/STOCKMAN TEL. 03-3796-6851)、タートルカットソー(wjk TEL. 03-6418-6279)、靴(Berwick TEL. 03-5638-9771)
「やりたい」という気持ちだけでは舞台は続けられない

――俳優デビュー作が、マンガ原作のテレビドラマ『風魔の小次郎』(2007年)。翌年には同作が舞台化され、舞台初出演作にもなりました。まだ“2.5次元”という言葉がなかったころから縁があったんですね。デビュー作を振り返ってみて、今、どんなことを思いますか?
鈴木:できないことも多かったですよね。それを課題にして、ひとつひとつクリアしてきた12年ですが、できないことに気付いたから続けられたのかなと思います。今、「たくさんの作品に関わりたい」という目標があるんですけれど、気付かなければそういうことも思わなかったかもしれないですね。
――多くの作品に出演されてきましたが、ご自身のターニングポイントといえる作品は何でしょう。
鈴木:初主演作でもある『最遊記歌劇伝』シリーズですね。2008年に1作目、2009年に2作目と続いて「シリーズ化できるな」と思っていたら、3作目をやるのに5年もかかってしまって。今年も6作目となる『最遊記歌劇伝―Darkness―』を上演することができましたが、「やりたい」という気持ちだけでは続かないんだなって改めて知った作品ですね。

――シリーズを続けていくというのは、座長(主演)としての大きな使命のひとつだと思います。現在ではほとんどの作品で座長を務めていらっしゃいますが、舞台における座長の役割とは何だとお考えですか?
鈴木:やるべきことは現場によって違うと思うのですが、共通しているのは、カーテンコールの一番最後に頭を下げるまでの責任を持つというところでしょうか。あとは、スタッフさんとの関係性とか、座組全体の空気作りっていうところも大きいのかな。
――主演舞台の時に必ずやられることはありますか?
鈴木:これは主演の時にしかやってないことなんですけれど、客席の拍手が鳴り止むまで、袖で頭を下げています。最後の一音までしっかり聴き逃さないように。それは、『最遊記歌劇伝』の教訓なんですよ。舞台は、続けること自体が難しい。お客さんが来てくれることへの感謝は忘れちゃいけないから。
リーダーは信頼されるだけではなく信頼することも大事

――舞台『刀剣乱舞』シリーズ(2016年の『虚伝 燃ゆる本能寺』から2019年までの6作中4作に出演)も続いてますよね。
鈴木:そうですね。続けばいいなと思って始めましたが、いまだに人気が継続できているのは、『刀剣乱舞』という作品の力自体も強かったんだと思います。
――女の子たちが、博物館に刀を見に行くという現象も起きていますし。
鈴木:そういう熱量が生まれたから、流行ったんですよね。舞台がスタートした時はまず、原作ゲームを好きな人に受け入れてもらうという目標があって、次に、まだゲームに触れたことのない方に知ってもらうって目標になった。この2つが上手く達成できたと感じたのが、2作目、3作目のころです。
――『刀剣乱舞』のようにシリーズ作での座長は、単発作品とはまた違う役割もあるのではないかと思うのですが。
鈴木:そうですね。先を見ることが大事になってきます。目標を立てなければ失速していくものなので。『刀剣乱舞』はゲームの制作チームと話し合って、一緒に目標を立てられた。それも、楽しかったですね。舞台チームは“戦う座組”と言っていたのですが、どちらかが転んでも駄目、両方がコンテンツとして生き残らなければという戦い方をしていました。

――人気コンテンツをけん引するリーダーに大切なこと、そして鈴木さんが、リーダーとして大切にしていることは何でしょう。
鈴木:これ、難しいんですよね。気張りすぎると絶対に失敗しちゃうので。自然であるってこともそうだけど、みんなの居心地をよくするってことでしょうか。
――鈴木さんは「気配りの人」と評されていますが、そこにはやはり、 気配りも?
鈴木:気付いたからといって、上手く回せるとは限らないんですよ。いろいろな事務所から、いろいろな世代の人間が集まって芝居をしているので。僕は自分から誘えるタイプではないので、交流を深めたい時は、付き合いの長いメンバーに「そろそろみんなで集まったほうがいいんじゃない?」って言って誘ってもらうんです。「自分で言えば?」って言われるけど、自分にできないことは、頼る(笑)。
リーダーにおいては、信頼されるだけではなくて信頼することも大事だと思うんです。自分が苦手な所をどこまで晒すことができて、それを受け止めてどこまで協力してもらえるかも重要なんじゃないかなと思います。
役になり切るために台本に書かれていない生い立ちまで掘り下げる

――鈴木さんは、「役へのなりきりがすごい!」といわれていますが、役になりきるために注力していることとは?
鈴木:役作りにおいては、その人を肯定してあげるということですね。例えば、殺人鬼の役を与えられたら、殺人はよくないと思っていても、自分だけはその人(役)のことを肯定してあげなければいけない。演じていて「殺したい!」って気持ちになる時は、理解力がおよんでるのかなって思います。
そのためには、台本になくても、小さい頃の生い立ちから考えて、どういう思いをしてきたのかってことに思いを巡らせます。実際に演じていて、それがちゃんと昔の記憶として蘇るように。なので役作りにおいては、事前にやっておくこともあるのかなと思っています。
――シンクロしていくってことですね。
鈴木:納得できるところが多い時は、ストレスなしに演じられるんです。


――そうなると上演中は、役が抜けないんじゃないですか?
鈴木:僕は引きずられないタイプだと思ってたんですけれど、女性の役をやっているとき、気付いたら電車の中で内股で座ってました。出てる時もあるんだなって(笑)。
――ビジュアル面も、毎回「そっくり!」と言われますが。
鈴木:これはですね……、メイクさんと衣装さんの力なんです(笑)。初期のころはビジュアルを原作に寄せることに注力していましたが、今は、「2.5次元って言葉がヒントだな」と感じていて。もっと3次元に寄っているものがあってもいいのかなって、考えの幅が広がりました。ビジュアル解禁の時に「似てる」って褒められるのは、チーム力の勝利だと思います。チームの努力の賜物だってことを知ってほしいですね。
舞台の仕事が決まるのはホームな感じがして嬉しい

――舞台『刀剣乱舞』は映画にもなりましたが、舞台と映像では表現方法も変わると思うのですが、どんな違いがあるのでしょう。
鈴木:完成作を見ると、息遣いは舞台よりも映像の方がリアルに感じますよね。でも、撮っている時ってぜんぜんリアルじゃないんですよ。同じシーンなのに一度止めてからもう一度やったり、何だったら撮っている日にちも違ったりして。
収まる画角を考えることも大事なんだけれど、舞台のサイズに慣れている人間からすると、なんか慣れない(笑)。でも、慣れないからこそ、映像には興味がありますね。

――2020年は地上波初主演ドラマ『カフカの東京絶望日記』の劇場特別版、そして映画『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』の2本の公開がすでに決まっています。今後は映像のお仕事が増えていくのでしょうか?
鈴木:いろんなことに挑戦する年が続いて、悩むこともありましたが、舞台の仕事が決まるのは嬉しいんです。ホームな感じがして(笑)。「ホームに帰ってくるとめちゃくちゃ楽しい!」って改めて気付かされました。やっぱり演劇の生の迫力にやられてスタートした人間なので、苦労しても楽しいって思える最高の現場ですね。


――ファンにはすごく嬉しい言葉だと思います。「好きな2.5次元俳優ランキング」では毎回上位にランクインして、2019年は雑誌『AERA』の表紙も飾りました。この注目をどのように受け止めていらっしゃいますか?
鈴木:ありがたいです。そのおかげで、こうやっていろいろ取材もしていただけて(笑)。もっと2.5次元のことを世の中に知ってほしいんですよね。代表者でも何でもないんですけれど、ここまで2.5次元の話をしたいなって思えるのは、デビュー作もそうだったという恩もありますし、その中で育ってきたひとりなので。これからも出られるものがあるのであれば、やっぱり2.5次元に貢献できるような形で携わっていきたいです。
それに、20代、10代の次世代の役者さんがたくさん出てきていますから、そういう人たちが今後10年で、このシーンをどうやって引っぱっていってくれるのかもすごく楽しみですね。
2019年は改めて舞台が面白いなと思えた年 やり残したことはない

――ここまでお仕事のことを伺ってきましたが、鈴木さんご自身のことを少し伺いたいと思います。子どもの頃はどんな子どもでしたか?
鈴木:小学校に上がるまでは男の子の友達がいなくて、4つ上の姉と、姉の友達と遊ぶことが多かったですね。当時は女の子としか遊んだことがなかったから、男の子とどうやって遊んだらいいのかわからなかったんです(笑)。小学校になると男友達ができて、サッカーをしたりバスケをしたり。友達の家に行ってゲームをするのにもハマりました。
――素の鈴木さんはどんな人ですか?
鈴木:ひとことで言うと、不器用ですね。初めてやることを一発でできたことがない(笑)。でもそれがわかっているから、できなくても落ち込むのではなく、前を向くことにしています。できないんだったら何を勉強すればいいのか考えたり、それはできなくても違うことができるかもしれないって考えたり。その時にできることを考えるようになりました。自分のペースで成長していくのが大事ですよね。
――“チャレンジを続ける”というのは、そういう考えも影響しているんですね。
鈴木:そうですね。でもそういう気持ちを強くさせてもらったのは、この仕事に就いたからだと思います。

――2019年はどんな年でしたか?
鈴木:改めて舞台が面白いなと思えた年でした。さまざまなことを発表するごとに大きな反響があった年でしたし。やり残したことは、今のところないです。過ぎてから気づくものだから、取り返せそうだったら取り返そうかなと(笑)。
――2020年はどんな年にしたいですか?
鈴木:子供っぽいかもしれないけれど……、「楽しくするぞ!」って思っています。実は僕は歌が苦手で、ミュージカルの主演がほぼなくて(笑)。それなのに、なぜ来年最初の作品にミュージカル『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』を選んだのかというと、すごく楽しい世界観のお話だから。楽しんでいる様子を表現することが大事な作品なので、良い機会をいただいたと思っています。1年を楽しくするための最初の作品なので、絶対に楽しく成功させて、2020年も楽しみたいですね。

スズキヒロキ
1985年6月4日生まれ、大阪府出身。2007年、テレビドラマ『風魔の小次郎』で俳優デビュー。初主演作は2008年に上演された『最遊記歌劇伝』シリーズ。以降、舞台を中心に精力的に活動。大人気2.5次元舞台『刀剣乱舞』シリーズでは、三日月宗近役で6作中4作に出演した。
2020年は2月21日から全国東宝系で公開される映画『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼 』(主演:千葉雄大)への出演が決定しているほか、3月には三浦宏規とWキャストでミュージカル『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』(日比谷・シアタークリエほか)に臨む。