「全力!脱力タイムズ」10年ぶり復活のアンタッチャブルがアンタッチャブルだったことをご報告
「井上マサキのテレビっ子からご報告があります」第20回。ライターでテレビっ子の井上マサキでございます。この連載は日々テレビを見ていて気になった細かいこと、今のアレってアレなんじゃないのと思ったことを、週報代わりにご報告できればと思っております。どうぞよろしくお願いします。

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テレビの前でひっくり返った。何度も何度も「マジか!」と叫んだ。
11月29日放送『全力!脱力タイムズ』。視聴者には完全なサプライズで、アンタッチャブルが10年ぶりに復活した……!

未見の方はとにかく見逃し配信(TVer)を見ていただきたい。時間がない方は開始から20分のところからスタートしていただいて構わない。10年ぶりにテレビに並んだ2人の、打合せ無しの即興漫才が、あんなに見事な呼吸で行われた奇跡に震えていただきたい……!
「全力!脱力タイムズ」10年ぶり復活のアンタッチャブルがアンタッチャブルだったことをご報告
DVD『M-1グランプリ2004』

9割の「そんなわけない」と1割の「もしかして」


もう気持ち的にはさっきのところで原稿を終わってもいいくらい満たされているのだけど、そういうわけにもいかないのでちゃんと振り返ろう。

『全力!脱力タイムズ』は、報道番組の顔をしたコント番組だ。ゲストの芸人だけが先の展開を全く知らず、MCのアリタ哲平(有田哲平)や解説員たちに翻弄され、ヘトヘトになるまでツッコミ、無茶ぶりに慌て、汗をかきまくる。

そのひとつのパターンに、特集が終わったあと「相方とネタを披露」というくだりがある。
もうひとりのゲストが「○○(コンビ名)のファン」と言い出し、有田が「ということで今日は相方さんを呼んでます」と呼び込む。でも入ってくるのは全然違う人。それでも相方としてネタをやりきらないといけない。

この日の『全力!脱力タイムズ』は新木優子とアンタッチャブル柴田英嗣がゲスト。柴田は過去3回「相方が来ています」と言われてきた。でもそのたびにやってきたのはバービー、ハリウッドザコシショウ、コウメ太夫だった。


アンタッチャブルは2010年に柴田が1年間芸能活動を休止して以来、コンビでのテレビ出演がない。『脱力タイムズ』の視聴者は、柴田がゲスト出演するたびに「まさかザキヤマ(山崎弘也)が来るわけがない」と9割思いつつ、「でももしかしたら来るかも」と1割期待し、その1割を裏切られてきた。

でも、決して単純に裏切られたわけではない。柴田はどんな相方が来ても即興で切り返し、必ず笑いに変えてくれた。そのツッコミの腕の確かさに、惚れ惚れする時間でもあったのだ。

どんな相方でもツッコむ柴田の「優しさ」


で、今回である。番組後半、新木優子が「アンタッチャブルのファン」だと言い出す。
せっかくだから見たいですねぇ、という展開に、柴田は「怖い怖い怖い!」「(ザキヤマが)出てくるわけないんだから!」と過去のトラウマがよみがえる。それでもアリタが「いよいよ本物のザキヤマさんをお呼びしました!」と振る。幕が開く。

奥から出てきたのは、ザキヤマの格好をした小手伸也だった。

フォルムだけなら超そっくりである。「来る〜」を繰り出すし、エアでフリスクを食べて柴田にツッコまれる。
これは期待できそう、とセンターマイクの前に立ち、アンタッチャブルのネタ「ファーストフード店」を始めるも、小手は途中でネタを飛ばして無言になってしまう……。

後からわかるが、実は「ネタが飛ぶ」のは予定していた演技。だが小手の演技がリアルなので、柴田は「自由なこと言ってくれればいいです」「ファーストフードじゃなくてもお好きなお店でいいです。入ってみます」と、ちゃんとフォローする。優しい……。

だが、やっぱり小手伸也はうまく漫才ができない。
「ドラマの合間に来たので……」と消極的なことまで言うので、アリタ哲平は「中途半端な気持ちでやるんだったら帰ってください!」と小手を追い出す。すっかり冷えきった空気のスタジオ。「そこまで言わなくてもいいんじゃないですか?」と混ぜ返す解説員たち。ここで柴田は「もう一回やりますか?」と自分から言う。空気に任せないで、自分からオチに向かおうとする。

申し出を受けて、アリタも「俺も言い過ぎたわ」と反省。
「小手さん!」とスタジオの奥に小手伸也を呼びに行く。アリタを待っているあいだ、「そんな番組じゃないんだからさ!楽しくやってる番組なんだから」「汗びっしょりかいてさ、楽しく帰ればいいじゃん?」と、センターマイクの前で独りごちる柴田。

そこにアリタが連れてきた「小手さん」は……なんとザキヤマ本人! その姿を見た柴田は「ウワーーーーー!!!!!」とセンターマイクを抱えたまま倒れ込んだ。

完璧すぎる「10年ぶりの即興漫才」


「ダメだってお前!バカ!違うって!マジで!?」と混乱し絶叫する柴田。エアでフリスクを食べるザキヤマに「エアフリスクしてるし!」と再会後5秒でツッコミを入れる。

設定上ザキヤマはあくまで「小手さん」なので「さっきはすいませんでした」と謝っているが、柴田は「ちょっとホントに!? この番組でやるの!?」と、これからザキヤマと漫才をすることを把握。「ヨッシャー!」と抱えていたセンターマイクを床に突き立て、ジャケットを脱ぎ捨て、ザキヤマに向けて「ありがとうございます!」と90度でお辞儀。「それではアンタッチャブルさんの漫才です、どうぞ!」とアリタが振る……!

ツカミでザキヤマは「さっき加藤さんもおっしゃったように〜」と柴田の名前を間違えた。よりによって元妻の不倫相手の苗字。瞬時に反応してツッコむ柴田。アンタッチャブルが漫才をやるのは約10年ぶりで、サプライズだからぶっつけ本番のはずなのに。

ザキヤマは持ちネタの「ファーストフード店」に入ろうとするが、ネタ振りの時点で何度もボケを入れてくる。もう十分だろう、と判断した柴田は「いいかげんにしろ、どうもありがとう……」と終わらせようとするが、ザキヤマは柴田の腕をつかみ「いやいやまだ終わりませんけど?」と引き戻す。10年ぶりの漫才を、ちゃんと最後までやるつもりだ。

ここから先を書き起こすのは野暮なので、ぜひ見逃し配信(TVer)を見てもらいたい。ネタをなぞりながら、躊躇無くアドリブを放り込むザキヤマ。どんな細部も見逃さず、徹底的にボケを拾う柴田。10年のブランクを経て、しかも即興で、アンタッチャブルがアンタッチャブルのまま仕上がっている。こんなことあるだろうか。

途中、柴田が笑いをこらえきれず倒れ込むところがある。「お時間かかりますんで、こちらの6番の番号ジャケットを着てお待ちください」「札とかねぇかな!?」「できましたら大声で呼びますんで」というくだり。このあと本来は「そこのメガネの方〜」「番号で呼べ!」と続くのだが、ザキヤマは「おい!!できたぞ!」と本当に大声で呼んだのだ。

床に手をつき、「なんで猪木イズム……(笑)」とヒイヒイ笑う柴田。よく見るとザキヤマも「おい!」と「できたぞ!」のあいだでニヤリと笑っている。

誰よりも2人が漫才を楽しんでいる。そのことに嬉しくなってしまう。漫才を終え、柴田はカメラに向かって所属事務所の名を叫んだ。

柴田「マジで今後はどうなるんですか?人力舎ー!おい人力舎!!山崎が出てきてるぞ!オイ!」

ちなみに有田哲平と山崎弘也は、若手のころ同じマンションに住んでおり、有田は山崎をずっと可愛がってきた。その有田が山崎の手を引いてスタジオに入ってくる様子は、まるで保護者が子どもを連れてくるようにも見えた。止まっていたアンタッチャブルの時計を、有田が再び動かしたのかもしれない。

もうこうなったら『THE MANZAI』も『ENGEIグランプリ』も『検索ちゃんネタ祭り』も出てほしいし、各局のバラエティ番組を一周してほしい。出てほしい番組いっぱいある。アンタッチャブルが帰ってきた……!


11月29日放送『全力!脱力タイムズ』
見逃し配信(TVer
(井上マサキ タイトルデザイン/まつもとりえこ)