「岡野陽一のオジスタグラム」25回。初対面のおじさんを笑顔にする魔法の言葉を教えよう

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「岡野陽一のオジスタグラム」25回。初対面のおじさんを笑顔にする魔法の言葉を教えよう
どうも遅延里奈です!
ほんとにすみませんでした!
どうかひとつ宜しくお願い致します


先日、京都で大口の友人の結婚式があった。

10年くらいお金を借りていて、今年の初めに結婚するとゆう事で、三鷹の大口の友人への借り替えにより、完済した三重の大口の友人だ。

昔に涙腺をどぶに捨てた僕は、泣きこそしなかったが、債権者様の幸せはこんなにも債務者にとって嬉しいものなのかと思える最高に幸せな結婚式だった。
自分みたいなうんこを運ぶだけの生き物にお金を貸してくれた人には、絶対に幸せになって貰う。

「貸す前よりも幸せに」

をスローガンにお金を借りてる僕は、全く僕のお陰とかではないのだが、債権者様夫妻の幸せな顔が本当に嬉しかったのだ。
もしかしたらずっと心のどこかで、自分が借りてたせいで債権者様が不幸になったらどうしよう?
とゆう不安があったからかもしれない。
その振り幅の分、嬉しかったのだろう。
恐らく新郎新婦よりも僕の方が嬉しかったんじゃないだろうか。 

こんなに幸せな気持ちになるなら、もっと多くの人にお金を借りたい。
未婚の人にお金を借りたい。
そして、完済して結婚式に行きたい。
とにかくそう思える最高の式だったのだ。

何一つ懐かしくない


しかし問題はその後だ。

14時くらいに披露宴を終え、夜に新郎新婦とちょっと飲んで東京に帰る予定だったので、それまで、高校大学と一緒の親友の稲垣君と時間を潰す。

「オジスタグラム」第20回でも登場した「5万円貸したら1000万円くれる詐欺」に僕と一緒に引っ掛かったでお馴染みのあの稲垣君だ。

時の流れとは早いもので、そんな詐欺垣君ももう二児の父になっていた。
子供には何してもいいけど、詐欺だけはするなとゆう教育をしてるらしい。

稲垣君と懐かしい話をしながら、京都の中心地、四条河原町を歩く。
しかし、街を歩くにつれ僕は徐々に違和感を覚える。
何一つ懐かしくないのだ。
18歳から24歳までの6年間を過ごした街である。
そりゃ10年も経てば、街のつくりも変わるが、そんなレベルではない。
全くもって、知らない街なのだ。

「え? こんなんだったけ?」
「ほら、この店とかあったやん?」
「え?」

稲垣君は懐かしんでいる。

最初は全然覚えてねぇなー! と笑っていたのだが、ここまで覚えていないと怖くなってくる。
確かに思い返して見ると、僕の京都時代は一番パチンコに支配されていた時代、眼球がパチンコ玉の時期だ。
大袈裟ではなく、365日パチンコ屋にいた。

しかし、さすがに四条河原町で何度も飲んだ事もあるし、コンパもしたし、服なんて買った事もある。

なんでだ? おじさんは記憶を10年分しか遡れないのか? それともこの6年間だけ記憶喪失なのか?
え? そもそも京都に住んでたのか?

「懐かしいなぁ~。ここ曲がると映画館のとこだ、ほら。俺さ、ここで昔さぁ…」

稲垣君は京都を満喫してる。
僕も懐かしいって言いたい……。

デマッセに行こう


僕が記憶喪失なのか知るにはあの方法しかない。

「稲垣、デマッセに行こう」

僕が京都で6年間通い詰めたパチンコ屋デマッセ大宮店に行けば全てがわかる。

タクシーに乗り込み、行き先を伝える。
店がまだある事を知り一安心する。
しかし、目的地が近づいてきても、何にも思い出せない。
少なくとも1500回以上は通った道のはずだ。往復3000回。これは本当に記憶喪失の可能性も出てきた。


遠くに緑のネオンが見えてくる。
怖い。怖い。どうしよう……。もう前を見れない。

「はい、ここですね。1280円です」

下を向いたまま料金を払い、目を閉じたままタクシーをおりる。
恐る恐る目を開け、顔をあげる。

「稲垣よ……」
「デマッセだ!デマッセだー!!懐かしいー!!」
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当時の記憶が驚くべき速度と鮮明さで蘇る。
残り1000円から20万勝ったあの日、全財産500円握りしめて羽根物に並んで1分で帰ったあの日、義足で台をキープするおじさん……。

中に入ると当時のような賑わいはなかったが、まだまだ客もついている。
このパチンコの厳しい時代を生き抜いてくれてる事に、どぶに捨てたはずの涙腺から涙が溢れだす。


ありがとう!デマッセ! 本当にありがとう!
やっぱり僕は18年前ここにいたんだ!
記憶喪失なんかじゃなかったんだ!ここしか行ってなかっただけなんだ!

うおー!!!

謎の感動も味わえたいい一日だった。
デマッセと新郎新婦の末永い幸せを願う。
「岡野陽一のオジスタグラム」25回。初対面のおじさんを笑顔にする魔法の言葉を教えよう

マークしていたおじさん


さてさて、最近枕の話が長くなってしまい申し訳ない。

さてさて、こんな日にはショートオジスタグラムといきましょう。

本日のおじさんは豊さん。
58歳くらいに見える、恰幅のいい58歳のおじさんだ。
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豊さんは僕がよく行く居酒屋の常連さんで、いつか声をかけようとマークしていたおじさんである。
周りの人が言ってるのを聞いて、話した事はないが豊さんとゆう名前だけは知っていた。
なかなか声をかけるタイミングがなかったのだが、先日帰り道に偶然豊さんがその店に入っていくところを見かけ、いてもたってもいられなくて気付くと僕は後を追っていた。

こうやって活字にすると、裁判の記録みたいに見えるがこれはオジスタグラムだ。
豊さんも僕もギリ犯罪者ではない。

豊さんの座ってるカウンターの二つ隣くらいに座ることに成功した僕は、とりあえず瓶ビールを頼み、メニューを凄く眺めて初めて来た人のふりをする。
そして僕が新規だとわからせて、いいタイミングで豊さんにこう聞くのだ。


「すみません、常連さんですか?」と。

その後は何でもいい。オススメのメニューを聞いてもいいし、何年通ってるか聞いてもいい。
最初のこの言葉が大事なのだ。
決してふざけている訳ではない。
常連でも何でもない人にこれを言っても、
「あ、違います」
って言われるだけだが、常連さんの前ではこの言葉は絶大だ。
「いやいや、常連って訳じゃないけど~」と、照れながら言う人もいるし、
「まぁ週6で通ってるから常連ちゃあ常連か。店長よりも通ってるもんな?」
と、周りを巻き込む事もある。

常に通って来た事を認められたとゆう喜びなのか何かはわからないが、どちらにしろ常連さんに常連さんですか?と言って悪く転ぶ事はない。

信じられない……


メニューを参考書のように読みながら、横目で豊さんを見る。

うむうむ、見ている見ている。
常連心をくすぐっている。

ここだ!

「すみません、常連さんですか?」
「……あ、違います」

信じられない……。

この人、豊さんじゃない……。
喋った事のない豊さんに似た、もっと喋った事のないおじさんだ。

よく見たら似てもいない気もしてきた。
いつもの店に恰幅のいいおじさんが入ったから決めつけてしまった。
僕は知らないおじさんをずっと尾行していたのだ。
もうこれは犯罪かもしれない。

「……」
「…………」
「あ、すいません!凄く常連さんぽい雰囲気だったので」
「いえいえ。あっ、お会計お願いします」
「あ、ごめんなさいほんとに」
「いやいや、元からこの後予定あって一杯だけの予定だったので」
「あ、そうですか」
「では」

人生と失敗はセット


常連でもない人に常連ですか? とゆう質問をしたのだから当然だ。
凄く常連さんぽい雰囲気だったので。とゆう謎のフォローが恥ずかしい。

その後、僕はすぐ店を出た。
人生と失敗はセットである。

皆様はこの反省を生かし、不用意に常連さんですか? と聞かないでくれたらそれでいい。
そして、確定常連には一度試して見て欲しい

とにかく知らないおじさん本当にごめんなさい。
そして、これに懲りずに豊さんは引き続きマークして行こうと思う。
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(イラストと文/岡野陽一 タイトルデザイン/まつもとりえこ)
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