HYDE “良き理解者”とつくり上げた狂騒のライヴをもって、『ANTI』ここに完結――
撮影/岡田貴之、田中和子

HYDE LIVE 2019 ANTI FINAL

2019.12.08(SUN) at 千葉・幕張メッセ国際展示場4~6ホール


「SET IN STONE」のショッキングな幕切れに思わず声を上げそうに


HYDEが最新アルバム『ANTI』を携え6月にスタートしたツアーが、アメリカ・ツアーを経て12月7日(土)・8日(日)、幕張メッセ国際展示場4~6ホールにて凱旋公演。『HYDE LIVE 2019 ANTI FINAL』と題したファイナル2デイズのうち、本レポートでは最終日8日(日)の詳細をお届けする。

黒地に蛇と赤い林檎のロゴが描かれた幕に「16:60:00」と時刻が示され、デジタルビートのSEに乗せてカウントアップ。
5秒前からは観客も声を出して数え、HYDEお馴染みの定刻666(17:06)を迎えた瞬間、幕が下りて映し出されたのは、妖しく青味がかった夜の街。近未来のようでありながらノスタルジックな匂いも漂うビル群である。

あちこちに炎が燃え立つ中、「This is Neo Tokyo」と警報のようなアナウンスが繰り返され、マスクで顔を覆ったメンバーたちの姿が闇に不気味に浮かび上がる。スリリングなムードの中、重々しく鳴り始めたのは「WHO'S GONNA SAVE US」のイントロ。天から射し込む光のようなスポットを浴びたHYDEは、パトカーのボンネットに腰を下ろし抑制的に歌い出した。

顔の右半分を覆う黒い仮面、輝く淡いブロンド、唇から大きくはみ出した深紅のリップ。やがて立ち上がると、全身から怒りと悲しみを迸らせるような、息も絶えんばかりの渾身の絶唱を響かせる。ラウドなバンド・サウンドと情緒的なメロディー、緩急を自在に操るエモーショナルな歌声。映画の世界に迷い込み、ダークヒーローの覚醒の瞬間を目撃したような、HYDEの築き上げたライヴ空間に深く引き込まれるオープニングだった。

「さあさあさあ、やっちまおうぜ、幕張!」とHYDEは煽り、「AFTER LIGHT」へ。激しく髪を振り乱し、パトカーから降りてセンターへと歩み出る。大きく両手を広げた姿は、オーディエンスの大合唱を指揮するというよりは、すべての声を漏らさず受け止めよう、というコミュニケーションのためのアクションに見えた。
艶めいた声色は荒々しく変化していき、狂気を帯びた高らかな笑い声で締め括る。ブラックライトでマスクは青白く、浮かび上がり、まるでモンスターのように見えた。

HYDE “良き理解者”とつくり上げた狂騒のライヴをもって、『ANTI』ここに完結――
撮影/岡田貴之、田中和子

「FAKE DIVINE」の浮遊感あるギターフレーズが響き始めると、HYDEはフェザータッチと呼びたいほど柔らかく歌い始めたが、サビでは急変、激情を解き放つ。喉の奥をこするような異音を織り交ぜた、凄みのあるヴォーカリゼーション。刻々と声の表情を変えていく圧巻の歌唱に、息を呑むばかりだった。

「Ladies&Gentlemen、ようこそ“ANTI FINAL”へ! 今日は楽しみでしょうがない。俺の観たことないの、観られるんでしょ? 俺たちでつくってきたよな?」とHYDEはオーディエンスに注意喚起。するとステージから降り、フロアを進んでいきながら、激しく上半身を揺らしつつ「INSIDE OF ME」を歌唱。ハードコア・パンク、ミクスチャー系の屈強なバンドマンのそのような姿は観たことがあるものの、まさか……と、驚きが心に広がるのを禁じ得ない。「カモン!」と呼び掛けしばしば観客の歌声を求めながら、不安定な体勢で歌い遂げたHYDEの全身から、並々ならぬ気迫が伝わって来たのだった。

ステージへ戻ると、次はVAMPSの「DEVIL SIDE」を披露。左右の端まで行き来して動き回り、美しいファルセットを交えながら歌唱した。
間髪入れず「TWO FACE」が始まると、HYDEはマスクを外し、挑むような鋭い眼差しが最大限に強調される。グリーンと赤の光の中、崩れ落ちるように頭を下げていたかと思えば、終盤では再び立ち上がって、全身で音楽を表現するのだった。

雨音が響き渡ると、ステージには雨が降り出し、カンカン!と耳をつんざくような金属音、サイレンが響き、パトランプが点滅。恐怖と不安が生じたところへ、軍帽をかぶりフラッグを括りつけたマイクスタンドを背負うHYDEが登場、「SET IN STONE」を歌い始めた。目は虚ろに青く光り、先ほどまでとは人格が変わったかのように、動きがスローになっている。朗々と歌い上げた末、サビで突如儚げで危うげな声色に切り替わった途端、意表を突かれると同時にグッと引き込まれた。次の瞬間には再び力むように声の圧を高めていき、重厚なバンド・アンサンブルと歩幅を合わせるようにしてピークに達する。シンセの音色のみに切り替わり、目を閉じて柔らかく歌った後、フラッグを投げ捨ててラストへ。ハンドマイクを銃に見立てゆっくりと狙いを定めるように左右に泳がせた後、最後は自らの口へ突っ込むと、銃声が鳴り響く。ショッキングな幕切れに思わず声を上げそうになった。

HYDE “良き理解者”とつくり上げた狂騒のライヴをもって、『ANTI』ここに完結――
撮影/岡田貴之、田中和子

真っ暗になった無音の会場。衝撃の余波が消えない中、オレンジと赤の光が天井から差すふもとにはhico(Key)が佇み、詩的な分散和音の音色をピアノで奏で始めていく。
哀切を帯びたノスタルジックなフレーズに時折、宇宙との交信音を傍受したかのような機械音が紛れ込み、過去と未来が混然一体となったような音のカオスに心地よく酔った。

それらが鳴り止んだ瞬間、木漏れ日のようなピンスポットを浴びてHYDEが歌い始めたのは「ZIPANG」。漆器の艶のごときしっとりとしたピアノ演奏に、HYDEの叙情的な歌唱が絡み合う。澄み渡った凛とした歌声、内なる炎に身を焦がすような荒々しい歌声、時空の彼方へ届けようと挑むような叫び声に近い歌声……<映せりや 今も>と結ぶ潤んだような歌声は、虚空を見つめる眼差しと共に物問いたげで、深い余韻を残したのだった。

演者とオーディエンスの心からの信頼関係が生んだ圧倒的な光景


HYDE “良き理解者”とつくり上げた狂騒のライヴをもって、『ANTI』ここに完結――
撮影/岡田貴之、田中和子

夢見心地でいたところへ、空気を切り裂くように鳴り響いたのはひずんだギターの音色。PABLOが一弾きするごとに掛け声が飛び、束の間ではあったがコール・アンド・レスポンスのような温かい空気が生まれたのも、バンドとファンとの関係性の表れだろう。やがてギターリフから「OUT」へと突入すると、HYDEは軍帽を目深にかぶってフラッグを手に挑発的な声色で歌唱。ジャンプを繰り返し求め、「幕張!」と歌に盛り込みながら、自らもリズムに乗せて身を揺らす。

「幕張どうよ? 楽しんでる? すごくいい眺め」とフロアを見渡すと、「『ANTI』が出て半年経ったんだけどね、こんなに愛されるとは。最終日、一番すごい形をつくってあげないと、かわいそうでしょ?」「『ANTI』ってアルバムは招待状みたいなもので、君たちが来て初めて完成する。中途半端な盛り上がりじゃ困る。俺たちが『ANTI』を完成させようぜ!」とカメラに顔を近付け、「やれるか、幕張?」と煽って「MAD QUALIA」へ。楔をビシビシと打ち込むようなアグレッシヴなバンド・アンサンブル。
HYDEの頭上に帽子はもう無い。

ステージの床に仰向けになってマイクを握り締め、熱唱。「さあさあ、幕張。態度で示してくれよ」と再びフロアへと分け入って、「今日は『ANTI』の集大成を見てぇんだよな? 俺たち今まで何して来たんだ? 今日見せないでいつ見せんの?」などと観客を煽り続け、3、2、1の合図でウォール・オブ・デスが巻き起こる。フロアはすさまじい様相を呈していたが、「叫べ、幕張!」「I can't hear you」とまだなおHYDEは求め、煽るのを止めなかった。命の限り、とでもいうような迫真の叫びを轟かせて、HYDEはステージへと戻り「良かったよ、幕張」とオーディエンスを讃えた。

炎が絶え間なく噴出しスモークが焚かれる中、拡声器を手にパトカーの上で「SICK」を歌うHYDE。続く「DON'T HOLD BACK」は赤いライトの中髪をかき上げ、伏し目がちに柔らかく歌い始めた。かと思いきや、狂気的な荒々しさを暴発させ、軽やかに身を翻す。激しく打ち鳴らされるバンド演奏は、やがて拍子の感覚を見失うようなカオスを呈し、HYDEの動きも意識的なパフォーマンスというより魔物が憑依したかのような、制御不能な様相を見せていく。

最後は仰向けに倒れ、断末魔の叫びのごとく咆哮。叫びは「LION」へとなだらかに受け継がれ、むくりと起き上がって這うような動きをしたHYDEは、「ウォー」という呻き声を繰り返し、オーディエンスの掛け声としばし応酬。
その後、巨大な筒状のエアーダンサーがステージに8体出現。揺らめく情景はどこかシュールかつ壮観で、おどけて怖がるような表情をHYDEは浮かべながら歌唱。途中のブレイクでは、真っ暗な中HYDEが唐突に口から吐き出した液体が蛍光の黄色に光り、目は青く輝いて、キッチュな悪夢を見たような残像を脳裏に焼き付けたのだった。

間髪入れず「ANOTHER MOMENT」に雪崩れ込みながら、「幕張ちゃん、長い間疲れたでしょ? 座ってみよう」と語り掛け、「俺のかわい子ちゃんが見えるようにしてくれる?」と照明部にリクエスト。合図について丁寧に説明した後、3、2、1で一斉にジャンプする。カラフルなエアーダンサーたちが揺らめき、HYDEはリラックスした表情を浮かべながら歌い、手足を自由に動かしてダンスする。髪をなびかせながら飛び回り、伸び伸びとその時間を過ごしているように見えた。

HYDE “良き理解者”とつくり上げた狂騒のライヴをもって、『ANTI』ここに完結――
撮影/岡田貴之、田中和子

不穏なシンセ音が鳴り響いて「MIDNIGHT CELEBRATION II」へと突入すると、「幕張、完成させよう! 芸術的なカオスを見せてくれ!」とHYDEは呼び掛け、テンポアップ。HYDEはフロアに降りて人波に包み込まれるようにして運ばれていきながら、荒々しく歌い続けていく。「Push it back」と繰り返し呼び掛けると、3、2、1の掛け声でサークルモッシュが巻き起こり、まさしくカオスが出現。HYDEの喉はどんなに声を張り上げても掠れない驚異の強靭さである。人々の間をすり抜けて前方へと戻っていくHYDEの姿は、まるで蠢く食虫花から生還したかのよう。
オーディエンスの持つ凄まじい“塊としての熱量”にこの時は圧倒されたのだが、同じオーディエンスに対しこの後、また別の感慨を抱くことになる。

ステージへ辿り着いたHYDEはバットでパトカーを強打し、暴発的なエネルギーを秘めたままであることを仄めかしながら一旦、姿を消した。再登場したバンド・メンバーたちがギャング風にバットを振り回し観客を盛り上げていると、HYDEは客席フロアの右後方から噴霧器を手に登場、会場は沸きに沸いた。観客の間を練り歩きながらステージに登り、両手を挙げた後バットでドラム缶を打ち鳴らした後、バットを背にSlipknotの「DUALITY」をカヴァー。勇ましいパフォーマンスとは裏腹に、小さく愛らしく手拍子すると、「残り少なくなってきた、幕張! 悔いを残すなよ、幕張! 食い尽くせ、幕張! 俺たちならできるよな、幕張!」とシャウト。

PABLOと向き合ってギターを掻き鳴らしながら、VAMPSの「AHEAD」を荒っぽくもイノセントな歌声で披露し始めたHYDEは、澄んだ明るい目をしていた。大きく脚を開き凛とした立ち姿でギターを奏で、どの箇所で委ねても完璧に歌い遂げる信頼できるファンと共に、この曲を楽しんでいるように見えた。PABLOがギターを爪弾き始めるとHYDEは手を肩に回し、「GLAMOROUS SKY」をゆっくりとしたテンポで歌い始めたが、やがて、高速なパンク・アレンジへ。フロアではサークルモッシュが起き、澄み渡ったファルセットを響かせたHYDEは、「おぉ、すげえ!」と笑顔で感嘆していた。言うまでもなくライヴは各自好きなように観る権利があり、サークルもモッシュもダイブも、誰かから強制されてするものではないし、不慣れであれば危険を伴う。それが自然に起こるに足る熱量が必要なのはもちろんのこと、その光景を心から観たい・見せたい、と演者とオーディエンスが互いに心から願う、という信頼関係が無ければ実現不可能だっただろう。

この先「突っ走る」と誓ったHYDEが暗闇で掴んだものは……?


HYDE “良き理解者”とつくり上げた狂騒のライヴをもって、『ANTI』ここに完結――
撮影/岡田貴之、田中和子

盛大な盛り上がりの後、一瞬の静寂が訪れると、HYDEは「どうもありがとう、幕張!」と感謝を述べた。「いいもの見せてもらった。ほんと最高だね、君たちは。すごくうれしい。君たちが本当にかわいくてしょうがないよ。一緒に築いて来て、2年目。ここでVAMPSが終わってから、走ってきました」と、2017年のVAMPS活動休止を振り返った。

「もっともっと君たちと深まって、もっともっといいライヴをつくろうと思って、気持ち込めてアルバムつくって。ライヴは本当に何本やったかわからないですけど、たぶん150本ぐらいやったかな? ほんといい眺めだよ、みんな」とHYDE。気付けばオーディエンスはスマートフォンの灯りをかざし、眩い光の海をつくっていた。

会場を見渡しながら「ただの光じゃないんだよね。全部意味のある光なんですよ。僕の大事な人の光なんです。良き理解者のね」と感極まった様子で言い表したHYDE。単なる美しい風景としてではなく、もちろん塊としてでもなく、それを成す一人一人の存在に想いを馳せて、感謝を述べたのである。

「僕は好きな曲をつくって、レコーディングしてるだけだけど、理解者がいないとできません。みんなのお陰です、ありがとう。文句も言わずにこのメンバーが僕を支えてくれて……感謝してます」と言葉を重ね、日本中から集って来ているであろうファンの苦労にも言及しながら、「(今日は)ファイナルだけど、新しいのをつくって、みんなと共有したいと思ってるんで、よろしくお願いします」と今後の活動への意欲も語った。

「2年経ってここまで戻って来られたけど、あとは突っ走るだけだと思います。ただ俺、そんなに強くないんでね。みんなが援護してくれないと。援護してくれたら、真っ暗な中でも絶対何か掴むから、待っててください。本当にみんな、今日はありがとうございました!」と語り、最後に届けたのは「ORDINARY WORLD」。イントロが鳴り始め、大きく両手を広げるとピアノとストリングスが響き始める。光を帯びたような、まろやかな優しい声色で歌い始めたが、痛みを綴った歌詞のパートでは傷にもがき苦しむような表現を交え、曲の世界へと引き込んでいく。例えば“HEART”という一語ではこの上ない慈しみ深さを感じさせたし、HYDEの歌は細部に至るまで表現の“解像度”が高い。幾度か聴いて来たこの曲は著しい進化を遂げ、一つの到達点を迎えていたように思う。ギターソロ中は身を揺らしながら澄んだ瞳でフロアを見渡し、そこから受け取った力を注ぎ込むように、仰け反らんばかりにして熱唱した。

ラスト、メタリックな質感の紙吹雪が赤い光を反射して煌めきながら舞い降る中、力強く歌われた<I will learn to survive>というフレーズ。初めてHYDEがこのDURAN DURANのカヴァーを歌うのを聴いた時、人の痛みに想いを寄せて捧げられる、まるで祈りのように感じられたのを覚えているのだが、このツアーファイナルでは、また少し違った印象を受けた。弱さを隠すことなく明かした直前のMCの通り、傷付きながらも強く自分の道を生き抜こうとする当事者として、一人の生身の人間としての魂に触れたような感覚があったのだ。そして、これほどのキャリアを誇る大スターである彼が、そんな姿をさらけ出した勇気や人間らしさに胸打たれ、鼓舞されたのである。

HYDE “良き理解者”とつくり上げた狂騒のライヴをもって、『ANTI』ここに完結――
撮影/岡田貴之、田中和子

最後の最後までコーラスもフェイクを交えながら力強く歌いきって目を閉じ、口元を歪ませて「Thank you so much!」と叫んだHYDEは、観客に背を向けて両手を広げ、ジャンプダウンしてバンドの音を鳴り止ませた。「どうもありがとう!」と感謝を述べて何度も投げキッスを放ち、観客の声を直に聴こうとしたのか、イヤーモニターを外し、「また帰ってくるから! 首洗って待ってろよ!」と呼び掛けて去っていった。

アルバム『ANTI』の世界観を具現化するつくりこんだステージと演出、細部まで行き届いた美意識、飽くなき探求心があるからこそ辿り着けたであろう、高い技術と深い表現とを兼備した歌唱。そういった高度な芸術性に圧倒されると同時に、HYDEの人間らしい脆さ、それすらも曝け出す真の強さに心を揺さぶられるライヴだった。

VAMPSの活動休止から2年。一人で走り続けたように見えたHYDEの周りには、それを支える理解者たちがいて、その象徴的場面である光の海を前に、率直に感謝を伝えていたのは忘れ難い情景である。この先「突っ走る」と誓ったHYDEが暗闇で掴んだものを、いつの日かまた作品、ライヴという形で観られるのはそう遠くないことだろう。
(取材・文/大前多恵)

セットリスト


1. WHO'S GONNA SAVE US
2. AFTER LIGHT
3. FAKE DIVINE
4. INSIDE OF ME
5. DEVIL SIDE
6. TWO FACE
7. SET IN STONE
8. ZIPANG
9. OUT
10. MAD QUALIA
11. SICK
12. DON'T HOLD BACK
13. LION
14. ANOTHER MOMENT
15. MIDNIGHT CELEBRATION II
<ENCORE>
1. DUALITY
2. AHEAD
3. GLAMOROUS SKY
4. ORDINARY WORLD

■HYDE オフィシャルサイト
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