志を同じくする人たちと三大映画祭へ 柳楽優弥は再び世界を狙う

俳優・柳楽優弥にとって令和元年の締めくくりはドイツとフランスになった。昨年11月に開かれたマンハイム・ハイデルベルク国際映画祭では、柳楽が主演するKENTARO監督『ターコイズの空の下で』(英題:UNDER THE TURQUOISE SKY)が国際映画批評家賞(FIPRESCI INTERNATIONAL FILM CRITICS AWARD)と、観客賞である才能賞(TALENT AWARD)の2部門を受賞。
ドイツからそのまま移動したパリでは特別上映のため、キノタヨ現代日本映画祭に登壇。フランスの観客に挨拶した。14歳の時、カンヌ国際映画祭で主演男優賞を受賞してから15年、今年30歳という節目を目前に柳楽は世界で再び何を狙うのか?
取材・文/加藤亨延
撮影協力/HOTEL BRIGHTON


パリで感じた日本映画への熱意と居心地の良さ


志を同じくする人たちと三大映画祭へ 柳楽優弥は再び世界を狙う
マンハイム・ハイデルベルク国際映画祭。柳楽優弥(左)とKENTARO監督 (c)Arthur Bauer

――柳楽さんにとって初めてのキノタヨ現代日本映画祭への出席でしたが、どのような感想を持ちましたか?
初めて参加させていただいたんですけど、日本映画をフランスに伝えていくという熱意ある人が集結している、とても居心地のいい映画祭でした。僕の出演作としては過去に『すべては海になる』と『ディストラクション・ベイビーズ』がキノタヨ現代日本映画祭に招待されており、今作『ターコイズの空の下で』で3本目です。

――今回はドイツからそのままフランスへ行きましたが、観客の反応はどうでしたか?

上映中に声を出して笑ったり、爆笑の瞬間もあったり、『ターコイズの空の下で』を撮ったKENTARO監督の洒落が、観客にしっかりと伝わっているなと感じました。その土地ごとの映画祭で観客のリアクションも変わりますね。

――KENTARO監督は欧米で育ち、米仏日スペインの文化と言語を吸収してきたパリ在住の監督です。
彼が手がけた初の長編『ターコイズの空の下で』は、どの点が評価されていると思いますか?


日本映画にありがちな悠長さが一切なく、KENTARO監督が各国で学んできたユーモアだったり、知識だったり映像に対する熱意が、1作目にしてしっかり表現できていると感じました。海外の映画が持つテンポの良さというのは、日本の新人監督にしてみたら憧れる要素のひとつだと思いますので、そういうところを軽々とクリアする監督でした。好印象です。
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キノタヨ現代日本映画祭のレセプションにて柳楽優弥(左)KENTARO監督(中央)、キノタヨ映画祭名誉会長・ミシェル・モトロ

――今作の内容は、裕福な家庭で甘やかされて育ち道楽生活を送っていた日本人青年タケシが、実業家の祖父によりモンゴルの草原へ送り込まれ、終戦後に生まれてすぐ別れたという祖父の娘を探す物語です。初めは、モンゴルで運転手付きの高級車に乗っていたタケシですが、その後、車は高級車から大衆車になり、ついには何もない荒野に放り出されて自分の力でもがき始めます。柳楽さん自身は、演じていてどこか自分と重なる部分もあったのでしょうか?

僕はまだ29歳ですけど、幸いなことに若い頃から芸能界にいさせてもらえて、映画やドラマ、舞台を通して本当にいろいろなことを学べました。
今回のようにドイツやフランスにも連れて来てもらえたりとか、そこでその土地の歴史を知ったりとかです。タケシがモンゴルでの出来事を通じて学んだように、旅を通じて客観的に物事を見られるようになるということは、とても理解できました。

経験を引き出しに海外で表現できる自信が付いてきた


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――2020年は30歳になります。今までの役者人生を振り返って、どう感じますか?

割といい時期もあれば、ちょっと大変だなと思う時期もありました。ただ、そういうことは僕だけに限ったことではないですし、いい時はいい時なりの、悪い時は悪い時なりの吸収の仕方があります。さまざまな状況にあって、映像を意識できる環境にずっといられたことはラッキーでした。自分の役割みたいなものも少しずつしっかりと感じてきました。
KENTARO監督のような、国際的なものを目指す監督のオファーを受けた時にしっかりとパフォーマンスできるよう、慢心せず上を目指したいです。

――次の10年はどのようにしていきたいですか?

僕の場合はデビューが特殊で、まず14歳の時にカンヌで主演男優賞をもらいました。それは過去のものなんですけど、どうしても周囲はそこばかりに目が行ってしまうというか。その状況に対して、どうやって評価に伴う実力を付けられるか自分なりに考えてきました。主演男優賞みたいな賞を取ってしまうと、脇役ができないし、逆に役が制限されてしまうことも多かった。結果、厳しい時期も過ごしました。


――厳しい時期には、どんなことを学びましたか?

意外にそこから吸収したものは多いです。ひとつは芸能関係以外の人に会えたということだと思います。

――その時期は大変でしたか?

世間から見たら大変そうに見える状況だったとしても、僕自身が充実していないかというと、それは誤解です。僕はそれなりにずっと生活を謳歌していましたし、決して悲観的ではなかった。そしてハングリー精神というのは、そういう環境になってみないと感じられないです。それはまた違うステップでも使えるかもしれないですよね。


――その後は再び活躍を目にする機会が増えてきました。

20代は脇役としてチャレンジしてきました。そして20代の終わりで、再び主役を演じられる場所に戻ってこられました。『ターコイズの空の下で』や来夏公開の映画『HOUKUSAI』もそうです。今まで築き上げてきた経験を自分の引き出しにして、海外の舞台でしっかりと表現できる自信が付いてきました。次の10年は、より上のステージに行けるようにしたいです。


10代の頃からずっと狙っていた世界三大映画祭



――柳楽さんにとって海外映画祭はどんな存在ですか?

デビュー作である『誰も知らない』も、最初は海外のカンヌで評価されました。日本より先にフランスで名前を呼ばれたので、今でも不思議な感覚が残っています。

――やはりフランスという国は特別ですか?

好きです。僕の出演している映画を知ってくれている人もいますし、居心地がいいです。

――別のインタビューで、柳楽さんはカンヌ、ベネチア、ベルリンの世界三大映画祭を狙っていると拝見しました。

行きたいですね。じつは10代から虎視淡々と機会を伺っていました。しかし、20代前半ではそういうことを言っても、「なんか言ってるよ」と笑われてしまう状況でしたが、別にもう公言してもいいんじゃないかなと思います。共に似た志を持っている人がいたら、三大映画祭に向かって一緒に頑張りたいです。そして高めの目標を立てておけば、頑張るじゃないですか(笑)。慢心しないですし原動力になります。

――2019年の初めにニューヨークに短期留学されたのも海外志向のひとつですか?

単純に英語を強化したかったからです。英語は自分の課題ですね。今は英語を喋らないといけない環境にいますし。数カ月間留学したのは、仕事を言い訳にして勉強ができないという状況が嫌だったためです

自分の人間性と役を混ぜた絶妙なラインを探る


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映画『ターコイズの空の下で』

――画面で柳楽さんを拝見していると、本当にいろんな役を演じられています。好きな役柄はありますか?

オファーをいただくのは「何かを抱えている青年」が多いですが、楽しい役が好きです。20代ではそれなりに役の幅を広げられた気がするので、30代、40代は役柄だけにとらわれず、与えられた役柄に自分のパーソナルな部分も入れて、役だけに主導権を握らせず、自分の人間性を混ぜていく芝居ができたらと思っています。

――なぜそういう演じ方をしようと思いましたか?

その役を演じるに当たって、もちろん役に関する知識をきちんと入れることは必要なこととして、どんなに一生懸命やっても、決してその役そのものにはなれないじゃないですか。100%なりきるというのはありえないわけで、そこに自分のパーソナルな部分を混ぜて、融合を見せることがキャスティングされた意味でもあるし。その絶妙なラインというものを、自分の中で探していけたらいいなと思います。そういうことを先輩たちはやられているので、その背中を見ながら進んでいきたいです。

――最近影響を受けた人はいますか?

ソン・ガンホでしょうか。今年カンヌでパルムドールを獲った『パラサイト 半地下の家族』の演技なんか、すごくいいですよ。同じく彼が出演した『シークレット・サンシャイン』の時のインタビューで、彼が「演技はそれっぽくでいいんだ。みんな深刻に考え過ぎだ」みたいなことを言っていたことにも影響を受けています。彼の作品があると、つい見ちゃいますね。

――「いちごいちえ」というファンイベントをしていますが、ファンからの刺激もあるのではないでしょうか?

本当にありがたいことです。僕、交流するの好きなんですよ。握手したりとか、いろんな声を直接聞ける状況が単純に好きです。僕が10代だった頃からのファンの方もいますし、最近だと「銀魂」だったり、テレビドラマを見て応援してくださる方もいます。ファンの方からは「会えて良かった」と言ってもらえるけど、僕こそ「会えて良かった」というのが本音です。だからこのイベントは特別ですし、僕の自信にもつながっています。

2020年は今まで貯めてきたものを解放する年に


――2019年はどんな年でしたか?

毎年そうですけど、いろいろ学べる年でした。今年1〜3月はニューヨークで勉強できました。その後は『ターコイズの空の下で』や『HOKUSAI』などの撮影を続けてきました。
次のステップである来年に向けて、挑戦してきた年ですね。

――2020年はどんな年になりそうですか?

今年撮ってきた作品が、2020年に順次公開されます。2019年にしっかり自分の中で蓄えてきたエネルギーみたいなものを、ぱっと開放できたらいいなと思っています。
志を同じくする人たちと三大映画祭へ 柳楽優弥は再び世界を狙う
今回の取材で柳楽優弥の写真を撮ったのは、なんとKENTARO監督


Profile
柳楽優弥

1990年3月26日生まれ。
2004年映画『誰も知らない』(監督:是枝裕和)でデビューし日本人初・史上最年少で第57回カンヌ国際映画祭最優秀主演男優賞を受賞。映画・ドラマ・舞台など数多くの作品に出演。ドラマ『ゆとりですがなにか』では第4回コンフィデンスアワード・ドラマ賞助演男優賞や第89回 ザテレビジョン・ドラマアカデミー賞助演男優賞を、映画『ディストラクション・ベイビーズ』では第38回ヨコハマ映画祭主演男優賞や第90回キネマ旬報ベスト・テン 主演男優賞などを受賞歴した。2020年夏には主演映画『HOKUSAI』の公開が予定されており、30歳記念アニバーサリーブック『やぎら本』も2020年6月27日に発売予定。

関連サイト
柳楽優弥オフィシャルサイト
柳楽優弥オフィシャルサイト(スターダストプロモーション)