令和最初の『M-1グランプリ2019』(テレビ朝日系列)は、まさに激闘だった。エントリー総数は過去最多の5040組。
ファイナリスト9組のうち7組が決勝初出場。昨年の霜降り明星に続き世代交代が起こるのか、それとも常連組が意地を見せるのか……と思いきや、そのどちらでもない。結成12年目で初出場、コーンフレークとモナカを審査員の口に放り込み、史上最高点をたたき出して頂点に輝いたのは、ミルクボーイ!
史上最高得点ミルクボーイ優勝「M-1グランプリ2019」採点データ分析。高度な戦いを数値で読み解く
イラスト/まつもとりえこ

ファーストラウンド:数値に見る「ハイレベルな戦い」


ドラマチックな展開が次々起こったM-1グランプリだった。笑神籤(えみくじ)によって、2番手と早めに順番が回ってきたかまいたちが660点という高得点をマーク。すると次は敗者復活組の発表になり、3年連続準優勝の和牛が復活。652点で2位につける。どちらも最終決戦に残るレベルの高得点で、3位を争う展開が続くなか、7番手のミルクボーイが681点で1位に躍り出る……!

681点はM-1史上最高得点(審査員7人の場合)。それまでのトップは2004年大会のアンタッチャブル(673点)だった。今年11月に『全力!脱力タイムズ』で復活し、今回のM-1にもコンビ揃ってコメントVTRを寄せていたアンタッチャブルの記録が、このタイミングで塗り替えられるとは。

しかしドラマはこのままでは終わらない。トリに登場した初出場のぺこぱが「ノリつっこまない漫才」で跳ね、654点をマーク。2点差で3位の和牛を抜き去り最終決戦に滑り込む! ぺこぱの所属事務所はサンミュージック。よしもと以外が最終決戦に残るのは、2008年のオードリー(ケイダッシュステージ)とナイツ(マセキ芸能社)以来だ。

史上最高得点ミルクボーイ優勝「M-1グランプリ2019」採点データ分析。高度な戦いを数値で読み解く
『M-1グランプリ2019』ファーストラウンド全組の採点一覧。表中の赤字がその審査員がつけた最高点。青字が最低点

全ての採点を表にまとめてみた。赤字が審査員の最高点、青字が最低点。審査員ごと、ファイナリストごとに平均点と標準偏差(値が高いほど点数のバラつきが大きい)も併せて算出している。

さすが史上最高得点は伊達じゃない。審査員全員がミルクボーイにこの日の最高得点をつけている。ファイナリストごとに見ると、平均点はほぼ90点以上で、標準偏差の値が小さい(=評価が割れていない)。審査員数名が突出して高得点を付けているのではなく、全員が納得したうえで高水準の点数をつけているように見える。

「審査員全員の評価が同じって、ただ好みが一緒なだけでは?」という声もあるかもしれない。でも、同じ審査員だった昨年は、2015年のM-1復活以降最もバラつきが大きかったのだ(参考:霜降り明星優勝「M-1グランプリ2018」採点データ分析。立川志らく「99点」が投げた大きな波紋)。たった1年でベテランたちの好みが劇的に揃うとは考えにくいだろう。

さて、審査員ごとの傾向を見てみよう。
平均点は全員90点以上だが、標準偏差は全員2以上あり、例年に比べてバラつきが大きい。しかしこれは、ミルクボーイにだけ突出して高得点を付けている審査員が多いため。試しにミルクボーイの点数を抜いてみると、2未満に収まる審査員も出てくる。唯一、松本人志の標準偏差が3.97と高めだが、これはニューヨークにつけた「82点」が影響しているものだ。

ファイナリストごとの平均点の高さと標準偏差の小ささから、「ハイレベルな戦い」が数値にも表れている。そして審査員の標準偏差に与えるインパクトの大きさから、ミルクボーイがたたき出した点数がいかにスゴかったかがうかがえる。

最終決戦:「夢!夢!夢!」


最終決戦に残った上位3組は、ミルクボーイ、かまいたち、ぺこぱの3組。3組とも1本目とネタの傾向を変えなかった。ぺこぱは働き方改革から高齢化社会にテーマを変え、かまいたちはUFJからトトロに言い争いの種が移り、ミルクボーイはおかんの疑問がコーンフレークからモナカになる。自分たちが確立したスタイルを、それぞれが貫き通していた。
史上最高得点ミルクボーイ優勝「M-1グランプリ2019」採点データ分析。高度な戦いを数値で読み解く
『M-1グランプリ2019』最終決戦の採点一覧

結果はミルクボーイ6票、かまいたち1票(松本人志が優勝者以外に票を投じるのはこれで4年連続)。史上最高点の栄誉そのままに、ミルクボーイが逃げ切った!

優勝が決まった瞬間、駒場は「いやいや」と手を振りながら笑い、内海は「マジで」「嘘でしょ」と繰り返す。
マイクを向けられた内海は「嘘ですこんなもん!夢!夢!夢!」と叫んだ。これまでのM-1最高成績は準々決勝。今年テレビで漫才をするのは今日が初めて。信じられないのも当然だ。

昨年優勝した霜降り明星も、今年優勝したミルクボーイも、大阪の「よしもと漫才劇場」で腕を磨いている仲間。霜降り明星は20代の若手に夢を与え、ミルクボーイはくすぶる中堅に夢を与えた。全国区の知名度がなくても、ネタの強さがあればひっくり返せることを証明した。

ミルクボーイの漫才は、駒場が客席からなにかもらうくだりをツカミにいれる。1本目は「ベルマーク」、2本目は「ねるねるねるねの2の粉」だった。番組ラスト。10秒コメントを求められた2人は「トロフィーをもらいました!」と掲げる。それは漫才中に見える幻影ではなく、金色に輝く実像だった。

(井上マサキ)
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