1月1日午後10時からドラマ「きのう何食べた? 正月スペシャル2020」が放送される。「きのう何食べた?」はよしながふみ原作、西島秀俊、内野聖陽主演の同性愛カップルと手作りのごはんをテーマにしたドラマ(DVD)。

レギュラー放送は40分枠だったが、今回はなんと90分! 3章仕立てでお正月の夜にほっこりした空気を運んでくれる。レギュラー陣が出演するのはもちろんのこと、ゲストとして宮沢りえが登場するのも大きな話題だ。脚本は安達奈緒子。今年は「G線上のあなたと私」「サギデカ」も手掛けている。すごすぎ。
その前に、午前9時から「きのう何食べた? 新作前にイッキ見SP」と題して、全12話を7時間にわたって一挙放送する。ここでは、初めて見る人でも楽しめる「きのう何食べた?」チェックポイントを挙げていきたい。既にリピート済のファンの方も再放送のおともにぜひどうぞ。
豪華かつ的確なキャスティングの妙
まず、なんといっても主人公の同性愛カップルを演じた西島秀俊と内野聖陽。プライムタイムどころか大河ドラマ主演級の2人が、テレビ東京の深夜ドラマにダブルで主演したという事実にあらためて驚かされる。実力のある俳優は、これからも放送枠などにとらわれず、「出たい企画に出る」という傾向が強まっていくだろう。
キリッとしたイケメンだけど料理をしていると自然に笑顔になってしまうシロさん役をエプロン姿の似合う俳優No.1の西島秀俊が好演するのは予想がついていたが、誰よりもシロさんのことが大好きで乙女成分高めな優男のケンジ役を男臭い役柄で知られる内野聖陽が見事に自分のものにしていて本当に凄かった。
シロさんとケンジの友人となる大柄で無骨な同性愛者の小日向役を山本耕史が演じると聞いたとき、ちょっとイメージに合わないかなと思った原作ファンも少なくなかったと思うが、声を低めのトーンにチューニングして見事に演じきっていた。何よりも恋人のジルベールにメロメロになる小芝居が最高。その小日向には美少年に見えているが実際は30歳過ぎのちょっと可愛いが口がとことん悪いお兄ちゃん、ジルベール役を演じた磯村勇斗も絶妙すぎるキャスティングだった。両カップルがキャッキャとダブルデートをするだけの7話は本当に楽しいエピソード。
その他、シロさんの母親役の梶芽衣子、シロさんの友人・富永さん役の田中美佐子、上町法律事務所の大先生役の高泉淳子、若先生役のチャンカワイなど、原作のイメージにぴったりのキャストが続々登場。富永さんの夫役の矢柴俊博の顔が原作の絵そのまま過ぎて、登場したときは原作ファンのどよめきが止まらなかった。
また、各話には個性的なゲストが登場するが、個人的には6話で司法修習生を演じた真魚と母親を医療過誤で死なせた男を演じた川瀬陽太、8話に登場した同性愛カップル役の菅原大吉と正名僕蔵、9話でシロさんの同期の弁護士を演じたバッファロー吾郎Aあたりに特に注目してほしい。
庶民的かつ超絶美味しそうな料理の数々
「きのう何食べた?」といえば、タイトルどおり「ごはん」がポイント。次々と出てくるシロさん(時々ケンジ)の手作りごはんはどれもこれも美味しそうで、放送当時は真夜中に視聴者の腹を鳴らしまくった(レシピ集も発売)。

鮭とごぼうの炊き込みごはん(1話)、具だくさんのツナとトマトのそうめん(2話)、ほうれん草う入りのラザニア(4話)、ケンジ特製のサッポロ一番みそラーメン(5話)、シロさんとケンジが仲良く食べる手作りクレープ(10話)などなど……。文字面を見るだけでお腹が空いてくる。
真似して作ってみたという人も続出し、なかにはミルクティーのシャーベット(11話)の材料になるアールグレイのティーバッグとコンデンスミルクを並べて売っていたスーパーもあったという。個人的には、副菜をよく真似させてもらった。ブロッコリーの梅わざびマヨネーズ(8話)は特に家族に好評だった。
ドラマを見ていればだいたい作れるレシピばかりだが、「公式ガイド&レシピ きのう何食べた?~シロさんの簡単レシピ~」という本も出版されているので、そちらもご参考までに。
グルメドラマというよりホームドラマ
テレ東深夜でごはんがメインのドラマというと「孤独のグルメ」のようなグルメドラマを連想する方もいるかもしれないし、同性愛カップルが主人公と聞くと「おっさんずラブ」のような恋愛ドラマを想像する人もいるかもしれないが、筆者は「きのう何食べた?」を「ホームドラマ」と捉えて見ていた。
弁護士と美容師という、なかなか休みの日もあわないカップルだけど、いつもの食卓で手を合わせて「いただきます」と言ってごはんを食べる(オープニングの映像にもこのシーンが象徴的に描かれている)。外でちょっとイヤなことがあっても、大切な人と一緒に食卓を囲めば、自然に笑顔はこぼれるというもの。その相手が、血縁のある家族や、婚姻届を出した配偶者じゃないところが、今の時代を象徴しているような気がする。
好きな人と一緒に高価じゃないけど丁寧に作られた美味しいごはんを食べる。そんなシンプルな幸せの形を視聴者におすそ分けしてくれたからこそ、「きのう何食べた?」はたくさんの人の心に響いたドラマになったのだと思う。
(大山くまお)