木村友祐『幼な子の聖戦』(「すばる」11月号)
高尾長良『音に聞く』(「文學界」9月号)
千葉雅也『デッドライン』(「新潮」9月号)
乗代雄介『最高の任務』(「群像」12月号)
古川真人『背高泡立草』(「すばる」10月号)
それぞれの作品について簡単にレビューするので、結果発表を待つ間の暇つぶしにでもお読みいただだきたい。最後に簡単な私自身の予想を書いておくので、当たったらお慰み、である。

木村友祐『幼な子の聖戦』
初候補の作家が三人いるが、木村はその一人だ。『幼な子の聖戦』は、青森らしき東北の村で行われる村長選挙を巡る顛末を描いた作品である。全篇で作者自身の故郷である青森県の方言が駆使されており、それが特徴にもなっている。
視点人物の〈おれ〉は東京に出たものの失意を抱えて帰郷することになり、村議になったという人物だ。特に崇高な目的があったわけではなく、ぶらぶらしていると外聞が悪いからという理由で、父親の伝手によって補欠選挙に押し込まれたのである。この村はそのようにすべてが人脈のコネで決まり、過去からの慣習がなんでも踏襲されている。しかし村長選が行われることになって事態は急を告げる。中央の政権党有力者を接待した村長が、セクハラ行為を指摘して辞任したからだ。後任には〈おれ〉の幼なじみで、新しい観点から村を再生しようとする人物が抜擢されるが、政権党が対立候補を送り込んでくる。