孫である竹芝柳介をテレビに復帰させるため、執筆中のシナリオ「道」に出番を作って欲しいとお嬢(浅丘ルリ子)から頼まれた菊村栄(石坂浩二)は、テレビ局に売るつもりのないまま書き進めていた「道」のドラマ化に向けてかつての花形ディレクター・中山保久(近藤正臣)と会食する。
中山はシナリオに興味を示しつつも、柳介の復帰については否定的だった。
「お前はもうすでに過去の作家だ。お前の言うことを聞いてくれるようなプロデューサーはもういないだろう」
これは倉本聰の実感なのかも知れない。イケイケだった頃の倉本なら、どんなワガママでも通っただろうが、前作「やすらぎの郷」は当初、「北の国から」などで縁の深いフジテレビに売り込んだものの、断られているのだ。
そう考えると、月〜金で放送される帯ドラマ「やすらぎの郷」を開始し、本作ではその帯ドラマを1年間かけて放送するという英断を下したテレビ朝日は偉大だ!

あれは人間として絶対に言っちゃいけないことだった
菊村がずっと憧れていた脚本家・向井爽吉が「やすらぎの郷」に入っていたことが判明する。
「雲の上の人です、近寄ることもできないほどで」
向井は、映画界の巨匠・小木次郎監督と組んで「晩秋」「鎌倉の人」「京都物語」「紅葉の里」といった名作を生み出してきたというが……これは小津安二郎でしょうな。
となると向井爽吉のモデルは脚本家・野田高梧か?
主治医である名倉理事長(名高達男)によると、向井はパーキンソン病と老衰が加わってすでに意識はなく、このまま静かに息を引き取るのを待つのが最善の策と考えていた。しかし、長年音信のなかった娘が突然現れて「少しでも命をつないで欲しい」と胃ろうの処置を要望したという。
「ご本人に意識はありませんし、よくなる可能性もまったくありません」
名倉はいたずらな延命治療に否定的だが、親族の意向を無視して治療を行わなかったら、保護責任者遺棄致死罪として刑法で罰せられることとなるのだ。
意見を聞かれた菊村は、「私は嫌ですね。植物状態になって、何もかも意識がなくなっているというのに、老いさらばえた自分の身体を人目にさらして生きるなんていうのは嫌ですね」と答えた。
安楽死問題は本作においてたびたび投げかけられてきたが、今回は自然な状態では生きられない患者を延命するのかどうかという延命治療問題。根っこは一緒だろう。
この問題に関しては菊村自身、苦い思い出があるようだ。
亡き妻・律子(風吹ジュン)の霊が現れて律子の最期が明かされた。
意識のなくなった律子に医師が人工呼吸器をつけようとした時、菊村は「やすらかにしてやってくれ」といって止めたのだという。
「私、本当はホッとしたのよ。だってあの時、久しぶりにこれまでの苦しみから抜けかけてて、本当にやすらかで気持ちよかったんだもん。あなたに本当に感謝したわ」
「あれは人間として絶対に言っちゃいけないことだったんだよ。あれはお前を殺してくれと言うのと同じことなんだ」
笑顔の律子と、涙を流す菊村。会話だけの場面ではあるが、圧巻の演技に引き込まれた。
自分で安楽死を選ぶかどうかということ以上に、残された者たちが延命治療を望むかどうかというのは難しい問題だ。
菊村のように、妻の霊が出てきて「ありがとう」なんて言ってくれたら救われるのだが。
こんな重大な問題を「どう思いますか?」なんて気軽に菊村に相談する名倉理事長もどうかと思う。
もはや「やすらぎの郷」において歩く「テレフォン人生相談」状態となっている菊村だが、入所者を何だと思っているのか!?
憧れの脚本家の絶筆シナリオに触発されるかと思ったら……
結局、胃ろうの処置をする直前に向井爽吉は亡くなってしまった。
菊村は遺品の中から、向井が「やすらぎの郷」で書き続けていた絶筆のシナリオを見つけ、興奮しながら読み込む。
「向井先生が世に出るはずもない一本のシナリオを、老人ホームの小さな部屋で書き続けていたという、その情熱に私は圧倒され、感動していた」
メチャクチャ憧れていた作家の未発表原稿をひとり占めしている。マニアにとっては至福の時だろう。
これに触発されて「道」の執筆を再開するのかと思いきや、「やすらぎの郷」でのドタバタが続いた。
「黒蜥蜴」気分で巨大な壺を盗もうとしてぶっ倒れる桂木夫人。自らの生前葬の計画でメチャクチャ生き生きしているマロ(ミッキー・カーチス)。
延命治療問題から、なんちゃって「黒蜥蜴」まで……今週も温度の振り幅がすさまじかった。
(イラストと文/北村ヂン)