倉本聰・脚本「やすらぎの刻~道」(テレビ朝日系・月~金11時30分~)第43週。

なんと一週間、バキュームカーの話が続いた。

「やすらぎの刻~道」ある意味テレビ業界のタブーに挑戦。お昼のドラマで延々バキュームカー清掃第43週
イラストと文/北村ヂン

公平はついてる? ついてない?


根来公平(橋爪功)が居酒屋「オモチャ」のママ・みどり(高橋由美子)といい感じになり、キスをしそうになったところで入ってきた怖いお兄ちゃん・マムシの三次(真木蔵人)。

「調べはついてらあ! アンタ、妹をどうするつもりだ?」

公平が「女房は死んだ」だの「子どもは行方不明」だのと嘘をつきまくっていたこともバレバレで、慰謝料として100万円を請求されてしまう。

そういえばこの「道」は、とにかく”ついていない”男・公平を主人公として発想されたドラマだった。……のわりには“ついていない”描写は少なかったが。

変な女房をつかまされた挙げ句、満蒙開拓団で満州に渡り、ラーゲリでの強制労働で凍死してしまった青っ洟の方が、よっぽど”ついていない”だろう。

しかしここに来て慰謝料100万円。確かにこれは”ついていない”! ……と思いきや、ここから公平にとって、あまりに都合良く展開していく。

まず、妻であるしの(風吹ジュン)は、浮気の件を勘づいていたのにスルー。

「女よ。おじいちゃん今、久しぶりに青春しとるのよ」
「こういうのはね、病気じゃもの。熱が冷めれば治るの」

70過ぎの夫婦とはいえ、なんと理解のある妻……。

一方、公平はそうとも知らず、

「あいつ(しの)にだけは知られとうないんじゃ! あいつだけは絶対に傷付けとうないんじゃ!」

なんてダサイ言葉を吐いた上、孫・翔(菅谷哲也)の前で号泣するという、居酒屋のママに入れあげたジジイとしては最悪レベル醜態を見せつける。

これを見かねたのか、翔は代わりに三次の会社でただ働きするということで話をつけてきてくれた。


しかしその仕事というのはバキュームカー掃除!

「借金のカタにやらされるキツイ仕事」の定番としてマグロ漁船の乗せられるというのがあるが、それと比べてもなかなか厳しい絶妙なライン。

お昼のドラマで延々、バキュームカー掃除の映像が放送されるのはさすがに見ている方もキツかったが。色々な意味でタブーなきドラマではあるものの、昼飯時にバキュームカーの話題はさすがにタブーだろう。

このバキュームカー掃除。さすがに給料はいいらしく日当4万円なんだとか。バブルが完全に崩壊した後と考えると相当破格だ。

「25日働いたら解放してやる」

確かに100万円を日当4万で割れば25日なのだが、この手のゆすり案件だったら半年くらい強制労働させられてもよさそうなもの。

本来の日当4万円でキッチリ計算してくれるとは、マムシの三次、怖いおじさんにしては優しい!

バキュームカー掃除のおかげでなぜか結婚することに


これまでも年寄りの思う「理想の孫」的な行動を取りまくってきた翔だったが、じいちゃんのためにバキュームカー掃除に励むとは、理想の孫っぷりも行き着くところまで行き着いた感がある。

生死に関わるようなことならともかく、やらされているのは公平の浮気のしりぬぐいなのだ。

しかも当の公平は、内心こんなことを思っていた。

「わしは大いに反省した。しかし一方でこっそり思っとったんじゃ。若いもんは若いうちに苦労した方がいい。
今の若者には苦労が足らん」

こんなジジイために”マグニチュード8級”の臭さというバキュームカー掃除なんてやってらんないでしょ。

そんな翔の「理想の孫」っぷりにシニア視聴者たちだけではなく、周りの大人たちも次々にほだされていく。

まずはマムシの三次。ただ働きという約束だったはずなのに25万円を渡し、

「うちに一人娘がおっての。顔は人並みだが 体は丈夫だ。 一度会ってみんか?」

なんて言い出した。娘をくれるほどの気に入られっぷり!

怖いおじさんが心を開くといい人、というのはお約束だが、怖かったのはその話をみどりがニッコリしながら聞いていたこと。

いや、そもそも翔が悲惨な労働を強いられていたのはアンタのせいでもあるでしょ!? 「やっぱり美人局だったんじゃ……」という疑念がぬぐえない。

そしてもうひとり、翔の孫力にほだされたのが、翔の恋人・木宮詩子(渡辺早織)の父親(梨本謙次郎)。

「あの男(翔)の処置は見事だ!」

と、痛く感動。あれほど交際に反対していたのに急に考えを改め、強引に詩子との結婚話を進めていく。

倉本聰の思う理想の孫にして最強の若者


公平のダメっぷりと、翔の理想の孫っぷりを描きつつ、結婚話が進んで行った今回の謎エピソード。


「おじいさんのために文句も言わず、バキュームカーを掃除なんてキツイ仕事をやり遂げた素晴らしい若者」みたいな認識なんだろうけど、バキュームカーを掃除しただけで、やたらと娘をくれたがる親父たちはどうかしている。

確かに根性はありそうだけど、その他の仕事は、桑を育てたり炭を焼いたりと、金が発生しているとは思えないものばかり。鉄兵のように世捨て人的な生活をするならそれでもいいんだろうけど……。

翔は、倉本聰の思う「理想の孫」であるとともに、都会から田舎に移住して生き生きしているという点では倉本聰自身も投影されていそうだ。

ちょっと「素晴らしい若者」として描きすぎ!
(イラストと文/北村ヂン)

【配信サイト】
Tver

『やすらぎの刻〜道』(テレビ朝日)
作: 倉本聰
演出:藤田明二、阿部雄一、池添博、唐木希浩
主題歌: 中島みゆき「進化樹」「離郷の歌」「慕情」「終り初物」「観音橋」
音楽:島健
チーフプロデューサー:五十嵐文郎(テレビ朝日)
プロデューサー:中込卓也(テレビ朝日)、服部宣之(テレビ朝日)、山形亮介(角川大映スタジオ)
制作協力:角川大映スタジオ
制作著作:テレビ朝日
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