
女性の身体をお皿に見立てて料理を盛りつける「女体盛り」。性欲と食欲を同時に満たす魅惑的なこの遊びは、江戸時代の色街における秘め事として、または高度経済成長期の温泉街における出し物として知られている。
NYOTAIMORI TOKYOは、出張女体盛りサービスを開始して今年で5周年を迎える。顧客からのオーダーに応じてアーティスティックなショーを提供する一方で、これまで東京や名古屋、京都をはじめ、台北、香港、バンコクなど諸外国でも展示や公演を実施し、茶道家や箏曲家とのコラボレーションも行ってきた。2019年には映画『牙狼〈GARO〉-月虹ノ旅人-』にも出演するなど、躍進を続ける彼女らは一体どのような集団で、これからどこに向かうのか? NYOTAIMORI TOKYOのアート・ディレクションを手がける代表のMyuに話を訊いた。
誕生日の遊びから始まり、次第に女体盛りのパフォーマンスに魅了されていった

――2015年にスタートしたNYOTAIMORI TOKYOは、今年で活動5周年を迎えます。まずはどのような経緯でNYOTAIMORI TOKYOを始めたのかというところからお話しいただけますか。
私はもともと10代のころから現代アートの勉強や作品制作をしていました。なので周囲に自然とアーティストの友達が集まっていたのですが、22歳の誕生日のときに「女体盛りのケーキがほしい」ってアーティスト仲間にポロっと言ったら、本当に女体盛りの作品をつくることになった(笑)。ま、そのときは遊びに近かったんですけど、なかなか面白かったので、徐々に「もっとちゃんとやってみよう」と思うようになりました。それで試行錯誤して、正式にサービスとして提供できるかたちに整ったのが2015年でした。
――NYOTAIMORI TOKYOはどのようなメンバーと設立したんでしょうか?
私と皿モデルと、寿司職人、法務系のスタッフ、ビジュアルをまとめるのにカメラマンとヘアメイク、計6人ほどで始めました。
――Myuさんが10代のころに取り組んでいた現代アートはどんな内容だったんですか?
コスチュームの制作をしていました。自分でつくって自分で着て街にゲリラ的に繰り出して撮影したり。イベントに出ることもありましたけど、パフォーマンスというより写真作品をつくっているという意識が強かったです。あと、ピュ〜ぴるさんという現代美術作家のお手伝いをさせてもらっていました。
――他のメンバーの方はどんなバックグラウンドをお持ちなんでしょうか?
最近メンバーになった子たちで言うと、もともとバレエをやっていたり、デッサンモデルをやっている子がいます。デッサンモデルの子は「動かないパフォーマンスに魅力を感じる」と言っていて、なるほどそういう見方もあるなあと思いました。

――たしかに、デッサンも女体盛りも動かないパフォーマンスですもんね。
私たちがショーをやるとき、モデルの身体の上にお寿司やフルーツを順序通りに盛りつけていくんですけど、後半はいつもモデルが動けない状態になるんです。モデルたちは“お皿”になることに徹していたり、意識や呼吸をコントロールしたり、精神的な部分が必要なパフォーマンスだなと思います。今年の初めに加入した新しいモデルさんから「“お皿”をやっているときにクシャミしそうになったらどうするんですか?」って質問があったんですね。そしたらベテランのお皿役で運営や演出も携わっているzaqiちゃんというメンバーが、「女体盛りの理想の器を自分で焼いて、その皿のふちを撫でて感覚を覚えてショーでもその感覚をイメージしていると集中できる」って言っていて、新人の子がかなりびっくりしていました(笑)。
――顧客ターゲットはどのような層を狙っているのでしょうか?
最初はやっぱりアートに興味がある人に見てほしいと思っていたんですが、アートワールドに特化するのであればギャラリーで展示すればいいわけで、それよりも幅広い人たちに見てほしいなと思って、誰でもオーダーできるかたちにしました。ターゲットを最初に決めるというよりも、どんな人がどんなふうに興味を持つんだろうということを私たちも知りたくて。お客さんのレスポンスをつねに伺いつつ、それを見て自分たちのやることも変えていきました。

「盛る文化」の延長にある、身体のデコレーションとしての女体盛り
――活動を始めた2015年当時、Myuさんは女体盛りに対してどのようなイメージを持っていましたか?
ハッキリとしたイメージはありませんでした。昭和の宴会遊びかな……? 程度の認識で、実際に見たこともなかったし、なんだかよくわからないもの、というのが正直なところでした。とはいえ、具体的に当時のことを参考にしようとは思わず、コスチュームを制作して自分に着せて写真を撮る、ということの延長として女体盛りをやりたいと考えていましたね。身体にデコレーションを施すというか。女体盛りって「盛る」って言葉が入ってるじゃないですか。もともと私は『小悪魔ageha』を全部買いそろえて読み込んでるくらい、いわゆるギャルカルチャーが好きだったので、顔にシールを貼ったり髪をド派手にしてみたり、そういう「盛る文化」に浸っていた。なので、女体盛りというのも、最初は「かわいく盛る」という感覚で入っていきました。
――NYOTAIMORI TOKYOの活動を経るなかで、女体盛りというもののイメージに変化はありましたか?
やっぱり、イベントやショーをやるたびにいろいろな反応が返ってくるじゃないですか。それを見ているうちに、みんなが女体盛りをどうイメージしているのかがわかっていきました。なかにはショーを見もせずに拒否反応を示したりする人もいましたね。

――女体盛りは海外では“日本の伝統文化”としてエキゾチックな好奇心で消費されることもありますよね。
NYOTAIMORI TOKYOのショーをやると、パフォーマンス内容は同じなのに、まったく逆の反応が返ってくることがよくあるんですよね。それはそれぞれのお客さんがいままで見てきたものの違いが出てくるということだと思うんです。つまり、女について、男について、身体について、食事について……など、どんなイメージを持って生きてきたのかが露呈する。でも個人的には、みんなが同じ意見に収まってしまうよりも、バラバラな感想が出てくる方が意味があるなと思ってます。
――自分が女体盛りに好奇のまなざしを向けていたことに、NYOTAIMORI TOKYOのパフォーマンスを観ることで気づかされるということでしょうか?
そうなんですよね。びっくりするようなものを目にしたときって、パッと本音が出るじゃないですか。人は誰しも知らないうちに偏見を身に着けていて、そのことに気づかずに過ごしてしまうものだと思います。でも同じものを見てバラバラな意見が出てくれば、自分の意見が絶対に正しいとは限らないって思うようになるはず。とはいえ、NYOTAIMORI TOKYOは別に偏見をなくすための社会的な運動としてやっているわけではないです。

「なんだかよくわからないけど、面白いもの」を目指して
――NYOTAIMORI TOKYOの活動を5年間続けるなかで、なにか気づいたことはありましたか?
たとえ話ですけど、私の活動って社会の“裏アカ”っぽいなと感じることが最近よくあるんです。みんな本当は面白いって感じているけど、表立っては発言しづらいものというか。いまって素直に良いと言いづらい世の中じゃないですか。社会的な同調圧力が強くて。なにか世間とズレたことを言うとすぐに炎上しちゃいますし、当たり障りのないことしか言えなくなっている。そういう抑圧された感情が“裏アカ”でバンバン出てたりしますよね。NYOTAIMORI TOKYOがやってることは、人々が表では支持できなくても、本心では面白いと思ってしまうものになっている気がします。裏アカでフォローされることも多いですしね(笑)。
――たしかに、人々の欲望を代理するという側面はあると思います。ちなみに、現代アートの関係者からはどんな反応がありましたか?
去年、京都のギャラリーでイベントをやって、現代アートのコレクターの方に関わっていただいたんですね。そのとき、作品としては普通に受け入れられたんですが、「誰の作品なのかが分かった方がコレクターとしては買いやすい」って言われて。

――まさに“裏アカ”っぽさがありますね。
そうですね(笑)。思えば最初にNYOTAIMORI TOKYOという名前をつけたときに、周りの人から結構反対されたんです。女体盛りとは全然違うものをやっているんだから、新しい造語をつくったほうがいいって言われて。でもよく考えてみたら、そもそも女体盛りってワード自体がすごくふわっとしているじゃないですか。実際に見たことがある人はほとんどいないのに、都市伝説のように誰もが言葉だけ知っている。そもそも昭和の女体盛りのイメージって、伝統文化でもなんでもなくて、60年代から70年代に一時期流行っただけなんですよね。だったら女体盛りをテーマにしつつ、その言葉のイメージを180度覆すこともできるんじゃないかと思って、あえてNYOTAIMORI TOKYOという名前にしました。なので、NYOTAIMORIという言葉のイメージが変わったら勝ちだなと思っています。
――なるほど。ところで、たとえば緊縛師のなかにもアート表現としてセクシャルなイメージを更新しようとしているアーティストがいますが、そういった方々とのコラボレーションを考えたことはありますか?
コラボレーションはいろいろやっていきたいですが、緊縛師についてはもっと私たちのイメージが確立されてからじゃないと難しいかなと思います。もちろん、新しい試みをされている方はたくさんいらっしゃいますが、いま一緒にやると“エロスとアート”みたいな枠で「あ、こういう感じね」とお互い受け取られてしまうと思うんですよ。それがすごく嫌で。「こういう感じね」って一括りに言わせないために活動していることがたくさんあるので。「なんだかよくわからないけど、面白いね」となるのが理想です。

――NYOTAIMORI TOKYOは今後どのような活動を行っていく予定ですか?
現地の良いパートナーが見つかれば何都市かまとめての海外ツアーなどもやってみたいですね。あとは、台湾では男女2人が皿役のショーをやったのですが、身体にデコレーションを施すという意味では必ずしもモデルが女性でなくてもいいと思っているので、男体盛りでイベントなど組んでみたいですね。
――NYOTAIMORI TOKYOのパフォーマンスを観たいけど、直接オーダーするのは難しいという人も多いと思います。その場合、どうすればよいでしょうか?
年に何回か、イベントを企画することがあるんです。準備するのにコストがかかるので、あまり頻繁にはできないんですが、そういうタイミングで来てもらえたらなと思います。ホームページやSNSで随時情報をリリースしているので、ぜひチェックしていただければと思います!

Myuが代表を務めるアーティスト・チーム。2015年よりパフォーマンス活動を開始。女体盛りの猥雑なイメージを一新し、身体のデコレーションの延長として現代的にアップデートすることで、人々の性や美への認識や価値観の更新をもくろむ。東京、名古屋、京都、台北、香港、バンコクなど国内外の都市で公演および展示を実施。2017年にはファースト写真集『NYOTAIMORI TOKYO photo book』を刊行。2019年には映画『牙狼〈GARO〉-月虹ノ旅人-』にも出演している。