「エール」3話 やがて窪田正孝、中村蒼、山崎育三郎になる少年達が可愛い。そして直太朗が主人公にエール
イラスト/おうか

第1週「初めてのエール」3回〈4月1日 (水) 放送 演出・吉田照幸〉


「エール」3話 やがて窪田正孝、中村蒼、山崎育三郎になる少年達が可愛い。そして直太朗が主人公にエール

最近、やたらと「エール」という言葉が聞こえてくる。いまの日本の、世界の状況があまりにも不安なので、「エール」を送り合うしかない。そういう意味では、朝ドラ「エール」がはじまったことはタイミングが良かった。

「おはよう日本 関東版」でも4月1日、今日から新たな旅立ちをする人たちへ「エールを送りたいと思います」と声をかけていた。

4月のはじまり。いろいろある。この記事を書いているとき、朝ドラと大河ドラマの撮影をコロナウイルスの影響で当面、4月12日まで休止するというニュースを読んだ。
がんばっていきましょう!という言葉もなにやら虚しく響かないでもないが、そんなときこそ心を奮い立たせたい。

「10歳超えたら急に(足が)速くなった」

明治42年、主人公・古山裕一(石田星空)が生まれ、物語は大正8年へ。
まるで応援歌のように力強い「威風堂々」に魅入られてしまったらしい裕一は、朝から夢中で聞いているが、父・三郎(唐沢寿明)に「メシがまずい」と注意されてしまう。三郎は浪曲のほうが好きなのかもしれない。

朝ごはんの話題は、運動会。10歳超えたら急に速くなったと嘯く三郎。でもまさ(菊池桃子)に、運動は苦手だったと義母から聞いているとバラされてしまう。まさも子供の前でそんなことを言わなきゃいいのに……。

三郎は、ほんとうは気が小さいのに、ちょっと大きく出てしまうタイプらしい。
レジスター買ったり、蓄音機買ったり。そういう物を持つことで自分の身を守っているのかも。車とかハイブランドファッションとかそういう感じ? 
そんな三郎を呉服屋の従業員は「どんぶり感情」「先代とはえらい違い」などと影で言っている。

妻のお兄さん(風間杜夫)が立派だったりと、いろいろプレッシャーがあって、いまいち冴えない三郎だが、運動会の定番「天国と地獄」(地獄のオルフェ)の曲に乗って、裕一と走る練習をするときの動きのキレはすばらしい。抜かれてしまう〜という表現力も見事であった。さすが唐沢寿明。

「いまはデモクラシーの時代ですよ」

裕一は「このづくだれが」とバカにされる冴えない日々で、運動会を間近に鬱々としている。
鉄男(込江大牙)の活躍に、「世の中の人間は主役とそれ以外に分かれる」こと。「子供の世界の主役は強い者」であることを思い知らされ、落ち込む裕一の前に現れたのは、転校生で県会議員の息子・佐藤久志(山口太幹)。
「けんかなんて〜〜不合理だよ」「いまはデモクラシーの時代ですよ」と言って去っていく。この少年がやがて、山崎育三郎になるのである。

石田星空といい、鉄男の込江大牙といい、この子といい、将来の、窪田正孝、中村蒼、山崎育三郎を想像させる雰囲気があって、やがて、この3人が友情を育みながら音楽の道へと進んでいくという音楽と青春のドラマになるのかなあと思うとわくわくするが、それにしても、男ばっかり出てくるドラマである。朝ドラにしては珍しい。
早く二階堂ふみに出てきてほしい。

久志との出会いの場面の、紅い祠みたいなものがいくつも並んでいる場所が印象的だった。

「エール」3話 やがて窪田正孝、中村蒼、山崎育三郎になる少年達が可愛い。そして直太朗が主人公にエール
写真提供/NHK


「違いを気にするな」

「そんなことだからどもってんだ」と気合が足りないのだと裕一に暴力を振るう新田先生(芹澤興人)に、「言葉の詰まりは本人の気合の問題じゃない」と止めに入る新入りの藤堂先生(森山直太朗)。

「僕と君、同じ顔してるか?」
「歩く速さも違う。話し方も違う」
「違いを気にするな」
と言う藤堂先生。さらに、それぞれに得意なことがある。いまは見つからなくてもそのうち見つかるとも言って、
裕一を勇気づける。
「自分のまわりに新しい風が吹いた気がしました」とナレーション(津田健次郎)。

「どもり」という言葉を使ったのでドキッとしたのだが、使った意味がわかる物語の流れになっていた。
この言葉は使うことに配慮するという考え方もあり、「吃音症」という言い方に置き換えることもある。第2回では、裕一が「緊張すると言葉がうまく出なくなる」とやんわり説明されていたが、第3回では、先生が「どもり」と発言した。世の中にはどもる人とどもらない人がいる。ただそれだけのことだ。
LGBTQへの理解を深めていくという世の中の流れがあるのと同じなのだろう。いわゆる「多様性」。それが藤堂先生の一連の台詞に表されていた。

藤堂先生は、運動会の徒競走でピンチに陥った裕一に、ハーモニカの演奏で応援する。
「それは生まれてはじめて聞く、自分に向けられた“エール”でした」

いい先生に会えてよかった。第1回で鉄男が参っていたお墓が、この藤堂先生のお墓であった。
(文/木俣冬、タイトルイラスト/おうか)

番組情報


「エール」3話 やがて窪田正孝、中村蒼、山崎育三郎になる少年達が可愛い。そして直太朗が主人公にエール
写真提供/NHK

連続テレビ小説「エール」 
◯NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
◯BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~、再放送 午後11時~
◯土曜は一週間の振り返り

原案:林宏司
脚本:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
キャスト: 窪田正孝 二階堂ふみ 唐沢寿明 菊池桃子 ほか
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」
制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和
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