第5週「愛の狂騒曲」24回〈4月30日 (木) 放送 脚本、演出・吉田照幸 脚本協力・三谷昌登〉

「そうやって何回騙されてきたんだよ」
裕一(窪田正孝)と音(二階堂ふみ)の結婚を三郎(唐沢寿明)と光子(薬師丸ひろ子)は許したが、問題は権藤家。三郎は「任せとけ」と言うが……。「俺が親としてやれる最後のつとめだ」とカッコいいことを言いながら、夜はグーグーいびきをかく。「エール」では、登場人物に一貫性がないことをずっと書いている。他人にはいい顔しているのに家族にはひどいことをしていた鉄男の父とか、孫にはいい顔しながら実は家のことしか考えてなかった権蔵とか、意地悪に見えて妻思いの茂兵衛とか。不器用で頼りなく見えて音楽の天才の裕一が最たるものである。
吟(松井玲奈)もそう。裕一の演奏会用の詞を書くことになった音が父のことを書こうとしている流れで「亡くなって何年だっけ?」と覚えていないのに音が「思い出すことも少なくなったよね」と言うと、「年とるほど思い出しちゃう」と言うのである。亡くなって何年かちゃんと覚えてないのに。でも実際、人間なんてそんなものだと思う。
さらに吟はただ嫁に行きたいと感情的に焦っているわけでなく、長女として関内家を継いで「お父さんを安心させたい」と責任を感じていることも語られた。

「家を継ぐ」と「家を継ぐ」が重なって福島では、戻ってきた三郎がさっそくまさ(菊池桃子)と次男・浩二(佐久本宝)に反対されている。裕一は権藤家を継がないといけない人だと浩二は言う。
「そうやって何回騙されてきたんだよ」と裕一に不信感を抱く浩二。
「今度ばかりは浩二に賛成」とまさ。さんざん浩二に裕一にばかり甘いと言われているのもあるだろうし、遠距離結婚はおかしいと三郎に意見する。この時代にそれはないよなあ、たしかに。先進的な結婚の形である。
「私は音楽と出会って救われた」
次に「家族に認められない」と「両親に認められた」の対比が来る。裕一は三郎の“いびき”を曲にする。とても前衛的な感じの曲だが、ミュージック ティーチャー御手洗(古川雄大)は褒める。三郎の滑稽さをこんなふうにいい話に転換するのもいいし、異色な曲をトランスジェンダーの御手洗だからこそ理解できるのだろう。
エキセントリックな御手洗にも、人に言えないことがあった。過去にいやな目にあったことを、「ミュージックティーチャー」で笑いに変えてやり過ごしているのである。ただ「幸い両親は認めてくれた」というのが御手洗には救いになっている。
御手洗、三郎、吟……とこれまでさんざん笑かしておいて、ここで別の面を出してふっとしんみりさせる。緩急のつけ方がうまい。
裕一は、自分で作っておきながら、斬新な「いびき」が観客に伝わるだろうかと気にすると「若いんだから気にしないの」と言う。古川雄大、32歳。窪田正孝、31歳。同世代であるが、古川は年齢不詳な感じで演じているし、窪田は少年ぽく演じているしで、年齢差がそこにあるように見える。俳優ってすごい。
純粋な裕一は、なんで「先生」と呼ばれるのがいやなんですか? と率直に聞くと、御手洗は正直に答える。音にも伝えると裕一が言うと「辛気くさいのが嫌いなの」と言って、代わりに「私は音楽と出会って救われた。自分の存在を認められた。あなたには私みたいな辛い思いをしている人たちに力を与える曲を作ってほしいの」と託す。
ここは一切茶化さず、しっかりメッセージを伝える。ミュージック ティーチャーかなり重要な役割を背負っていた。

「ものを作るには何かのきっかけとかつながりが必要なんだ」
24回も場面がどんどん変わるが、異なる場面をつなげる何かがある。「家を継ぐ」「親に認められる」の次は「創作」である。音に頼まれ詞を書くことになった梅だったが、ちっとも書けない。たまたま見た文芸誌で16歳の女の子が賞を獲ったのを見て、ショックを受ける。裕一に、曲を書くときどうやって書いているか聞く。
裕一が曲を書けたきっかけは「失恋」であり、そしていまは音がいないと曲が書けないと答える。
「ものをつくるには何かのきっかけとかつながりが必要なんだ」
「ほら梅ちゃん。今、自分のなかから出そうとしてるけど、書けないなら、ほら、外に目を向けてみるといいかも」とアドバイス。
そこで梅は、裕一がしっかりしていると見直す。たしかに、創作に関することを語っている裕一は迷いなく実感がこもって見える。裕一の曖昧な部分と確信的な部分とをきちんと分解して演技して見せる窪田正孝、しっかりしている。
ちなみに梅の学校カバンは朝ドラでよく出てくる小道具。
じゃんじゃん!
今度は「父」。音と光子は安隆の墓参りに行く。
そういえば、光石研、吉原光夫、光子と「光」つながりだ。
一方、三郎は関内家に「バンジヨシ スグカエレ」と電報を送ってくる。
光子は「口だけと思っていたけど……」と三郎を見直す。そこで「じゃんじゃん!」と音が鳴って終了。「エール」はしゅる〜とフェイドアウトすることもあったり、今回みたいないかにも「終わり」にしたり、終わり方に工夫をしているのを感じる。
関内家の亡き父・安隆(光石研)がよくできた人だけに、比較されると三郎が可哀想な気もする。とはいえ三郎もただの駄目父ではない。「エール」は朝ドラには珍しく“父”が厚めに書かれている。
それにしても「オトナだぞー」のときの三郎のアップがまた使われるとは。
唐沢寿明、古川雄大共に研音所属。24回は研音俳優大活躍回であった。
(文/木俣冬、タイトルイラスト/おうか)
(これまでの木俣冬の朝ドラレビューはこちらから)

番組情報
連続テレビ小説「エール」◯NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
◯BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~、再放送 午後11時~
◯土曜は一週間の振り返り
原案:林宏司
脚本:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
キャスト: 窪田正孝 二階堂ふみ 唐沢寿明 菊池桃子 ほか
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」
制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和