第5週「愛の狂騒曲」25回〈5月1日 (金) 放送 脚本、演出・吉田照幸 脚本協力・三谷昌登〉


「エール」25話 志村けんは「だいじょうぶだぁ」と言わず、窪田正孝が「大丈夫だから」と言った
イラスト/おうか

順調に演奏会当日

「生はきつい」
喉のために生の青ネギをまるごともらってそうつぶやく音(二階堂ふみ)。完全にコントである。

話は進んで、25回はいきなり演奏会当日からはじまる。

古舘伊知郎が演じる興行師・鶴亀寅吉の胡散臭さはミスリードだったのか。
ちゃんとしたホールでお客さんもたくさん入って、演奏会がはじまる。関内家(薬師丸ひろ子、松井玲奈、森七菜)は艶やかなよそ行きで客席に。ミュージックティこと御手洗(古川雄大)もエレガントな装いで来ている。

「エール」25話 志村けんは「だいじょうぶだぁ」と言わず、窪田正孝が「大丈夫だから」と言った
写真提供/NHK

裕一の指揮で歌うのは音(二階堂ふみ)。亡くなったお父さんのことを想う歌「晩秋の頃」の歌詞は梅が書き、プログラムに名前も出て、梅は感慨無量の様子。
なにしろこれがデビュー作である。

ちなみに「晩秋の歌」がラストで、ラス前が「いびき」。どちらも「父」を想う曲であるところがポイント。せっかくの初演奏会に古山家とか藤堂先生とか鉄男が観に来てないのがちょっと残念だった。

音、声が出なくなる

なにもかもうまく行っているようだったが……
音が練習のし過ぎで、歌の途中で声が出なくなってしまった。相当あがっているのも理由であろう。楽屋から舞台にあがるとき、なんばになってた(右手右足、左手左足を同時に出して歩く。
従来、手足は左右逆になる)。

裕一は昔のおどおどしていた人物とは別人のようで、落ち着き払った様子で優しく音を励まし、観客にも声をかけて盛り上げる。指揮の仕方も堂々たるものであった。

彼女がいないと音楽ができないとまで思いつめた音に出会って、裕一は頼もしい男に変わったのだ。
これは萌える。例えば、視聴者(主として女性)は音に自分を投影して見た場合、自分と出会って、男性のポテンシャルが発揮されていくというのはこのうえもなく嬉しいことである。

窪田正孝がみごとにそれに応える、じつに優しく頼りがいのある身振りをするので、満足感はひとしお。

開演前、「今日はカッコいいね」と吟が言うと、「いつもカッコいいから」と音はぶっきらぼうに応える(音は吟に対してすごくつっけんどんなのが気になるが、姉妹のリアルといえばリアル)。24回では梅が見直していたし、梅に創作ついて相談されたこともちゃんと音には報告している。音と裕一には秘密がない(たぶん)。

なんかもう音、幸せ過ぎるだろー。もしかして御手洗の秘密もしゃべっちゃっているかもしれない。
恋人同士ってよきにつき悪きにつけ、すぐ共有したがるものなのである。

「エール」25話 志村けんは「だいじょうぶだぁ」と言わず、窪田正孝が「大丈夫だから」と言った
NHKドラマ・ガイド「連続テレビ小説 エール Part1

やっぱり、古舘伊知郎、やばかった

良かった、良かったと思いきやーー
鶴亀寅吉はやっぱりやばいやつだった。売上金を持ち逃げしてしまったことが判明。音は大激怒する。ところが、これはまったく大問題にならず、光子がじつに鷹揚に「いい薬になった」と笑い飛ばすのである。裕一も「楽しかったからいいんじゃない」と気にしない。お金に困ってない人達なんだなあというのは若干、気になるが、昨今、苦しみや哀しみや憎しみの感情はエンタメに求められない傾向があるので、これでいいのだと思う。
だからこそのコント調なのだろうし。

関内家と裕一は海に出かける。そして、音は「晩秋の頃」を改めて歌う。
ここもまたしんみりで終わらせず、裕一が海に向かって「音さんを生んできれてありがとうございま〜す!」と叫ぶと「生んだのは私」と光子はふざけるのであった。

それにしても、海で白いシャツ、帽子、ちゃんとした感じの時計をして立つとモデルのような窪田正孝。これは「まんぷく」の長谷川博己にも相通じるものがある。
朝ドラでは、男の人がしゅっとカッコいいのがいいのだ。

志村けん、登場

こうして、裕一は素敵な思い出を胸に福島へ帰る。その頃、東京では作曲界の重鎮・小山田耕作(志村けん)が、裕一の初演奏会のことが載った記事を見て「本物かまがいものか…楽しみだね」と渋くつぶやく。25回では、裕一が「大丈夫だから」「大丈夫」と2回言っているのは、志村けん登場に合わせたのであろうか。

やけに暗がりで、顔にだけ照明がぴかーっと当たっていて、ワルものコントみたいな雰囲気もしたが。3月末、新型コロナウイルス感染による肺炎で亡くなった志村けんの遺作になるらしき「エール」。出番はこれだけでなく、小山田はこれからも登場し、裕一に関わってくる。志村けんもこのシーン以外も撮影が済んでいるそうだ。今回のこれだけで出番が終わってしまったら、悲しすぎるもの。

「あさイチ」ではスタジオの近江アナが涙ぐんでいて、モニター越しの華丸大吉も「東村山音頭」を作曲することにならないというようにふざけつつしんみりしていた。「エール」の主題歌の最後に、志村けんさんが亡くなったこと「謹んで哀悼の意を表します」とテロップが出たこともやっぱり哀しいのであった。

それにしても、ミュージックティに古舘伊知郎に志村けんと濃厚なキャラがぎゅっと出ているのだが、お腹いっぱいにはならず、いい感じの口当たりで、存在感のある食材をうまく取り入れた料理上手だと感じた。とりわけ古舘伊知郎がすっと物語のなかに溶け込んでいるのがすごいと思った。ムロツヨシが4月から毎朝やっているインスタライブで、朝ドラを見て語っていて、今朝は廊下のシーンがたぶんステディでワンカットで撮っているんじゃないかと解説していたが、そういう撮り方によるところもあるだろう。
(文/木俣冬、タイトルイラスト/おうか)

(これまでの木俣冬の朝ドラレビューはこちらから)

番組情報

連続テレビ小説「エール」 
◯NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
◯BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~、再放送 午後11時~
◯土曜は一週間の振り返り

原案:林宏司
脚本:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
キャスト: 窪田正孝 二階堂ふみ 唐沢寿明 菊池桃子 ほか
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」
制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和