第7週「夢の新婚生活」34回〈5月14日 (木) 放送 脚本・清水友佳子 演出・橋爪紳一朗〉


「エール」34話 ドラマじゃないけど、窪田正孝の歌う「風をあつめて」が爽やかに流れた朝
イラスト/おうか

早朝から窪田正孝

朝、裕一役の窪田正孝がマウントレーニアのCMに出演、はっぴいえんどの「風をあつめて」を歌うというニュースが映像つきで公開されていた。ウィスパー気味の声が聞き心地よく、松本隆の歌詞もこれからの季節にぴったり。「エール」もこの爽やかさでいってほしい気もするが、声を張ったちょっとベタなコミカル路線もしっかりやっていて振り幅すごい。


裕一と久志

音(二階堂ふみ)の通う音楽学校の3年生で生徒たちの憧れの的「プリンス」(山崎育三郎)は、裕一(窪田正孝)の幼馴染の佐藤久志だった。
再会を喜び、裕一の家に招かれた久志は、裕一と音の喧嘩の仲裁をする。

「エール」34話 ドラマじゃないけど、窪田正孝の歌う「風をあつめて」が爽やかに流れた朝
写真提供/NHK

裕一が作曲家になったと知って「あのとき(小5のとき)僕が背中を押したからこそいまの君がある」と恩を着せつつ、「君は選ばれし者なんだ。いつかかならず道は開ける」と応援を約束する。
久志が何かキメ台詞を言うとき指を鳴らすのが、ドラマのディレクターみたいである。

残念ながら半年過ぎても裕一の曲は採用されず、あっという間に契約して1年が経過。来期の契約を半額にすると廿日市(古田新太)に言われてしまう。

困ったな〜という気分で帰宅すると、音は高価な蓄音機を買っていて、裕一は目を丸くする。

このとき、音がかけた「花のワルツ」はエール8話でもかかっていた。音の父(光石研)がまだ生きていたとき、吟の14歳の誕生日に家族でダンスした曲である。やたらガッツがあってちょっとこわいくらいの音ではあるが、家族で過ごした幸福な少女時代のことを大切に思っているんだろうと思わせる選曲であった。

裕一は裕一で、久志と再会し、子供時代、音楽に目覚めたときを思い出した回。裕一も音も、子供の頃から音楽と共に生きていく運命にあったことも感じさせる。


音、直談判に行く


裕一から来期の契約金が半額似減額されると聞いた音は、「何考えとるの!?」とまたすごい形相で怒り出し、裕一は身を小さくするが、今度は彼に対する怒りではなく、コロンブスレコードに対する憤慨であった。

「裕一さん、私にはあなたの音楽家としての価値を守る義務があるの」

善は急げと廿日市に会いに行く音。
そこで帰りがけの小山田(志村けん)と出くわす。

「エール」34話 ドラマじゃないけど、窪田正孝の歌う「風をあつめて」が爽やかに流れた朝
写真提供/NHK

廿日市に、裕一と契約したのは小山田の推薦があったからと聞いた音は、裕一の契約金を下げることは小山田に失礼だと言って契約金を前年どおりにする。まったく凄腕である(リングの音みたいなSEがかかる)。やっぱり音に野村監督の妻・サッチーを思い出してしまう。二階堂ふみはサッチーほど猛女にはさすがに演じていない。蓄音機の布をとるときくるくる回す動きが軽快だし、古田新太との動きのバランスも巧く、チャーミングである。

その行動力、自分のために使ってみたら? と久志が助言。鷹の塚記念公演「椿姫」 のヴァイオレッタ役の選考会に応募してはどうかと勧める(この用紙によるといまは昭和6年のようだ)。

久志はつねに誰かの背中を押す役割なんだなあ。
音の歌の道に関してはまだまだとはいえ、裕一も音も相変わらずあまりにもトントン拍子。あらかじめ、裕一はオリンピックの音楽も作るほどの人気作家になることがアナウンスされているので、こんなざっくりした調子でもやがてヒット曲を作るのだとやり過ごすことができる。


こういうふうに気合やはったりで意外とものごとは進むこともあるという現実をいささか残念に感じ心を閉ざすか、よし! 私も気合とはったりで進んでいくぜ! と前向きになるかでこれからの人生は大きく変わるに違いない。

庶民が喜ぶもの

庶民が喜ぶ曲を作れなきゃプロとして失格と廿日市は言う。
赤レーベルは居酒屋にいるおじさんたちに聞かせる音楽だから、「普通に盛り上がる音楽」を作ればいいのに、「西洋音楽の小賢しい知識をひけらかし、音楽を台無しにする。そういうところが鼻につくんです」と。

朝ドラでものづくりの話になるといつも、これはドラマをつくることに関することと置き換えられるようにも感じてしまう。以前、あるプロデューサーから、ドラマの視聴対象として、下町の居酒屋にいる人たちを見学に行ったと聞いたことがある。そういうところで夜な夜なお酒を飲んでいる人たちが視てわかる、小賢しい知識をひけらかさず、普通に盛り上がるドラマがたぶん、たくさんの人が視るドラマなのだろう。

ドラマの締めは、またまた志村けん演じる小山田耕三の思わせぶりなアップ(3度目)。自分が契約できたのは小山田の推薦だったと知った裕一が、ついに小山田と出会う。子供のときから小山田の書いた音楽の本を読んで勉強してきた裕一。憧れの巨匠を前に、さてどうなる……。

志村けんの作る笑いはそれこそ、小賢しい知識をひけらかさず、普通に盛り上がるものだった。冒頭に書いた、窪田正孝が歌っている「風をあつめて」の作詞家・松本隆も大衆に向けた歌謡曲の歌詞を作ってきた。
裕一のモデルである古関裕而や木枯のモデル・古賀政男の音楽、志村けんの笑い、松本隆の歌謡曲、こういうものを「エール」は目指しているのかもしれない。
(文/木俣冬、タイトルイラスト/おうか)

(これまでの木俣冬の朝ドラレビューはこちらから)

「エール」34話 ドラマじゃないけど、窪田正孝の歌う「風をあつめて」が爽やかに流れた朝
NHKドラマ・ガイド「連続テレビ小説 エール Part1

番組情報

連続テレビ小説「エール」 
◯NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
◯BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~、再放送 午後11時~
◯土曜は一週間の振り返り

原案:林宏司
脚本:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
キャスト: 窪田正孝 二階堂ふみ 唐沢寿明 菊池桃子 ほか
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」
制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和
編集部おすすめ