クソな現実からダッシュで逃げろ! 巨大VR空間でのお宝争奪戦
7月3日に日本テレビ「金曜ロードSHOW!」で「レディ・プレイヤー1」の放送が決定した。
スティーヴン・スピルバーグが監督を務め、2018年に公開された『レディ・プレイヤー1』。今作は、1980年代の大衆文化に対するオマージュが数多く盛り込まれ、1980年代から90年代の映像・ビデオゲーム作品の要素が数多く登場する、“世紀のオタク大戦争映画”。

空前のオタク大戦争『レディ・プレイヤー1』スピルバーグからのメッセージに泣け
『レディ・プレイヤー1』は、かつてないほどにスピルバーグが「自分の映画と、自分の映画の観客」について言及した作品である。世紀のオタク大戦争映画で発された71歳の巨匠のメッセージは、涙腺にくるものがあった。
『レディ・プレイヤー1』の原作はアーネスト・クラインが2011年に発表したSF小説。凄まじい密度で挿入されたマニアックなネタの数々、大量に登場する版権キャラ、オタクに優しいボーイミーツガール的ストーリー、『ゲームウォーズ』というダサい邦訳版タイトルなどが話題を呼んだ作品である。映像化不可能(権利的な意味で)と思われた『ゲームウォーズ』をスピルバーグが撮るというのだから、第一報を聞いた時にはどういう作品になるのか想像もつかなかった。
『レディ・プレイヤー1』の舞台は2045年の世界だ。すでに人口問題や貧富の格差、環境汚染は飽和した状態となっており、一部の金持ちを除いてほとんどの人間たちはトレーラーハウスを鋼管フレームで垂直に積み上げたスラムに住んでいる。幼い頃に両親を亡くしたオタク少年ウェイドも叔母のトレーラーハウスで暮らしており、現実世界には何一つとして楽しいことがない。
人々の支えになっているのがVRソーシャルゲーム"オアシス"である。VR用のゴーグルや対応デバイスを装着して没入するオアシスは、学校から教会、ショッピングモール、さらに多数のゲームやギャンブル、無数の娯楽を内包しており、それぞれが惑星単位で分割されているというひとつの宇宙だ。オアシス内で用いるアバターはオリジナルのキャラクターでも版権キャラクターの二次使用でもOKで、どこかで見たようなキャラたちがそこらじゅうを歩いている。第二の現実であるオアシスに、人々は金も時間も大いにつぎ込んでいるのだ。
4年前、オアシス創設者であり、億万長者のジェームズ・ハリデーが死んだ。死後に公開された遺言動画で、超難しいゲームをクリアすると現れる3つの鍵を隠したこと、それを3つとも集めると秘密の扉が開きイースターエッグが現れること、イースターエッグを見つけたものにオアシスの全資産56兆円とオアシス全体の管理権限を与えることが発表される。以降4年間に膨大な数のユーザーがエッグ探しに挑戦したものの、いまだに誰も発見できていない。ウェイドもハリデーをリスペクトしつつエッグ探しに夢中になるガンター(「エッグハンター」の略)であり、"パーシヴァル"のアカウント名で日々オアシス内を探索する。
劇中では、全世界のオタクもそれ以外も、こぞってハリデーのイースターエッグを探しまくる。イースターエッグ探しには謎かけのようなヒントがあり、またハリデーの生涯にそのヒントの答えがあるのではないかということで"ハリデー記念館"みたいな施設もオアシス上に開設。さらに56兆円の資産をゲットするために悪徳巨大企業IOIが金にモノを言わせて参戦。IOIは人海戦術でエッグ探しに挑むためオタクたちからは蛇蝎のごとく嫌われており、各所で小競り合いが発生している。「義憤に燃えるオタクたちが巨大企業に突撃する」みたいな光景は現在のネットでもよく見るけど、ネット炎上の映画をスピルバーグが撮ったのかと思うと「2018年だな〜!」という感慨が湧く。
他作品から大量のキャラクターが登場していることでも、『レディ・プレイヤー1』は話題になっている。いずれもVR上のアバターという設定で、1カットごとに膨大な人数が登場するのでソフト化の折には一時停止必至。ほとんど「スピルバーグが撮った『DAICON IVオープニングアニメーション』」といった趣である。
しかし、『レディ・プレイヤー1』の度量を感じるのは、めんどくさいオタクのめんどくさい指摘も「どんどんやったらいい」という姿勢を見せているところだ。実際劇中では付け焼き刃のオタク知識でマウントを取ろうとしてくる悪い金持ちを、ガチでめんどくさいオタクであるウェイドが「その手には乗らない!」と言いくるめる場面もある。
「めんどくささを武器に悪と戦うオタク」が主人公であるという点は、『レディ・プレイヤー1』がオタクのめんどくささを肯定していることに繋がる。「君たちはめんどくさくてもいい。めんどくさいことが君たちの素晴らしさだ」と、スピルバーグは言っているのだ。そう言われちゃうと「金田バイクのデザインってのはもっと違ってさあ……」とぐちゃぐちゃ文句を垂れているのが、なんだかスピルバーグというお釈迦様の手のひらで暴れているオタクみたいな構図に思えてくる。スピルバーグ、やはりどでかい男だ。
ハリデー=スピルバーグの言葉に泣け!
オアシスの創設者であるハリデーは、80年代に多感な時期を過ごしたオタク少年でもある。当然ながら当時の映画も大量に見ており、その中にはブロックバスタームービーを中心に活躍していたスピルバーグ作品もあったはずだ(原作小説では『インディ・ジョーンズ』シリーズや『E.T.』のキャラクターも登場するが、映画版ではスピルバーグ自身が「自惚れてるように見えちゃいそうだから」と削っている)。スピルバーグはハリデーの育ての親の一人であり、そしてウェイドら2045年のオタクたちは、スピルバーグからすると孫のような関係にあたる。
そういう距離感の作品を2018年に制作しているので、スピルバーグの目線は自然とハリデー自身に重なっている。劇中でハリデーは自分の子のような立ち位置であるウェイドと対話する。
『レディ・プレイヤー1』の終盤で語られるハリデー=スピルバーグの言葉は、スピルバーグのこれまでの人生の総決算のようなセリフだ。詳しい内容をここで書くのは控えるが、正直おれは「ゆ、遺言かな……?」と焦ってしまった。しかし死してなおハリデーがオアシスにデータとして残り続けたように、スピルバーグもまた、自分が死んだ後も自分の仕事が世界に残り続けることに絶対の確信を持っている。
そしてその確信があるからこそ、ハリデーのあの最後のセリフが発されたのだろう。クリエイターとしてのスピルバーグの自信と、裏返しとしての謙虚さ。そのスピリットを見せられた時、不覚にもおれはちょっと泣いてしまった。そうか、空前のオタク大戦争映画という舞台で、そういうことが言いたかったのかスピルバーグ。それならもう仕方ない。金田バイクの見た目がちょっと変だったことくらい、おれも水に流すよ。
(しげる)
作品データ
「レディ・プレイヤー1」公式サイト
監督/スティーブン・スピルバーグ
出演/タイ・シェリダン オリビア・クック ベン・メンデルソーン リナ・ウェイス サイモン・ペッグ マーク・ライランスほか
●STORY
2045年。