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新型コロナ感染拡大の影響で、各テレビ局では過去の番組の再放送や再編集版、傑作選などが多く放送されている。
TBSにて、2016年10月〜12月にオンエアされた「逃げるは恥だが役に立つ」特別編が放送された。
悪いヤツが居なくても事件は起こる
前回の梅原(成田凌)の「生きて会えるんだから」という意味深発言。生き死に問題を匂わせて少し強引に引きを作った感じはしたが、沼田(古田新太)との対面シーンの笑顔はすごい良かった。
「逃げるは恥だが役に立つ」には、悪いヤツが登場しない。裏切りもなければ、別れもない。誰も死なないし、大病にもかからない。不可抗力の交通事故も起こらない。簡単に言うと、“嫌なこと”が起こらない。
悪役や嫌な出来事は、物語の山場を作りやすい。悪をくじけば爽快感が生まれるし、病気や人の死を乗り越えれば感動が生まれる。
この「逃げ恥」にももちろん山場は存在する。みくり(新垣結衣)が実家に帰ってしまったり、津崎(星野源)のプロポーズを断ったり、この話の根幹である契約結婚というのも大きな山場の一つだ。全ての事件は、登場人物の弱さから起きている。
例えば、みくりが実家に帰ってしまったシーン。津崎(星野源)の弱さが、みくりの夜の誘いを断ったことから起きてしまった事件だ。他にも百合(石田ゆり子)の臆病さが風見(大谷亮平)を傷つけている。
登場人物がよく考えるとひどいことしてる
その“弱さ”というのが、冷静に考えるとなかなかにひどい。津崎は自分のプライドのために思いっきりみくりに恥をかかせているし、みくりも自分の都合や勝手な正義感を人に押し付けるきらいがある。風見は、その鉄壁の防御とも言える超理論で初登場時にとんでもない彼女のフリ方をしているし、百合は凝り固まった思考で当たり前のようにイケメン差別をする。沼田(古田新太)なんて、自分の単純な好奇心で2人の寝室を覗くわ、人の詮索ばかりするわでやりたい放題だ。
だが、このキャラクター達の中で特定の誰かが嫌いという視聴者はほとんどいないだろう。役者陣の演技と脚本の妙で全てが“人間味”という言葉で全て上手く収まり、かわいらしく見えてしまうのだ。むしろ“ダメなところが良い”という次元にまで達している。このドラマ全体を包むハッピー感を生んでいるように思う。
そして、そのそれぞれの弱さという個性が、絶食系男子、就職難、家事という労働について、独身貴族による少子化、という社会問題と直結している。

続編やるぞ感
みくりはやりがいのある仕事をすることができた。百合と風見もくっついたし、まさかの沼田も幸せを掴もうとしている。永遠に会えないと思われた日野(藤井隆)とみくりも会えた。誰も考えていなかった百合の部下の柚(山賀琴子)とバーのマスター(古館寛治)まで良い感じになっている。全ての伏線を回収し、みんなハッピーの最終回となった。
しかし、みくりと津崎の着地点は「二人で一緒になっても必ず面倒なことが起きる。だから模索は続いていく」というもの。この理論でいくと、今回丸く収まった全ての出来事に、どんな事件が起きてもおかしくないということだ。この続編やるぞ感はすごい。
何より、籍を入れていないので、普通の結婚なんか契約結婚なのかわからないまま終わらせているところが続編をやるつもりの証拠だろう。
みくりの最後の「火曜日から始めよう」というセリフ。続編は、映画ではなくドラマなのだろうか? どちらにせよ、「逃げ恥」の新作を勝手に今から楽しみにしていよう。
(沢野奈津夫)
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