『コンフィデンスマンJP』の古沢良太が最初に描いた詐欺師の物語『GREAT  PRETENDER』
古沢良太(こさわりょうた)/テレビドラマや映画を中心に活躍。『ALWAYS 三丁目の夕日』で第29回日本アカデミー賞最優秀脚本賞、『探偵はBARにいる』で第35回優秀脚本賞など数々の賞を受賞

フジテレビでは8月12日の深夜に放送された第6話から、シンガポールを舞台にした新エピソード「CASE2 Singapore Sky」がスタートしたテレビアニメ『GREAT PRETENDER』

本作でのテレビアニメ初挑戦が話題を集めている人気脚本家の古沢良太インタビュー後編では、“もう一人の主人公でもある”というローランの裏設定や、CASE1のお気に入りのシーンなどについて語ってもらった。


(インタビュー前編はこちら

僕の中での設定としては、ローランは「老若男女いける」

──主人公のエダマメ(村枝真人)を小さな世界から引っ張り出したフランス人のコンフィデンスマン(信用詐欺師)であるローラン・ティエリーは、どのような立ち位置や魅力をもった人物として生まれたのでしょうか? まだ、語れないこともたくさんありそうなキャラクターですが……。

古沢 とにかく謎に満ちていてほしいということで、一応、僕の中での設定としては、「老若男女いける」という設定があるんです。

──プレイボーイというイメージはありましたが、本当に相手を問わないのですね!

古沢 そんなに前面に出してはいないのですが、「もしかしたら、エダマメのこともそういう目で見ているのでは?」という雰囲気もほのかに感じられるような人物にしたいなと思いました。

『コンフィデンスマンJP』の古沢良太が最初に描いた詐欺師の物語『GREAT  PRETENDER』
エダマメを若き天才博士に化けさせるため、スーツを買い与えるローラン。両肩に優しく手を置きながら、少し怪しげな表情で微笑むと、エダマメもその雰囲気に当てられたのかかすかに赤面してしまう

──そのぐらい、謎に満ちている人物?

古沢 そうですね。どこまで計算していて、どこから計算していないのかよくわからない。すごく頭がいいのか、実は行き当たりばったりなのか。そういうこともはっきりわからないようなキャラクターにしたかったんです。いつも適当なことを言ってるし、本当のことは、ひとつも言ってない可能性もありますからね(笑)。

──古沢さんもそういう意識で書いているのですね。

古沢 ローランのセリフに関しては、全部が嘘という解釈もできたらいいなと思いながら書いていました。

──謎に満ちたキャラクターということで、作中においても、どこまでを明らかにして、どこまでを隠すのかにも気を使う、難しいキャラクターでもあるのでしょうか?

古沢 ローランに関しては、最初のうちはあまりキッチリと決めないまま書いていました。この先の話数で、ローランについて深く描くときには考えたのですが、そこまでは、僕自身がわからないつもりで書けば、観ている人にもわからないだろう、といった気持ちでしたね(笑)。だから、ローランに関しては、僕のイメージしているローランが(メインスタッフの)みんなにもちゃんと伝わっているのかという不安も少しあって。
「老若男女いける」とか言っていたので、すごいマッチョな「性豪」みたいな感じで受け止められてたらどうしようと心配していました(笑)。

──ローランとは、真反対のイメージですね(笑)。

古沢 だから、念のために「優男で色気がある人です」とは伝えました。実際に出来上がってきたキャラクターデザインは素晴らしかったので、ホッとしましたね(笑)。

──ローランのビジュアルイメージに関しては、誰の名前をキャラクターデザインの貞本義行さんに伝えたのですか?

古沢 ローランはフランス人にしたので、アラン・ドロンとか。

── 1960~70年代頃、二枚目の代名詞としても知られていたフランスの俳優ですね。

古沢  やっぱり美しい方がいいのかなと思って。あとは、オーランド・ブルームとか、ジョニー・デップとか。かなり前のことなので全員は覚えてないのですが、色気のあるイケメン風の外国人俳優は片っ端から名前を挙げた気がします(笑)。

アビーは、あえて影があって、エロくなく、可愛げもない女の子に

──アビーこと、アビゲイル・ジョーンズについても聞かせてください。

古沢 僕は、いわゆる「萌え」な感じの女性キャラがあまり得意ではないんです。だから、あえて、影があって、エロくもなく、可愛げもない女の子にしました。ツンデレといえばツンデレなんだけれど、「ツンデレです!」という感じも前面に出したくはない(笑)。
そういったことを考えていて、中東やアフリカ系の人がいいなと。日本のアニメでは、そういうヒロインは少ない気もしたので。

──ビジュアルのイメージとして伝えた女優さんは誰だったのですか?

古沢 ハル・ベリーとかの名前を伝えました。アビーのキャラデザもとってもいいですよね。獣のようなしなやかさもあって、すごく魅力的だなと思いました。

──可愛いさだけではない魅力も感じるヒロインです。CASE1で多くの視聴者を驚かせたであろうシンシア・ムーアについても教えてください。

古沢 アビーがちょっとひねったヒロインなので、普通に峰不二子のようなセクシーでパンチのあるゴージャスな感じの女性もいた方がいいのかなと思いながらイメージを固めていきました。プロデューサーたちからも「なんだかんだ言っても、そういうキャラクターが人気が出るんですよ」と言われたので(笑)。

──ルックスはゴージャスなのに、気さくで愛敬もある。現実にいても、大勢の人々を魅了しそうな女性です。ビジュアルのイメージも教えてください。


古沢 誰だったかな……(当時の資料を見ながら)。イギリス系で栗色もしくは赤毛の白人女性。グラマーで身長は170cm、酒が好きとか、いろいろな設定も書いてますね。伝えた名前は、ニコール・キッドマン、ジェニファー・ローレンス、メリル・ストリープとかですね。メリルなんかは特にそうですが、エダマメやアビーにとっては少しお姉さん的な立ち位置でもあるので、母性と言うか……年上のちょっと頼れる感じ、包容力のようなものが欲しかったんです。

『コンフィデンスマンJP』の古沢良太が最初に描いた詐欺師の物語『GREAT  PRETENDER』
CASE1では、ローランを追うFBIの敏腕捜査官ポーラ・ディキンスになりすまして登場したシンシア。正体が明かされる第5話の前までは、エンディングや公式サイトの表記も、ポーラ・ディキンスと書かれていた


基本的にコンゲームって、最後の騙した瞬間しかカタルシスがない

──CASE1では、エダマメがなぜ詐欺師になったのかという過去も描かれています。先ほど(前編で)「それぞれの人物が背負っているものや過去などは、もう一つのドラマとして重要だと思っていたし、それを描くこともこの作品でやりたかったこと」とも仰っていましたが、同じコンフィデンスマンを描いたドラマ『コンフィデンスマンJP』では、メインキャラの3人(ダー子、ボクちゃん、リチャード)の過去やバックボーンに関しては徹底して描かれていませんでした。本作ではなぜ、登場人物の過去も描こうと思ったのでしょうか?

古沢 まあ普通は、主人公たちの過去って書くものだと思うんですよね(笑)。

──たしかに、そうですね(笑)。

古沢 さきほど(前編)の話と重なりますが、この作品では、キャラクターの過去まで作りこんで、人間ドラマとして描こうという意図は最初からありました。過去のエピソードが挿入されてきて、過去にこういうことがあったから、今こういうことをしているし、ここでこういった行動を取る、そういう形にしたかったんです。

あと、基本的にコンゲームって、最後の騙した瞬間しかカタルシスがないんですよ。でも、この作品では、一つの事件、一つの詐欺を何話かかけて描いているので、種をまいたり餌をまいたりして地道に相手を取り込んでいくところにも話数をかけなければいけない。


だから、極端なことを言ってしまうと、お客さんにとってカタルシスのない回が続いてしまうわけです。そこを補強するために、過去の話やそこから生まれる人間ドラマといった要素を入れています。逆に『コンフィデンスマンJP』は1話完結で、その回にターゲットの相手が出てきて、その回のうちにちゃんと落とすので、(人間ドラマがなくても)成立するんですよね。

──詐欺の仕掛けに関する面白さで、毎話楽しませることができると。

古沢 それに放送は『コンフィデンスマン JP』 の方が早かったですが、企画の始動は『GREAT PRETENDER』の方が早かったので、その反動で「『コンフィデンスマン JP』 では人間ドラマはいらない!」と思ったというか、そういう形に挑戦してみたいと思ったんです。

──ちなみに、後から制作が始まった『コンフィデンスマンJP』の方が先に完成して放送されたのは、『GREAT PRETENDER』の方で進行が止まったりした時期があったということですか?

古沢 特に何かで遅れたとかではなくて。元々、アニメは作画などの作業にすごく時間がかかりますよね。でも、ドラマは俳優さんのスケジュールによって撮影期間が決まってしまうので、その決められた短い時間でガッと作るんです。だから、単に『コンフィデンスマンJP』が追い抜いたということだと思います。

「サラザールの息子まで偽物じゃなくてよかった」と言われた

──CASE1に関して、特に核となったアイディア……「このアイデアが浮かんだから、CASE1はいけるなと思えた」というようなポイントになったことなどはありますか?

古沢  う~ん……。 「いける!」なんて思ったことは、いまだにないですね(笑)。いつも「これで大丈夫かなあ」と思いながら提出しています。でも、工藤とか、(キム・)シウォンは書きながら成り行きで出てきたキャラクターなんですけれど、面白いキャラクターになったので、書いていても楽しかったですね。
あと、僕は(ロス市警の)アンダーソン警部が好きなんですよ。ハンバーガーを注文するシーンとか、書いていて面白くなっていきました(笑)。

『コンフィデンスマンJP』の古沢良太が最初に描いた詐欺師の物語『GREAT  PRETENDER』
長年、カッサーノを執拗に追っているふりをしながら、実は裏でカッサーノと繋がっていたロス市警のアンダーソン警部。ピクルスが嫌いで、ハンバーガーを注文するときも、ピクルス抜きに非常にこだわっていた


──夢の中でもハンバーガーを注文していたのが面白かったです。では、完成したCASE1の映像に関して、特にイメージ通りだったシーンや、良い意味でイメージとは異なったシーンなど印象的なところがあれば教えてください。

古沢 けっこう、どこもイメージ通りの映像なんですよね。絵の綺麗さなども含めてすごく満足しています。驚いたり、怒ったり、笑ったりといったエダマメの表情とかも感情豊かに表現されていて、すごく入り込める作品だなと感じました。

──取材の前にCASE1を改めて見直したのですが、登場人物の中で一番たくさん騙されているのはエダマメなんですよね(笑)。

古沢 あはは、そうですね(笑)。

──その時の反応も含めて、愛すべき主人公だなと感じました。

古沢 エダマメに関して言えば、ターゲットの(エディ・)カッサーノの懐に入るために彼がプロデュースした映画「灼熱シリーズ」を観て勉強するんだけれど。世間では駄作と言われている作品なのに、本当にファンになっちゃって。
「あの映画はすごく面白い」って言い出すシーンも、エダマメっぽさがすごく出ていて面白かったですね。あと、CASE1を観た知り合いに、「サラザールの息子(トム)まで偽物じゃなくてよかった。安心した」と言われたのも面白かったです(笑)。 僕もその発想はなかったので(笑)。

『コンフィデンスマンJP』の古沢良太が最初に描いた詐欺師の物語『GREAT  PRETENDER』
妻を亡くし、男手一つで息子のトムを育てているサラザール。二人の姿に、幼い頃の自分と父親の姿を重ねたエダマメは、サラザールを助けるために、ポーラ(正体はシンシア)に交渉を持ちかけた

──第6話からスタートしたCASE2以降の見どころを、ネタバレにならない範囲で伺えますか?

古沢 CASE2では、エアレースという飛行機のレースを使った詐欺が行われるんですけれど、作画チームが本当に素晴らしくて。現地まで行って飛ぶコースとかを見て来て、すごく精密に作ってくださっているんです。実際にはシンガポールの街中で、あんな危険なレースが行われたりはしないんですけれど(笑)。もし行われたら、こんな風になるんだろうなと思えるような映像になってます。そのエアレースの迫力や作画の素晴らしさをぜひ観てほしいですね。あと、アビーの物語にもなっているので、アビーというキャラクターをぐっと身近に感じてもらえるんじゃないかなと思います。

──では、CASE3の見どころもお願いします。

古沢 「ロンドンの雪」という幻の名画をめぐる詐欺の話と、シンシアの若き日の恋の話なんですけれど。絵もすごくよかったし、僕も大好きなお話です。たぶん、一番実写に近いお話ですし、恋の物語としても、しみじみと楽しんでもらえたらと思います。

──最後のCASE4は、「Wizard of Far East(極東の魔法使い)」というサブタイトルは公開されていますが、まだNetflixでも配信されていません。どのようなお話になるのでしょうか?

古沢 ローランの物語にフィーチャーして行くお話で、新たなキーパーソンも登場します。ボリュームも一番多く、東京と上海を舞台に壮大な物語が描かれていきますし、けっこう驚きもあると思いますよ。

──非常に楽しみです! では、この『GREAT PRETENDER』という作品は、「脚本家・古沢良太」にとってどのような作品になりましたか? あるいはこれからなると思いますか?

古沢 アニメを学ばせてもらった作品ですね。アニメに関しては僕は新人で、この作品が名刺代わりと言うか、最初の一歩だと思っているので、ここで得たものをいかして、またアニメにもチャレンジさせてもらいたい。そう思わせてもらえた作品です。そういう意味では、すごく収穫の大きい仕事だったと感じています。

──古沢さんは、『GREAT PRETENDER』『コンフィデンスマンJP』と、いつか挑戦してみたかったという詐欺師の物語を続けて書かれたわけですが、 実際に書いてみて、そういった物語を書く楽しさは感じられましたか?

古沢 やっぱり大変ではあったし、楽しさはよくわからないですね……(笑)。どれだけやっても、まだつかめないというか。だからこそ、続けられたのかもしれないですけれど。

──もう書き切ってお腹いっぱい、という感覚ではない?

古沢 やってもやっても、自分の中ではあまりうまくできたとは思えなくて。作品の評価を決めるのはお客さんなので、お客さんが楽しんでもらえればそれでいいのですが。自分の中では、これじゃ終われないよなという気持ちがずっと残っている。それくらい難しいものだなと思っています。機会とアイデアさえあれば、また挑戦してみたい気持ちはありますね。
(丸本大輔)

※インタビュー前編はこちら

作品情報

『GREAT PRETENDER』
フジテレビ「+Ultra」
毎週水曜日24時55分から放送(BSフジ、ほか各局でも放送)

Netflix視聴ページ:https://www.netflix.com/title/81220435
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