『半沢直樹』の“倍返し”は犯罪スレスレだった? ドラマで話題のシーンを現役銀行員が解説
画像はTBSテレビ『半沢直樹』公式サイトより(写真:エキサイトニュース)

日曜ドラマ「半沢直樹」が今月27日にいよいよ最終回を迎える。半沢直樹演じる堺雅人はもちろん、及川光博、片岡愛之助、香川照之といった豪華キャストによる迫力ある演技や疾走感のある展開を毎週楽しみにしているという人も多いだろう。


前作同様、「ホワイトナイト」や「債権放棄」など、金融の専門用語が頻繁に出てくるドラマとなっているが、こういった金融用語をよくわからないまま見ている視聴者の方も少なくないはず。

というわけで今回は、某メガバンクに勤務する現役の銀行員・Aさん(仮名)に、金融のことがよくわからないまま半沢直樹を見ている人のためにドラマの解説をお願いした。
『半沢直樹』の“倍返し”は犯罪スレスレだった? ドラマで話題のシーンを現役銀行員が解説
インタビューに応じてくれた某メガバンクに勤務する現役の銀行員・Aさん(仮名)

半沢直樹に欠かせない「土下座」は実際にあるのか?


――早速ですが、銀行員の方もけっこう「半沢直樹」を観ているんでしょうか?

僕は観ていますね。周りの銀行員もけっこう観ていると思います。

――半沢を観ていると怒鳴り合いが多すぎて「大声を出せないと銀行員になれないのかな?」という気がしてくるんですが、実際に銀行であんな大声を出すことはあるんでしょうか?

ないです!(笑) いまは銀行もパワハラにも気をつけているので怒鳴り合うようなことはないですね。
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――一応確認したいのですが土下座も実際にはないですよね?

あ〜。土下座は……ないですね(笑)。

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――よかったです(笑)。 あと、役員が集まるための異常に大きい会議室もないでしょうか?

いや、あれは似たような部屋がありますね。
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――あるんですか!

そのものではないんですけど、かなり大きい役員室はあります。役員がずらっと並ぶ巨大なテーブルもありますね。

――毎回「広い会議室だな」と思いながら観ていたので実際あるのは衝撃です……!

「証券会社への出向」は感謝するのが普通?


――(現在放送されている)第2期は、半沢が子会社の「東京セントラル証券」に出向するところからスタートしますが、そもそも証券会社とはどういうところなんでしょうか?

簡単にいうと「投資家と企業を繋ぐ会社」ですね。投資家からお金集めて、それをお金を欲しがっている別のところに繋げる。

銀行も似たようなことをしてるんですけど、証券会社と違うのは銀行は「自分のお金」を貸し出しますが、証券会社は直接「投資家のお金」を投資家に繋げます。

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なので、貸したお金が返って来ないと銀行は「自分」が損しますが、証券会社は「投資家」が損するのが大きな違いですね。

――ドラマだと「(子会社の)証券会社は小さい仕事しかできない」とされていますが、これは実際どうなんでしょうか?

証券会社にもよると思います。うちは銀行より(グループ会社の)証券の方が大きい仕事ができることもあるんですよ。

――そうなんですか!

これは結局、お客さんが銀行と証券のどっちを選ぶかによるんです。だから、それぞれの銀行によって違うところだと思いますね。

――それから、「子会社に出向する」ということが徹底的にイヤなこととして描かれているんですけど、これは実際どうなんでしょうか?

難しいところなんですけど、半沢のドラマがそもそも「ひと昔前の銀行」をモデルにしているんですね。
だから、今とは違うところも多いです。

ドラマで何が描きたいのかというと、銀行ってだいたい50歳前後で卒業する人が多いんですね。で、だいたいはグループの子会社などに出向していくことになります。

なので、昔だと「子会社に出向する」ってそこで(出世が)終わりってイメージがあったので、あんな風にネガティブに描かれているんだと思います。

――では、今だと「子会社に出向する」のもそこまでイヤなことではないんでしょうか?

「子会社の証券会社に出向する」ということなら、全然イヤなことではないですね。むしろキャリアを考えるとすごく良いことだと言われています。

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――ドラマのイメージと真逆ですね。

証券会社って、取引先に大企業が多いんです。

証券会社って投資家のお金を貸し出すので、情報が少ない小さい会社にお金を貸そうとすると、投資家に「その会社ってどういう会社?」と言われてしまうんですね。だから、情報がたくさんある大企業にお金を貸すことが多いんです。

なので、証券で大企業にとって必要な知識を身につけて、何年かしてから銀行に帰ってきてその知識を活かすというキャリアも多いですね。

――「子会社への出向=片道切符」という時代ではなくなっているんですね……!

そうですね。
むしろ証券は評価されている人が出向するイメージも強いです。

年齢にもよりますが、「あなたは証券に行ってください」と言われたら「ありがとうございます!」っていう感覚の方がいまはしっくりくると思いますね。

――なるほど。銀行も時代によって大きく変わっているんですね。

1500億円の買収は実際大きい案件なのか?


――ドラマは半沢が「企業買収のアドバイザリー契約」を結ぶところから始まるのですが、まずこの企業買収のアドバイザリー契約がなんなのかわからないまま観ています。

買収って、会社を「買いたい人」と「売りたい人」がいるわけじゃないですか。で、アドバイザーってその両方それぞれにつくんです。


買う側と売る側、それぞれに違う証券会社がついて、買う側はできるだけ安く、売る側はできるだけ高くなるよう交渉するのもアドバイザーなんですね。
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たとえば「100億で売りたいです」って人と「50億で買いたいです」って人がいたときに、「これ100億って言っているけど、よく見たらこの事業ってあんまり価値ないから安くできますよね」とか言って調整するのがアドバイザーなんですね。

――ドラマで「1500億円の買収のアドバイザリー契約」に大喜びするシーンがあり、金額が大きすぎてピンと来ないのですが、実際これは証券会社にとって大きい案件なんでしょうか?

「いくらなら大きい案件か」というのは担当者によってかなり違うと思います。

ただ、1500億円の買収なら、アドバイザーの証券会社には10~20億円ぐらい入ってくるので、大きい案件だと思います。

――逆に、どれくらいだと証券会社にとって小さい案件になるんでしょうか?

うーん……。10億未満だと小さい案件になるのかな?「その会社の利益のどれくらいを占めているか」というのが大事なのでひとくくりには出来ないんですけど。

たとえば、さっき1500億円が大きい案件だといいましたけど、担当者から見たら大きくても、銀行全体で見たらそこまで大きい案件ではないかもしれません。

小さくもないけど、大きくもない案件ですね。数千億を超えると、銀行としても大きい案件になると思います。
『半沢直樹』の“倍返し”は犯罪スレスレだった? ドラマで話題のシーンを現役銀行員が解説

――1500億円の買収だと、ローソン(三菱商事が買収)などが実際にあった例ですよね。ものすごく大きな案件なのかなと思っていたのですが、銀行員の方から見ると違って見えているんですね……!

半沢の倍返しは違法ではないのか


――半沢は、買収計画で会社を買う側にアドバイザー契約を切られ、売る側とアドバイザー契約を結ぶんですが、これは実際にあるんでしょうか?

これは実際にやったらダメなやつです(笑)。

――えっ? これ実際はダメなんですか?

犯罪ですね。その可能性があります。
『半沢直樹』の“倍返し”は犯罪スレスレだった? ドラマで話題のシーンを現役銀行員が解説

――半沢の倍返しが犯罪だとは……。

買収するときって、売る側と買う側が別々になります。

利益相反になる可能性があるので、「買う側」だった人が「売る側」につくというのは基本的にはないです。

――なるほど。あともう一つ気になっていたのが、黒崎ひきいる証券取引監視委員会が来たときに、半沢たちが都合の悪いデータを隠そうとするんですよね。

犯罪ですね。
『半沢直樹』の“倍返し”は犯罪スレスレだった? ドラマで話題のシーンを現役銀行員が解説

――冒頭だけで半沢が2回捕まってしまいました……。

僕は銀行員で証券会社ではないので詳しいことはわかりませんが、こういった検査が入ったとき、不都合なデータを隠すと普通は一発で処分されますね。逮捕者が出たりもします。

――だいぶ重い話になってきました。ちなみに、明言されてないものの、買収されないために半沢がマスコミに情報を出して株を上げたり下げたりしていると思われるシーンがあるんですが……それも?

犯罪ですね。
『半沢直樹』の“倍返し”は犯罪スレスレだった? ドラマで話題のシーンを現役銀行員が解説

「株価操縦」になりますね。そもそも買収のような株に影響する情報って、インサイダー情報といってかなり慎重に扱わないといけないんですよ。

これを破ると、金額に関係なく逮捕されます。買収に対抗する戦略として実際あるのかもしれないですけど、基本はやらないものですね。

――ドラマで描かれていない部分もあるはずなので厳密に犯罪に当たるかはわかりませんが、半沢の「倍返し」がかなり法的にグレーな方法で成り立っていたんですね!

現実で半沢の立場になったらどうするのか


――半沢はスパイラルという会社が買収されないようにアドバイザーをしていましたが、実際こうやって買収を防ぎたい時はどういうことをするんでしょうか?

違法にならないように戦略を立てます(笑)。
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――そりゃそうですよね。

これはひとつの例ですけど、買収って「マーケットにある株のうち70%を買ったら買収成立!」という風になっているんですね。

だから、買いたい方は「いま株は100円ですが、プレミアを付けて150円で買い取ります」って言ってマーケットにある株を買い占めます。

で、売る側がどうしてもそれがイヤだという場合は、ホワイトナイトに「うちは160円で買い取りますよ」と言ってもらって、代わりに買収してもらったりするんです。

――ドラマでも「ホワイトナイト」が出てきましたが、ホワイトナイトはどういうメリットがあって助けてくれるんでしょうか?

会社の方針に賛同してくれている、とかですね。例えばですけど、スポーツを盛り上げたくて作った会社Aが、まったくスポーツに興味のない会社Bに買収されそうだとします。

会社Bに買収されたらスポーツの事業をやめさせられてしまうので、同じくスポーツを盛り上げたいと考えている別の会社Cに買収してもらう、というイメージですね。
『半沢直樹』の“倍返し”は犯罪スレスレだった? ドラマで話題のシーンを現役銀行員が解説

この場合、どっちにせよ会社Aは買収されてしまうんですけど、BよりはCに買われる方がいいですよね。こういうCのような会社がホワイトナイトと呼ばれます。

――なるほど! ちなみにドラマでは「Cだと思ったらBだった」、つまり「ホワイトナイトかと思ったら敵だった」というパターンが起きるんですが……これも?

ドラマでの場合は、敵側の証券会社が逮捕されるでしょうね。買う側にも売る側にも情報をもらっているのは犯罪ですね。
『半沢直樹』の“倍返し”は犯罪スレスレだった? ドラマで話題のシーンを現役銀行員が解説

――ドラマでも「お前がやったことは犯罪だ!」と指摘するセリフがあるんですけど、問題点や裏側の仕組みが理解できて嬉しいです!

<後編では、ドラマの後半部分ともなる帝国航空編を解説してもらう>

■まいしろ
社会の荒波から逃げ回ってる意識低めのエンタメ系マーケターです。音楽の分析記事・エンタメ業界のことをよく書きます。

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