『エール』第22週「ふるさとに響く歌」 106回〈11月9日(月) 放送 作:清水友佳子、演出:松園武大、丸山文正〉

『エール』鉄男の心配をするあかね 朝ドラ名物「終盤、いろんな登場人物が結ばれていく」パターンか
イラスト/おうか

「さくらんぼ大将」とは

『エール』もいよいよあと3週。音(二階堂ふみ)の夢は決着がつき、聖歌隊に入って歌を続けていて、華(古川琴音)は「人が幸せになる手伝いがしたい」と看護学校に通っている。

【前話レビュー】朝ドラ名物「最終回かと思った」 だがきっとこれは楽しく音楽と向き合えた音にとっての最終回

ときに昭和26年。
裕一(窪田正孝)は、新しいラジオドラマ『さくらんぼ大将』の曲を作っている。

『さくらんぼ大将』とは。
『鐘よ鳴り響け 古関裕而自伝』によると、裕一のモデル古関裕而が菊田一夫(池田のモデル)と組んだ『さくらんぼ大将』は『鐘の鳴る丘』終了後、昭和26年1月4日から、週5日、午後5時45分から15分間、放送された。

主人公は、さくらんぼ大将と呼ばれる少年六郎太。菊田一夫が「どこか田舎の、それも僻地に住む少年にまつわる話をやりたい」と古関にいい場所はないかと聞き、古関が戦時中に福島に疎開していたとき歩いた茂庭というさくらんぼの産地を提案。菊田の書いた台本の方言は古関が福島の言葉に直した。

茂庭の少年・六郎太(中井啓輔)と、医者の大野蛮洋先生(古川ロッパ)を中心にした社会問題抜きの楽しい物語。徐々に福島を出て、六郎太と蛮洋先生が薬を売りながら全国を旅して回り、昭和27年まで続いた。

『鐘よ鳴り響け』には、茂庭はダム建設の話もあるとして、“あの自然の中の素朴な姿は、いつまでも残しておきたいと、私は願っている。”と綴られている。ダムはできたが、地元のホームページを見ると美しい風景も残っているようだ。歌が残ることで、当時の景色や、人々の生活が後世に伝わることの大切さを感じる。


地元・福島に関わりある『さくらんぼ大将』を裕一と池田(北村有起哉)との電話での会話と、鉄男(中村蒼)が参加しての食事中の会話ですこしだけ触れて、ドラマは故郷のターンに。鉄男と裕一が福島へ――。

「湯の町エレジー」とは戦後最大のヒット曲

古山家の夕飯に鉄男が招かれ、おいしそうなカツレツをほおばりながら家族の話になるが、華の興味に、鉄男は答えをぼやかす。

その頃、コロンブスレコードで、ディレクターの杉山あかね(加弥乃)に、家族をテーマにした映画『されど家族』の主題歌の歌詞を依頼されるが、鉄男は保留にする。

その晩の夕食は、智彦(奥野瑛太)のラーメン屋。古山家、ラーメン屋……鉄男が外食ばかりなのは、彼が独り身であるから。という感じが強調されながら、鉄男はラーメン屋にいた池田に「自分にないものは書けない」と吐露する。

だが、池田は鉄男に共感しながらも、「われわれには想像力ってもんがあるだろ。膨らませるのもしぼませるのもてめえ次第だ」と言う。

『エール』鉄男の心配をするあかね 朝ドラ名物「終盤、いろんな登場人物が結ばれていく」パターンか
写真提供/NHK

ラジオから流れてきた「湯の町エレジー」は91話で、鉄男がタイトルだけ書く場面が出てきたもの。鉄男のモデル・野村俊夫が昭和23年に発表した戦後最大のヒット曲で40万枚売れ、映画化もされた。作曲は、木枯のモデルとなった古賀政男。

鉄男の「自分にないものは書けない」というセリフのように、モデルの野村は、湯の町の舞台となった伊豆の山々を実際に歩いて詞を書いた。
古賀の要請もあって三度も書き直した力作である。

ちなみにこの頃、野村が参加していた詩の雑誌は『蒼空』。裕一の曲に詞をつけて音が歌った「蒼き空へ」はここから取られたのかもしれない。

『東京だョおっ母さん 野村俊夫物語』(斎藤秀隆著)によると、モデルの野村俊夫は戦時中、検閲を受けながら軍事歌謡に関わって、戦後は戦犯詩人扱いされたと回想しており、「湯の町エレジー」によって裕福かつ有名になっていた。

『エール』の鉄男は「未熟者」と謙遜しながら、地味な生活を送っている。そして家族がいない。モデルの野村には家族がいる。家族がいても哀愁のある歌も書いていたのであるが、ドラマの鉄男は自分にないものは書けず、家族がいないので家族の歌が書けないと悩むはめになっている。

古山家、晴れてケン(松大航也)を養子に迎えた吟(松井玲奈)と智彦家、ふたつの家族の仲睦まじさが、鉄男を刺激する。

裕一が、鉄男のために一肌脱ぐ

福島の母校から校歌を頼まれた裕一は、鉄男に詞を書かないかと誘う。そのために、故郷に戻るふたり。

鉄男には裕一がいる。さらに、さりげなくも、あざとく、鉄男を心配するあかねを描く(あかねがあざといわけではない)。
これまで私情をいっさいはさまない事務的なあかねだったが、妙に鉄男を心配する。朝ドラ名物、終盤、いろんな登場人物が片付いていく(結ばれていく)パターンか。
(木俣冬)

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■窪田正孝(古山裕一役)プロフィール・出演作品・ニュース
■二階堂ふみ(古山音役)プロフィール・出演作品・ニュース
■古川琴音(古山華役)プロフィール・出演作品・ニュース
■中村蒼(村野鉄男役)プロフィール・出演作品・ニュース
■松井玲奈(関内吟役)プロフィール・出演作品・ニュース
■奥野瑛太(関内智彦役)プロフィール・出演作品・ニュース
■松大航也(関内ケン役)プロフィール・出演作品・ニュース
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■野間口徹(梶取保役)プロフィール・出演作品・ニュース
■北村有起哉(池田二郎役)プロフィール・出演作品・ニュース
■加弥乃(杉山あかね役)プロフィール・出演作品・ニュース

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『エール』鉄男の心配をするあかね 朝ドラ名物「終盤、いろんな登場人物が結ばれていく」パターンか
写真提供/NHK

番組情報

連続テレビ小説「エール」 

【放送予定】
2020年3月30日(月)~11月28日(土)

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

原作・原案:林宏司
脚本・作:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
主演: 窪田正孝 二階堂ふみ
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」

制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和
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