『監察医 朝顔』が現代的なドラマである所以は生活のディテールを丹念に描いている点
イラスト/ゆいざえもん

人生の希望描く『監察医 朝顔』

朝、桑原真也(風間俊介)の顔に生足。まさか、朝顔(上野樹里)?と思ったら、娘・つぐみ(加藤柚凪)の足だった。下手(しもて)から桑原、つぐみ、朝顔、川の字で寝ている3人親子。
布団というのも日本情緒。

【前話レビュー】『監察医 朝顔』1話 傷を抱えながら人々の“生きた証”を残す朝顔が愛された理由

そこへ茶子先生(山口智子)から電話で呼び出しが入る。朝顔はつぐみと出かける予定だったが、急な仕事が入って、つぐみは拗ねてしまう。

『監察医 朝顔』第2話。野球のユニフォームを着た14歳の少年の死体が校庭のフェンスの脇で発見され、その遺体の解剖を朝顔が行うことになった。

少年の手のひらに豆のような結節。みぞおちには殴られたような痣。虫歯はない。……等々、遺体から情報の数々がわかっていく。

死因はみぞおちの怪我。何者かに殴られたとしたら殺人。それとも、単なる事故か。
検視官の丸屋(杉本哲太)は結論を急ぎたがるが、簡単にはいかない。

被害者の矢野諒(池田優斗)の父は報を受けて慌たため、あいにく階段から落ちて意識不明になってしまった。代わりに身元確認に現れたのは祖母と双子の兄・一馬(池田優斗/一人二役)。双子なのに野球の才能が全然違い、一馬は優れていて、諒は劣っていた。まるで、あだち充の『タッチ』みたいな設定だ。

真っ先に疑われたのは監督の三輪(金ちゃん)。たびたび部員たちにハラスメントを行っていたらしい彼が、金属バットで少年のみぞおちを殴ったのではないか。

茶子先生は、一馬と諒の双子が似ていないと言う。片方は、ボワンワンワンとしていて、片方は モワーンとしているとじつに感覚的なことを。その前に、唯一無二の、茶子の珈琲豆の話をしていることにも注目。世の中には同じものはひとつとしてないということを強調し、そっくりな双子にも必ず違いがあることを示唆する。

『監察医 朝顔』が現代的なドラマである所以は生活のディテールを丹念に描いている点
第3話は11月16日放送。画像は番組サイトより

事件を追う者も普通の生活者である

ふたりの描いた絵の違いから、亡くなったのは、諒ではなく一馬ではないかという仮説を導き出す朝顔。いったいなぜ、諒は一馬になりすましているのか……。


朝顔が少年の遺体から読み取ったメッセージは、双子というそっくりな、まるで自分の半身のようでもある、残された者への思いやりだった。

朝顔が遺体の解剖をしているとき、桑原はつぐみを連れて水族館に出かける。しろくまやしろイルカなどと戯れて、つぐみはすっかり機嫌を直す。この場面には視聴者も和んだ。

それにしても桑原はなんていい夫であろうか。万木家は一家で刑事と法医学者という、かなり時間に追われる仕事をしているとはいえ、3人(朝顔、桑原、平)いれば、一人は休んで家のことをするなど協力しあい、うまいこと子育てと仕事を両立させている。

帰宅して、餃子を作る朝顔を呼ぶつぐみ。そこへすっと桑原がやってきて餃子作りを交代し、朝顔は娘のもとへ――。1話のお風呂に連れていくタイミングといい、桑原はじつに勘がいい。

つぐみまで食卓を拭くお手伝いをしている。帰宅した平は花を買ってきて、古いものと入れ替える。それがメインではなく、その動きをしながら物語が進行していく。


『朝顔』が現代的なドラマである所以はここである。生活のディテールを当たり前に描いていることだ。それがこのドラマのメインではなく、事件の真相を追う部分にあるのだが、事件を追う者も普通の生活者であると丹念に描いている。

しかも、ちょっと前のドラマであれば、主人公は仕事と子育てがうまくできずに悩むところがフォーカスされることが多かった。『朝顔』は違う。そこにはフォーカスしない。当たり前に家族が協力している、そっち側を描く。

これは、さりげないながら、とても重要な部分である。というのは、両立が大変! とあわてふためく様をドラマで描くと、そこに共感する人たちは一定数表れる。たとえば、上野樹里の代表作である『のだめカンタービレ』ののだめは片付けられない人の典型だった。音楽にすべてを注いでほかのことはからきしだめ。それはそれで魅力でもあった。


その反対に、『朝顔』のように大変なことを家族でうまいことフォローし合うことを具体的に描けば、それはそれで、自然とそういうものに思えてくるものなのである。「私も普段こうやっている」と共感したり、「ああ、私もこういうふうにしたらいいのか」と参考になったり。「こんな旦那さんだったらいいなあ」と思ったり。

SNSでよく流れてくるマザーテレサの名言のひとつに、こういうものがある。

「思考に気をつけなさい、それはいつか言葉になるから。
言葉に気をつけなさい、それはいつか行動になるから。
行動に気をつけなさい、それはいつか習慣になるから。
習慣に気をつけなさい、それはいつか性格になるから。
性格に気をつけなさい、それはいつか運命になるから」

『朝顔』の取り組みはまさに、

「行動に気をつけなさい、それはいつか習慣になるから。
習慣に気をつけなさい、それはいつか性格になるから。」

である。朝顔と桑原たちの、生きることに前向きな行動を描くことで、視聴者にはそれが当たり前のことと定着されていく。これはけして悪いことではない。


双子の違いを医学的に明確にすることは不可能なのだという。そんななかで、朝顔は、双子の描く絵に表された、ふたりの物事に対する認識の違いを知って、双子の判別をするのである。

医学だったり生物学であったり、数値で決められた事柄以外にも、育ってきた環境や習慣で、人間が形成されるものなのだ。運命というものが決められているとしても、思考や、言葉や、行動や、習慣に気をつけることで、向かう方向はすこし変わっていくのではないか。そんな希望を『朝顔』は描いている。
(木俣冬)

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番組情報

フジテレビ『監察医 朝顔』
毎週月曜よる9:00〜

公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/asagao2/
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