『エール』第23週「恋のメロディ」 112回〈11月17日(火) 放送 作:吉田照幸、演出:吉田照幸、安食大輔、谷口尊洋〉

違うドラマがはじまったかと思った
朝ドラあるある“最終回かと思った”(いい話でまとまった回)はおなじみだが、ほかにも“違うドラマがはじまったかと思った”がある。あるとき、突如として、これまでのトーンと変わるときがあるのだ。112回がそうだった。【前話レビュー】ついに出た『君の名は』! “入れ替わってる”の『君の名は。』ではなく“すれ違ってる”ほう
裕一(窪田正孝)の多忙な音楽活動がかなりコント仕立てで描かれた。「君の名は」「ひめゆりの塔」「長崎の雨」……。最終回まであと9回。コロナ禍で放送回数が短縮、撮影スケジュールも大幅に変更され、時間がないなか駆け足で描くにはこの方法は有効であろう。
驚いたのは、アテレコ形式。裕一の代表作のひとつで、久志(山崎育三郎)のモデルである佐藤久男が歌って大ヒットした「イヨマンテの夜」の誕生とヒットまでを、演じているのはいつもの窪田正孝、北村有起哉、山崎育三郎、加弥乃たちではあるが、彼らのセリフをナレーションの津田健次郎が七色の声で演じ分けた。
狙いなのか偶然かわからないが、山崎育三郎の「エイヤ〜〜 アアア♪」と歌う声だけ、本人のホンモノで、その独特の力強い声を際立たせることに成功した。
史実では「イヨマンテの夜」は1949年に発表され、火が付いたのは、1950年代に入ってから。「のど自慢」ではよく歌われたというのも事実。ちなみに、作・演出の吉田照幸はドラマ制作に携わるまえに「のど自慢」を担当していた時期がある。
この斬新な試みでもうひとつ特筆すべきことがある。
喫茶バンブーで、エキストラのように存在する保(野間口徹)と恵(仲里依紗)の演技だ。裕一と久志とあかねが「昔の悪いクセが出ましたね、古山先生」などと話している短い場面で、セリフはなくうしろで働いているだけなのだが、裕一と久志とあかねの会話を仕事の合間に気にしている視線と、保と恵が時々、アイコンタクトしている動きがじつになめらか。単なるエキストラではなく、メインキャラを担えるだけの力のある俳優だからできることで、このうえもなく贅沢なシーンになった。
それにしても、違うドラマのようだったが、それを正当化とするとしたらこれしかない。
「知らんうちにみんな変わっとるの」
華(古川琴音)が看護婦として働き始めて3年が経った、というナレーションとともに帰宅した華を迎える音(二階堂ふみ)が聞いている曲は「ケセラセラ」。1956年の映画『知りすぎていた男』の主題歌である。外国の歌が当たり前に聞けるようになり、池田(北村有起哉)のお土産は「ワッフル」。日本の羊羹から洋風のお菓子に変わり、時代が変わってきていることを感じさせる。
24歳になった華が仕事にばかりかまけ、潤いが欠けていると心配する音は「恋しましょう」と勧め、お見合い相手をみつくろうとする。
当時、初婚の平均は23歳。それを過ぎたにもかかわらず、恋をする様子もない。十代のときは、音楽が好きだった弘哉くん、甲子園を目指す渉くん(伊藤あさひ)にほのかな恋をしてきた華だが、二十代では恋とは縁遠くなってしまった。

音の心配に対して裕一は「これからはそういう時代だから」と曖昧にする。父親の気持ちでもあるし、実際、時代が変わってきたのだろう。吟(松井玲奈)も「いま、時代が違うわ」「知らんうちにみんな変わっとるの。女性の生き方も私らのときとは違う」と言う。
そう。時代が変わってきたので、ドラマのテイストも変わってきたのだ。「ケセラセラ」の意味「なるようになる」のように時代の波に乗って進むのだ。
そして、華にも新たな恋がはじまる。相手は――
宮沢氷魚が華の恋の相手に?
音が見合い相手を探している間、華は病院の入院患者のロカビリー歌手・霧島アキラ(宮沢氷魚)を気にかけていた。最初はいけすかないと思っていたが、なんだか気になる……。これこそ、恋! ロカビリー歌手は、看護婦にモテモテで、まるで昔の久志のようだった。朝ドラヒロインのゲスト出演
吟と音の会話に出てきた、スーパー。東京では1953年に青山で紀伊国屋ができている。朝ドラユニバース的に言えば、この頃、『おしん』のおしんは、戦後、三重県で生鮮食品販売を営み、それからスーパー経営に発展していく。朝ドラといえば、『繭子ひとり』(1971年)のヒロイン・山口果林が華の病院の入院患者・松宮チエ役で111回から出演。『なつぞら』で歴代朝ドラヒロインが続々登場し話題を呼んだが、『エール』でも歴代朝ドラヒロイン枠が登場。これも朝ドラあるあるのひとつになって来た。
(木俣冬)
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■窪田正孝(古山裕一役)プロフィール・出演作品・ニュース
■二階堂ふみ(古山音役)プロフィール・出演作品・ニュース
■古川琴音(古山華役)プロフィール・出演作品・ニュース
■松井玲奈(関内吟役)プロフィール・出演作品・ニュース
■宮沢氷魚(霧島アキラ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■山崎育三郎(佐藤久志役)プロフィール・出演作品・ニュース
■北村有起哉(池田二郎役)プロフィール・出演作品・ニュース
■板垣瑞生(重森正役)プロフィール・出演作品・ニュース
■加弥乃(杉山あかね役)プロフィール・出演作品・ニュース
■仲里依紗(梶取恵役)プロフィール・出演作品・ニュース
■野間口徹(梶取保役)プロフィール・出演作品・ニュース
■津田健次郎(語り)プロフィール・出演作品・ニュース
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番組情報
連続テレビ小説「エール」【放送予定】
2020年3月30日(月)~11月28日(土)
<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
原作・原案:林宏司
脚本・作:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
主演: 窪田正孝 二階堂ふみ
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」
制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和