『24 JAPAN』六花と菫 ふたりの母親の子を想う気持ちの強さ描く9話
イラスト/AYAMI

※本文にはネタバレがあります

母は子のために体を張る『24 JAPAN』9話

『24 JAPAN』(テレビ朝日系 毎週金よる11時15分〜)第9回は8時〜9時。朝8時になっても人々はテレビで朝ドラを観ることなく、任務に励む。そして、朝の爽やかな時間帯(放送は夜中だが、ドラマの時間設定は朝)にふさわしくない、ものすごくドロドロした出来事があっちでもこっちでも起こるのであった。


【前話レビュー】麗が大事な発表を…その命を狙うスナイパー 緊張感の二段重ねに心臓爆発の8話

本家、ジャック・バウワーのモノマネでおなじみのどきどきキャンプの岸学神林(高橋和也)の部下・岸本役というシリアスな役割でゲスト出演したことも話題になったが、9話の最大の注目点は、獅堂現馬(唐沢寿明)の妻・六花(木村多江)と、明智菫(朝倉あき)。ふたりの母の、壮絶なまでの、それぞれの子どもを想う気持ちの強さであった。

朝倉麗(仲間由紀恵)も母のひとり。彼女の暗殺計画は進行中。朝食会での挨拶中、発砲があり、麗は緊急退避しながらも、子供のことばかり考えている。

麗「夕太(今井悠貴)のこと言えなかった」
遥平「命が狙われたんだぞ。それどころじゃないだろう」

子供を思う麗と、麗を心配する遥平(筒井道隆)。この夫婦、どっちもなんとなく天然ぽいからすれ違うんだろう。

明智菫は、水石伊月(栗山千明)南条(池内博之)に責められて、神林のことを明かす。「神林」や「上林」で検索するとたくさんのあやしい人たちのデータが出てくる。ここ笑った。

菫は子供の心臓の手術のためにわずか500万円で、神林の仕事を請け負った。
1000万か2000万かと聞いた南条が、500万と知って「裏切りの値段がそれか」と呆れる。南条と菫の雇用形態の違いの悲劇。菫はエキスパートでありながら、低賃金に喘いでいたのだ。

「心臓の悪い子供を女手ひとつで育ててきたのよ」という説明セリフから「私だって専門職なのに、どうしてこんなに待遇が悪いのよ」とドメスティックな愚痴まで。世界を揺るがしかねない暗殺事件の裏に、こんなにも人間臭い問題があるとは……。

家族のためにどんどん見境なくなっていく現馬

暗殺犯にされそうになって逃げている現馬は、菫と電話で話し、「俺は規則にこだわらない」(また出た、ルール無用の男・獅堂現馬伝説)から、真相を話してくれたらやったことを不問にすると説得するも、首を縦に振らない菫に、心臓に悪い子供を人質にとろうとする。

妻子を人質にとられて苦しんでいるからこそわかる、家族を人質にされると弱い人間の気持ち。人間って追い込まれると見苦しくなるものだと身につまされるシーンであった。

現馬がどんどん見境ない人物になっていく。逃げるために、夜勤明けで帰ろうとしていた一般市民の磯部(周本絵里香)に銃をつきつけ、車に乗りこみ、逃げる。「私だってクタクタ」と文句を言われても気にしない。

現馬と磯部が互いの家庭事情などを話し、すこしだけ心を通わせていくようなところは、欧米の短編戯曲みたいな風情があって良かった。

磯部を演じた周本絵里香は、故・蜷川幸雄の主宰した劇団・さいたまネクスト・シアターで活躍していた。
座り方とか台詞回しとかに磯部の生活者の匂いがよく出ていたし、イライラ怯えている心情もよくわかる。対する唐沢寿明もすごくいい芝居をしていて、地味ながら見応えある場面だ。8話の選挙スタッフ役の佐藤真弓や、9話で陣馬を捕まえたSPを演じる坂田聡など、巧い俳優たちと対していると、相手の芝居でがらりと芝居が変わる唐沢寿明はさすがである。

話しながら現馬がついうとうとしてしまい、磯部が逃げようとすると、突如として、は! と起きあがって、うろうろ様子を見るところも面白かった。

けっきょく、磯部は追跡者に現馬の情報を漏らして逃げてしまう。

『24 JAPAN』六花と菫 ふたりの母親の子を想う気持ちの強さ描く9話
次回9話は12月11日放送。画像は番組サイトより

マイロの存在にほっと

一方、六花。本家でも印象深いエピソードで、見張りの男・市来三次(山口大地)美有(桜田ひより)に色目を使うので、六花が「私でどう?」と文字通り、体を張って娘を守るのである。若い男を誘うときの思い切った態度と、戻ってきたときの妙にきちっと服を着ているときの表情の落差がすごい。

「私たちは絶対助かるから」と美有を強く励ます六花の開き直った強さ。現馬もがんばって走り回ったり転がったりしているけれど、六花の土壇場の底力に圧倒される。

同じく、息子を守りたい一心の菫は、息子・ひろしがCTUにやって来たとき……。

このときの伊月と南条の焦りっぷりが、大事件ながらちょっと笑ってしまう。

「ダメよ、今は連れてこないで!」(伊月)

CTUの人たちは優秀なエキスパート集団のわりに、どこか脇が甘い気がする。


そこへ、神林からケータイに電話がかかってきて、すぐに「神林からだ」(南条)とわかってしまう。菫を捕まえたとき、まず、ケータイ、チェックしないの? 名前は念のため別名で登録しておかないの? 菫が出るまでずっと電話かけ続けている神林もなんだかつめが甘くはないか。

殺伐としたCTUのなかで、子供に笑いかけるマイロ(時任勇気)の飄々とした雰囲気が癒しになっている。

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Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami

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番組情報

テレビ朝日系
『24 JAPAN』
毎週金曜よる11:15〜

番組サイト:https://www.tv-asahi.co.jp/24japan/
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