
樋口楓、1stアルバム『AIM』全曲解説<後半戦>
2020年3月のメジャーデビューから約9か月、にじさんじに所属する人気バーチャルライバー(VTuber)樋口楓の1stアルバム『AIM』が、12月16日(水)にLantisからリリースされる。【インタビュー前編】にじさんじ樋口楓 1stアルバム『AIM』まもなく発売 「17歳の女子高生が感じることを等身大に」
楽曲の制作段階から積極的に関わり、アーティスト樋口楓を支え続けるLantisのスタッフや、豪華クリエイター陣とともに作りあげた全12曲。エキレビ!のロングインタビュー後編では、前編に続いて、一つ一つの曲に込められた思いを丁寧に紐解いていく。
同級生と普通に遊んでいる樋口楓に戻りたいって思うことも
──6曲目の「アブノーマルガール」は、「ダダダダ天使」などで人気のナナヲアカリさんが作詞・作曲を担当しており、私は、樋口楓史上、最もキュートな曲だと感じました。樋口 キュートですよね! 曲に関しては、「ライブの時、バンドメンバーだけで完結できるようなバンドサウンドで、青春っぽい感じの曲をお願いします」とお伝えしました。テーマや歌詞に関しては、「Q」のみきとPさんの話とも少しかぶるんですけれど。
ネットで活動を始めてから、配信や音楽活動をする樋口楓の比重が自分の中でどんどん重くなって、普通の女の子の樋口楓でいられる時間、同級生の友達たちと関わる時間がだんだん減ってはいるんですね。
だからたまに、そういった時間が恋しくなったり、同級生と普通に遊んでいる樋口楓に戻りたいなって思うことがある、みたいな話をナナヲさんとお話して、「そういうこともあるよね」と共感をしてもらえました。
ナナヲさんとは、同じ女性として、こういう思春期の時期に何を思っていたかみたいな話もして、「VTuberの樋口楓」ではなく「普通の女の子の樋口楓」として、みんなのところに近付いていくよ、という曲にしてもらいました。
あとは、(特別なことは)何もしていない自分もいいんだよ、というニュアンスで、もっともっと自分のことを好きになってほしいという気持ちも込めていただきました。
──7曲目の「TOBI-DERO!」は、元気の出る応援ソング的な印象です。
樋口 この曲は光増さんにスカの曲を作っていただきたいという気持ちから、作っていただいた曲です。曲が出来て、歌詞をどうしようかという話になった時、自分の中にあるスカに対する印象、ただ陽気なだけではない感じを反映した歌詞にしたいというテーマはあったのですが、それをどう歌詞に落とし込むのか、私の中でも上手く見えてなくて……。作詞の金子(麻友美)さんには、何度も書き直しをお願いすることになってしまいました。
それなのに金子さんは、最後まで本当に親身に私の上手く伝えられない思いを汲み取ろうしてくださって。とてもありがたかったです。
──特にお気に入りのフレーズなどはありますか?
樋口 Dメロに<ちょっと疲れちゃったなら 少し休憩 ほら でろーん…>という感じで、曲調がゆったりと変わるところがあるんです。すごいキラキラとした応援ソングみたいに前向きな曲だけれど、そういうギャップもあるところがすごくスカらしくていいんですよね。光増さんや金子さんたちのおかげで、こういうスカが好きだなって、改めて思える曲になりました。
「たこ焼きロック」は、「カエデちゃん」がテーマ
──8曲目の「たこ焼きロック」は、みのさん(ミノタウロス)が作詞・作曲・編曲を担当していますが、タイトルからすでに個性的な曲ですね。樋口 私、以前からみのさんのことが大好きで。昔から(3人組YouTuber「カリスマブラザーズ」の一人として)YouTubeで活動されていたことや、音楽活動もしていらっしゃって、ギターを弾かれているのもずっとYouTubeで観てきたんですよ。そんな、みのさんに曲を作っていただけることになって、すごく嬉しかったです。
みのさんの曲には、オールドな感じのものも多いのですが、お話をした時に「そういう曲もいいよね。ハーモニカとかも入れたいよね」みたいなお話をしました。あと、この曲は、二次創作から産まれた「カエデちゃん」がテーマなんですよ。
──「ミトとカエデ」のカエデちゃんですか? だから、コミカルなイメージもある曲になっているのですね。
樋口 「Hey Hey」という合いの手のところとかは、カエデちゃんなんです。やっぱり17歳くらいになると、体型とかを気にして、ダイエットしようと思ったりするじゃないですか。
──純粋だからこそ言えるツッコミというか、正論を書いた曲なのですね。
樋口 正論ですよね。それをオブラートに全然包まない(笑)。食べたら、(曲の)最後にちゃんと「ありがとう」って言うんですけど、この感じもすごく好きで、曲が出来上がってきた時に「可愛い〜」って思いました。

──次の9曲目「mimi」(iは、グレイヴ・アクセント付きのi)は、人気アニソンなども手掛けている「ORESAMA」のぽんさんが作詞、伊藤賢さんが作曲・編曲を担当しています。
樋口 ふんわりした曲で、タイトルは「みみ」って読むんですけれど、中国語で「秘密」という意味の言葉からきているんです。私の配信を観てくださっているリスナーさんがどう思っているのかはわからないですが、(作詞の)ぽんさんは、私のことを「優しくて温かいものを持った人」だと思ってくれたらしくって(笑)。
──なるほど(笑)。
樋口 樋口楓は、関西弁を使う、ちょっと男勝りでキツいイメージを持たれやすい番長キャラだけど、曲を通して、二次元と三次元の壁をなくしていきたいと考えていたり、人との繋がりを大事にしていたりする人、という風に受けとめてくださったらしくて。そういうところも含めて、ぽんさんの感じた樋口楓が持つ、ふんわり優しいイメージを詞にしてくださったんです。
ZAQさんの曲を聴いて「にじさんじ甲子園」を思い出した
──10曲目の「現代社会、ヒロインは!」は、すごくオシャレでヒロイン感のある曲ですね。樋口 編曲のPandaBoYさんは、「RK Music」さんの(VTuberコンピレーションアルバム)『IMAGINATION vol.1』に参加させていただいた時、『だってアタシのヒーロー。』で、すごく可愛いフューチャーベース調のアレンジをしてくださって。その時から、また、いつか一緒にお仕事をさせていただきたいなと思っていた方なんです。光増さん作曲のこの曲が可愛い目のダンスミュージックになったので、ぜひアレンジはPandaBoYさんにお願いしたいと思いました。
作詞の安藤紗々さんは、けっこう斬新な歌詞も書かれるんですけれど、すごく女性らしい詞も書かれる方で。きっと、今までの樋口楓にない視点で歌詞を書いてくださると思って、お願いした時から、歌詞が上がるのをワクワクして待っていました。
実際、「100年先を想えるなんてやさしいこの世界」とか、私には絶対にできない素敵な言い回しで、VTuber界のことを肯定してくださったんですよ。私はマイナス思考なところがあるんですけど、安藤さんはすごくプラスに明るく表現してくださっていて。もちろん、曲のテーマとしては、私も同じことを伝えたいと思っていたので、すごく嬉しかったです。
──11曲目の「Victory West!」は、作詞が樋口さん、作曲が人気アニソンアーティストで、Lantisの先輩でもあるZAQさんです。どのような経緯で、この組み合わせに?
樋口 元々、アルバムを作り始めた時に、スタッフさんから「作詞する?」と聞かれて、「枠があれば……」という返事をしていたんです。

──私も完成した曲を聴いた時、「にじさんじ甲子園」で盛り上がっていた夏に作った曲だろうと思いました。
樋口 はい。曲が出来たのが、「にじさんじ甲子園」の決勝が終わったあたりで、私の中でも、まだあの大会の熱が冷めていなかったんです。「(樋口が監督を務めたチーム)『VR関西圏立高校』』のメンバーの物語がもっと続けばいいのに……」と思っていた時だったから、Lantisさんに「『V西』のことを書いてもいいですか?」って確認したんです。そうしたら、「書きたいことを書いていいよ」と言ってくださり、書かせていただきました。
──歌詞はスムーズに書けたのですか?
樋口 夏の間はずっと『パワプロ』をやっていたし、『V西』に所属してくださったライバーさんが配信でコメントしてくださったり、Twitterで試合の話に触れてくださったりして、すごく一体感を感じたというか。自分の中で明確に思ったことがあったんですよね。
完成するまでは、ZAQさんの曲に私の書いた歌詞が本当に相応しかったのか、すごく不安でしたが、出来上がったものを聴くと、とても楽しい曲になっていて安心しました。それに私は、にじさんじでVTuberとして活動をしてきたからこそ、Lantisさんからデビューできたという経緯もあるので、にじさんじでの活動はこれからもすごく大事にしていきたいと思っているんです。自分の基盤にあるものを歌詞にできたのも、すごく嬉しいことでした。
2020年は、人との繋がりをより感じられる年になった
──最後の曲は1stシングルの表題曲「MARBLE」です。今回、初めてアルバムを制作したことで、樋口さんの中で「MARBLE」という曲の持つ意味合いなどに変化はありましたか?樋口 (『MARBLE』の)MVが発表されて、曲がリリースされて、いろいろなところで宣伝をしていただいたり、曲をかけていただいたりするにつれて、この曲を通して、どれだけの人にVTuberという存在を知ってもらえたのかなということは考えました。それは、私の永遠の課題だと思っています。
私がLantisでデビューした理由には、VTuberのことを広めたいという思いがまず第一にあったので、今後もこの曲を通して、それを伝えていけたらと思っています。
その想い自体はアルバムを作る中でも変わらなかったのですが、多くの人に伝えていきたいという気持ちがもっと強くなったというか。「VTuberっていいぞ」と、もっと知ってもらいたいという気持ちがさらに強くなりました。Lantisに来た意味や、「MARBLE」に込めた思いは、一生変わらないと思うので、これからも大事にしていきたい曲です。
──2020年最後の月に、1stアルバムを発売することになりましたが、世界的に大きな変化があったこの年は、樋口さんにとってどのような年になりましたか?
樋口 イベントとかもいっぱい中止になって、ファンのみんなとリアルで会える時間が昨年よりもすごく減ったので、とても申し訳ない気持ちにもなりました。
──楓組のみんなと、より近づけた感覚がありますか?
樋口 私は近づけたと思っています。みんなが「でろーんのこんなグッズ持ってるよ」とか教えてくれたりして。あと、TwitterやYouTubeをやってなくて、「普段、応援のコメントとかはできないけれど、陰ながら応援してるからね」と言ってくださる方もすごく多くて。目に見えてないところにも、樋口楓をすごく支えてくださっている方がたくさんいることに気づけて、すごく嬉しかったです。
──では、そんな2020年を踏まえた上で、2021年こそ実現したい目標、やりたいことなどはありますか?
樋口 ご時世が落ち着けば、まずライブをやりたいですし、もっといろいろな人にVTuberを知ってもらいたいです。そのためにも、もっと広い範囲の人に自分の歌を聴いてもらえるようになりたいですね、例えば、いろいろなタイアップとか……。あとは、VTuberを続けられていたらいいかな(笑)。
──最後のは、高いのか低いのか分からない目標設定ですね(笑)。2020年には、大好きな広島カープとのコラボグッズが発売されたり、広島ローカルのカープ情報番組『カープ道』にゲスト出演したりと、おそらく樋口さん自身、想像してなかったようなことも実現しました。アーティスト活動に限らず、他にも何か実現したいことはありますか?

──夢に気づけた時、それに挑戦できる準備をしておきたいということですね。
樋口 そのためにも、まずは自分のことを大事にして。自分が表現したいものをちゃんと言葉にできるような、そんな強い人間になりたいなと思います。
アルバム情報
『AIM』2020年12月16日発売
【完全生産限定盤】CD+BD+グッズ
LACA-35845 / ¥6,000(税抜)
【初回限定盤】CD+BD
LACA-35846 / ¥4,200(税抜)
【通常盤】CD
LACA-15846 / ¥3,000(税抜)
[CD]
1. アンサーソング
作詞:平朋崇(FirstCall)/作曲・編曲:光増ハジメ(FirstCall)
2. ステレオアイデンティティ
作詞:宮嶋淳子/作曲:光増ハジメ(FirstCall)/編曲:DJ WILDPARTY、彦田元気
3. Be Myself
作詞:結城アイラ/作曲・編曲:山本玲史
4. FRONTIER
作詞:平朋崇(FirstCall)/作曲・編曲:光増ハジメ(FirstCall)
5. Q
作詞・作曲・編曲:みきとP
6. アブノーマルガール
作詞・作曲:ナナヲアカリ/編曲:加藤祐介
7. TOBI-DERO!
作詞:金子麻友美/作曲:光増ハジメ(FirstCall)/編曲:EFFY(FirstCall)
8. たこ焼きロック
作詞・作曲・編曲:みの
9. mimi
作詞:ぽん(ORESAMA)/作曲・編曲:伊藤 賢
10. 現代社会、ヒロインは!
作詞:安藤紗々/作曲:光増ハジメ(FirstCall)/編曲:PandaBoY
11. Victory West!
作詞:樋口楓/作曲:ZAQ/編曲:EFFY(FirstCall)
12. MARBLE
作詞:平朋崇(FirstCall)/作曲・編曲:光増ハジメ(FirstCall)
[BD]※完全生産限定盤、初回限定盤のみ
1. アンサーソング -Music Video-
2. FRONTIER -Music Video-
3. MARBLE -Music Video-
Lantis公式サイト樋口楓特集ページ
https://www.lantis.jp/artist/kaede_higuchi/
(C)BANDAI NAMCO Arts Inc. c2017-2020 Ichikara Inc.
丸本大輔
フリーライター&編集者。瀬戸内海の因島出身、現在は東京在住。専門ジャンルは、アニメ、漫画などで、インタビューを中心に活動。「たまゆら」「終末のイゼッタ」「銀河英雄伝説DNT」ではオフィシャルライターを担当した。にじさんじ、ホロライブを中心にVTuber(バーチャルYouTuber)の取材実績も多数。
@maru_working