『おちょやん』第5週「女優になります」
第24回〈1月7日 (木) 放送 作:八津弘幸、演出:盆子原誠〉

また騙された
女優になりたいと強く自覚した千代(杉咲花)は真理(吉川愛)に勧められた、山村千鳥一座の劇団員の試験を受けに、新京極を訪れた。【前話レビュー】朝ドラヒロインなのに昼過ぎまで寝てるって! だがそんな日もある、悪くないだろう
さっそく試験。まず、セリフはすぐに覚え、劇団員をざわつかせるが、表現が拙すぎて(大根芝居)、座長・山村千鳥(若村麻由美)は唖然。
「この子……」 ――才能がある、キラーン となるかと思ったら、
「ひどすぎる」だった。そうカンタンにはいかない。
挙げ句、座長の着物のほころびを指摘し、座員たちの前で恥をかかせたと怒られる。舞台から遠く離れた千鳥の着物の裾のほころびに気づくとは、千代の視力は大変良いようだ。
これで終わったか……と思いきや、意外にも合格。「よっぽどうちの芝居がよかったんとちゃうやろか」と得意気な千代。杉咲花の声と仕草がかわいらしいので、いやな感じがしないけれど、あの棒読みを自覚することなく、調子に乗っていることにはいささか呆れる。若さ、未熟さはそんな間違いも引き起こす。
それに、ぬか喜びすることは誰にもあること。映画詐欺に女優にしてやると言われたときも、警戒しながらも、もしかして? という淡い期待がもたげたはずだ。だからこそ落胆も大きいのだろう。8年間、芝居茶屋で、人間たちの酸いも甘いも見てきたんじゃないかなあと思うので、急に世間知らずになる展開が解せなくもないが、楽観的に育ったということだと解釈しておく。
このドラマは、ひとりの人間の成長や心の流れをスタニスラフスキー・システム(簡単に言えば、役の履歴書を作り、貫通行動を大事にすること)のように描くものではなく、瞬間瞬間の面白みを描くエンタメ。朝ドラはどちらかというと、そっちのほうが多くの人に受ける傾向はあるので、ぜひとも面白く描いてほしい。
心の声、形式で
千鳥の家に雑用係として呼ばれることになった千代。お芝居ができると思ったのに、「また騙された」と嘆く千代。女が都会に一人で出ていくと騙そうとしてくる人がたんといるという警鐘であろうか。オイシイ話には裏がある。「騙された」と口に出したら、ひどく怒られたからか、その後は、声にしないで、心のなかで思うようにする千代。二度目の「また騙された」は心の声で。

掃除や洗濯などの家事だけでなく、家の周りを注意深く一周するとか、四葉の白詰草を探すとか、新聞の誤植を探すとか、奇妙なことをさせられて、そのつど、「これやったら一生稽古なんかできへんやんか」「これ、なんのため?」「せやからこれはなんのためっちゅうねん?」「重たい! 何入ってんのこれ」「もうちょっこしや」「ええ〜〜っ」など、千代は心のなかでつぶやく。だが、度重なる理不尽に、しまいには「なんでやねん」「千鳥〜〜」と大きな声が出てしまう。
オンの声、オフの声の使い分け、これも演技のひとつである。

山村千鳥演出が怖い
四葉の白詰草探しや、黒猫が横切ると不吉だと言って道を変えたりする千鳥。縁起担ぎが好きなのだろうか。8時間以上寝ることに決めていたりやたらと部屋を散らかして(何度も着替えている)いたりするところも気になる。
千鳥の厳しさに、蜷川幸雄か、という声もSNSでは見られた。若村は仲代達矢の無名塾育ちだが、蜷川演出も受けたことのあるだけに「なんでわかんねえんだよお」という喋り方はすこし似ていた(『蜷川幸雄の稽古場から』という本のテキストも担当した筆者は、稽古場の様子をよく知っている。その厳しさに深い意味があることも)。
千鳥の苛立ちは、公演の評判が悪いからか。不入りで打ち切りになるかの瀬戸際に立たされていた。
劇団員の薮内清子(映美くらら)は新たな企画を提案する(元宝塚の映美が、宝塚が評判でーと言ってるのが面白い)が、千鳥は台本や企画書を庭に捨ててしまう。
このとき、廊下でくるくるとまわる千代。
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■杉咲花(竹井千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
■西村和彦(宮元潔役)プロフィール・出演作品・ニュース
■映美くらら(藪内清子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■西村亜矢子(シゲ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■若村麻由美(山村千鳥役)プロフィール・出演作品・ニュース
■桂吉弥(黒衣役)ニュース
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番組情報
連続テレビ小説『おちょやん』<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
作:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami