『おちょやん』第10週「役者辞めたらあかん!」

第46回〈2月8日 (月) 放送 作:八津弘幸、演出:中泉慧〉

朝ドラ『おちょやん』史実では一平(成田凌)率いる鶴亀家庭劇のモデル「松竹家庭劇」は3年で解散
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

鶴亀家庭話、稽古始動

雨降って地固まる。いろいろありつつ、一平(成田凌)が座長の新しい劇団「鶴亀家庭劇」が始動した。

【前話レビュー】殴られた末の「やったらできるやないか」一平、ドMか

メンバーは、千代(杉咲花)のほか、看板役者の須賀廼家千之助(星田英利)、東京新派劇の名門である花菱団の元トップ女優・高峰ルリ子(明日海りお)、元鶴亀歌劇団の石田香里(松本妃代)、この道60年の歌舞伎俳優・小山田正憲(曾我廼家寛太郎)、元天海一座の須賀廼家天晴(渋谷天笑)須賀廼家徳利(大塚宣幸)漆原要二郎(大川良太郎)
いろいろな芸風の寄せ集め感が否めない。そのため、問題が頻出する。

一平がトリでやろうと思ったメインの台本を、千之助がつまらないと一平の台本を投げ捨て、自分の書いた「手違い話」に変更してしまう。物語のちゃんとある喜劇をやりたい一平に対して、千之助はお客が喜びそうなドタバタ喜劇しかやる気がない。「手違い話」はふたりの人物の手が入れ替わったことで巻き起こるドタバタが面白さで、たしかに単純に面白そうだ。

配役まで千之助が決めてしまう。一平の立ち場なし。でも一平は千之助の傍若無人にじっと耐え、少しは成長している様子を見せる。このとき黙っている一平の顔が端正。

モデルの松竹家庭劇では

主人公の旦那さん役が千之助、手代は一平、ご寮人さんがルリ子、医者を小山田、芸子が石田で、女中は千代。天晴と徳利たちは端役。その前の狂言で場をあっためろと言われてしまう。いわゆる、一本のお芝居をたっぷり見せるのではなく、短い演目を何本か見せる構成なのだ。


たとえば、一平のモデル渋谷天外が二代目天外を襲名した昭和4年の松竹家庭劇の演目は、自著『わが喜劇』によると、5本の芝居をやっている。

申分なし
雪折れ笹
霊の交換
親の味
岡目八目

「霊の交換」とは、心と体が入れ替わるTBSの日曜劇場『天国と地獄 ~サイコな2人~』みたいなものだろうか……。というのはさておき、鶴亀家庭劇とは、松竹家庭劇がモデルになっている。松竹家庭劇は松竹新喜劇の前身。

「家庭劇」という名は、この頃、「家庭小説」というものが新聞に掲載されるようになってきたので、取り入れたものだとか。一平の目的は家族が楽しめるものだから、いわゆる「ホームドラマ」と考えていいだろう。

朝ドラ『おちょやん』史実では一平(成田凌)率いる鶴亀家庭劇のモデル「松竹家庭劇」は3年で解散
写真提供/NHK


朝ドラ『おちょやん』史実では一平(成田凌)率いる鶴亀家庭劇のモデル「松竹家庭劇」は3年で解散
写真提供/NHK

この松竹家庭劇に関して、一平のモデルの渋谷天外も、千代のモデルの浪花千栄子も、各々の著書のなかでさほど言及していない。そのあとの松竹新喜劇の存在のほうが大きく(なにしろいまだに続いているわけだから)、家庭劇は人生のほんの過程に過ぎなかったようだ。なにしろ3年で解散している。この時代、<大正末から昭和初年にかけての大阪は、劇団の融合集散は日常茶飯事だった。>と記され、いわゆる関西演劇の過渡期だったのだ。

千代、高峰ルリ子に手を焼く

「手違い話」の概要を、黒衣(桂吉弥)の語りで、実際、千之助と一平がやって見せる紹介コーナーがある。さらに、オープニングのイラストを描いている作家によるイラストでも紹介するという丁寧さ(この犬が、千之助と一平に似ていてかわいい)。
こうして見ると、楽しい喜劇に見える。だがしかし、稽古ではちっとも面白くならない。出演俳優の芸風が違いすぎて、芝居に統一感がまったくないからだ。

小山田は歌舞伎調で見得を切りたがり、石田はセリフに節をつけたがる。高峰の芝居はしっかりしているが、堅苦しい印象。千之助はやる気がなさそうで棒読み。千之助の好む喜劇は、俳優の面白さで見せるものなのだが、喜劇初体験の高峰たちはいまのところ、ただ浮いた芸風を披露するだけで面白くならない。バラバラなみんなの仲を千代が懸命にとりもとうとクルクル駆けずり回る。

高峰は、千代のセリフも覚えていて、千代がセリフを多少変えてしゃべるとその間違いを指摘する。作家の書いた台本は一字一句変えないやり方と、意味は変えずに語尾などを多少変えてもいいとされるやり方がある。千代や千之助はその場で変えてしまうタイプだが、高峰は台本通りきっちりやるタイプなのだ。それが高峰の役者としての矜持のひとつと思われ、だからこそ千代のような俳優が好きではないのだろう。


千代が「才能ある女優さんは違いますな」と褒めても喜ばない。むしろ、「あなたみたいな女優がいちばん嫌いなの」とぴしゃり。千代はまだ彼女の真意がわからず、岡安でご飯を食べながら不満を漏らす。

シズ(篠原涼子)は、高峰が道頓堀で芝居するとき福富に泊まっていたから、どうせ大した役者じゃないと千代のライバル心を焚きつける。ここでのシズは嫉妬心や競争心のみの小市民感覚を発揮しているが、さりげなく千代に菊(石野陽子)に高峰攻略方法を聞くといいと助言しているのだろうか。

みんな千代の味方で、愚痴を聞いて応援してくれる(みつえだけは若干辛口だが)。いまの千代は、これまでの人生でもっとも幸福なのではないだろうか。俳優という仕事もあって、終日仕事(稽古)して家に帰るとご飯が用意されていて……。

ミケと茶トラと猫が2匹も出てきて和んだので、このまま『スカーレット』の大阪下宿屋編のような感じがしばらく続くといいのだけれど……。

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■杉咲花(竹井千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
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番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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