『おちょやん』第11週「親は子の幸せを願うもんやろ?」

第51回〈2月15日 (月) 放送 作:八津弘幸、演出:大嶋慧介〉

朝ドラ『おちょやん』一平がみつえにフラれたシーンに現れた製作陣の配慮
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

「鶴亀家庭劇の存続が認められました」

寄せ集めの劇団がぶつかりあいながらもなんとか旗揚げ公演は成功。次回公演もやれるようになって一安心。ここで演劇ばなしはいったんおやすみ。
第11週は、岡安の長女・みつえ(東野絢香)の恋ものがたりのターンへ。

【前話レビュー】演劇は舞台の上の俳優と客席の相互関係で作られるという縮図を鮮やかに描いた50回

エピソードを長々続けず、短いターンで区切ることで、観る人を飽きさせない。また、新たな視聴者も入りやすくする気配りがこの構成から感じられる。

みつえはどうなる?

みつえのことをまず復習しておこう。芝居茶屋・岡安の一人娘で千代(杉咲花)と同い年。お嬢様として育っているので、勝ち気で自由奔放。千代が奉公に来たばかりのとき、馴れ馴れしくすると、ばっさり切っていたが、徐々に千代を認めていき、良い関係を築いていく。

昔の朝ドラでは、みつえのような存在は、ヒロインと太陽と月的な立ち位置を背負わされることが多く、ヒロインよりもものすごく幸福、あるいはヒロインよりものすごく不幸と極端に描かれることが多かった。例えば、今再放送している『澪つくし』で桜田淳子が演じている本家の娘。主人公(沢口靖子)は妾の子で彼女と立ち場が全然違う。

生き方も性格も何かとヒロインとは違うように意識的に描かれた『澪つくし』と比べると、みつえは、さほど千代との格差を際立って描かれることはなく、口は悪いが良い友達という関係性として、見ていて心を波立たせることはない。むしろ、みつえが出てくると和む。

みつえの好きな人は

みつえに縁談が持ち込まれる。相手の家は落ちぶれかかった岡安には追い風。
ところが、昔からみつえは一平に好意がありそうだった。劇団の千秋楽の人気投票でもみつえは千代ではなく、一平に一票を投じていた。親のシズ(篠原涼子)宗助(名倉潤)も、お茶子たちも、そう思い込んでいる。だが、幼いころの感情と大人になってからでは違うもの。いつの間にかみつえは、福富の福助(井上拓哉)が好きになっていた。

福助はシズと犬猿の仲の菊(いしのようこ)の息子であり、みつえも彼の楽器をなにかと河に投げ入れていたが、いつの間にか仲良くなっていたことは、千代が道頓堀に帰ってきたとき(第41回)、みつえと福助の仕草でさりげなく表現されていた。

朝ドラ『おちょやん』一平がみつえにフラれたシーンに現れた製作陣の配慮
写真提供/NHK


朝ドラ『おちょやん』一平がみつえにフラれたシーンに現れた製作陣の配慮
写真提供/NHK

何も知らない千代は「これ以上、みつえのこと弄ばんといて」と大げさに騒ぎたて、一平にみつえに興味がないとはっきり言わせようとする。みつえが一平のために縁談を断った挙げ句フラれたら可哀相と思ってのことだが、逆に一平がフラれたような形になってしまうところが笑いどころ。

みつえに興味のない一平がフラれた形になっても誰も悲しい気持ちにならないから、気楽に見ていられる。フッたりフラれたりをはっきり描かず、フラれるイメージシーンは演劇調にして、誰も傷つかないような配慮を感じる。

千代の父との確執を生々しく描いている分、ほかの人間関係は刺々しく描かないようにしているのかもしれない。いや、父のだらしなさすら、本来は喜劇の要素のひとつにしたいところなのではないだろうか。


例えば、昭和の人気ホームドラマ『寺内貫太郎一家』のお父さんは暴力的で、しょっちゅう息子に手をあげていた。これは今ならハラスメントになってしまうが、当時はその豪快さを笑って観ていたのである。表現として許される範囲が狭まっている今、そのレールからこぼれ落ちた存在をすくいあげるためにどういう表現をしていくのか。それが『おちょやん』が挑んでいる意義深い課題だと思う。

小細工をはじめる千代

第51回の本筋(みつえの恋)以外で抑えておきたいことは、千代が座長の一平に食事のおかずをゆずって、良い役をもらおうとすること。その前に、劇団員が皆、一平にさりげなく次回公演の配役に関してアピールしていた。誰だっていい思いをしたい、そんな人間の縮図である。でも一平は贔屓をしないと毅然としている。

ハナ(宮田圭子)は千代の才能に気づいているようだが、一平は、千代のみならずほかの劇団人の力をどう感じているのか気になるところ。今はいったんみつえの恋バナに時間を割いてもいいが、劇団の人間関係の話もまだまだ掘り下げていってほしい。

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■杉咲花(竹井千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
■成田凌(天海一平役)プロフィール・出演作品・ニュース
■名倉潤(岡田宗助役)プロフィール・出演作品・ニュース
■宮田圭子(岡田ハナ役)プロフィール・出演作品・ニュース
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番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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