「5年ぶりの『ARIA』も誰にでも何かの気づきをくれる作品」メインキャスト鼎談<後編>
この鼎談は、2月28日の「『ARIA The CREPUSCOLO』完成披露舞台挨拶映像付き上映会」で上映された映像の収録後に実施。中央の広橋が膝の上に乗せているのは、オレンジぷらねっとの「まぁ社長」

『ARIA』オレンジぷらねっとの3人を中心とした物語が展開

3月5日(金)に劇場公開される『ARIA The CREPUSCOLO』。原作者である天野こずえの原案を元に制作された完全新作アニメーションで、オレンジぷらねっとに所属するアリス、アテナ、アーニャの3人を中心とした物語が描かれていく。アリス役の広橋涼、アテナ役の佐藤利奈、アーニャ役の茅野愛衣による鼎談の後編では、アテナに対する3人の思いなどを語ってもらった。


【鼎談前編】5年ぶりの『ARIA』完全新作をメインキャストが語る「夢が現実になったような気持ち」

とも子さんを追いかけて「私もアテナさんです」と言えるように

──佐藤さんは、どのように役作りをしていったのでしょうか?

佐藤 (川上)とも子さんが演じられているアテナさんが、紛れもなく(ファンの)皆さんの中のアテナさんで。私もアフレコまでに『ARIA』をしっかりと観ていたので、私にとっても、とも子さんのアテナさんがアテナさんだったんです。本当は、とも子さんを追いかけてはいけないのですが、私もとも子さんのアテナさんが大好きなので、とも子さんの存在なしにアテナさんは作れなくて。でも、私はとも子さんではないから、とも子さんにはなれないというジレンマもあり……。だから、私にできる範囲でとも子さんの存在を吸収して自分の中に入れて。それを宝物のように大事に抱えながら、その上で自分だったらどんなアテナさんになるんだろう、というアプローチをしていました。

──では、川上さんの演じるアテナのシーンを繰り返し観たりしたのでしょうか?

佐藤 はい。
私は車を運転するのが好きなんですけれど、運転中にも『ARIA』のドラマCDを延々流していました。ドラマCDもすごく素敵なんですよ。アニメ本編よりもコミカルでヘンテコなシーンがいっぱいあって。それをとも子さんが生き生きと演じているんです。きっと、とも子さんは人を楽しませるのが大好きなんですよね。そういう楽しいところにも、とも子さんをすごく感じて、ニコニコしながら運転していました。
ただ、そうやって吸収しても、表現するのはとも子さんではなく私。そこが難しいなと思いながら収録に行って、難しいなと思ったまま今に至ります(笑)。キャストの皆さんもスタッフの皆さんも、すごく温かく迎え入れてくださったのですが、自分自身の中では「もっとこうしておけば良かった」とか、「ああしたかった」とか模索する日々が2020年から続いていて。台本の台詞はほとんど暗記しちゃっていたので、トイレの中でも言っちゃうくらい。

広橋 お風呂の次はトイレで(笑)。

──風呂、トイレ、車の中と、一人になれる時間はいつも『ARIA』のことを考えていたわけですね。


茅野 ちょっと狭めの個室に入ったら、すぐ『ARIA』のことを考えるみたいな(笑)。

佐藤 そうそう。そうやって、すぐに思い出して反省しちゃう(笑)。

──やはり、先輩の役を引き継いだということもあって、「どや!」と自信満々な気持ちにはなれないですよね。

佐藤 「どや!」なんて、全然なれません(笑)。

茅野 でも、サトジュン監督(佐藤順一総監督)は「どや!」って気持ちだったそうですよ。
先ほど収録した先行上映会用の映像でも、利奈さんとアテナさんのお話になったのですが。アフレコで利奈さんの演じるアテナさんの第一声を聴いたとき、スタッフの皆さんがいる部屋で「おお〜」ってどよめきが起きて。サトジュン監督は「どや!」って気持ちだったと仰ってました。

広橋 「俺のキャスティングやぞ」って(笑)。

──佐藤さんは、佐藤総監督やスタッフさんの感想を聞いても、まだ不安な気持ちが?

佐藤 はい……。天野(こずえ)先生にも「素敵んぐですよ」とお声がけいただいて、すごく嬉しかったのですが、もともとこういう性格なので。
やっぱり、まだ……というか、きっと延々とこういう気持ちなんでしょうね(笑)。でも、とも子さんを追いかけながら、ちょっとずつでいいので「私もアテナさんです」と胸を張って言えるようになれたらいいなと思っています。

「5年ぶりの『ARIA』も誰にでも何かの気づきをくれる作品」メインキャスト鼎談<後編>
物語の時系列的に最も新しいエピソードだけでなく、過去の出来事なども描かれている本作。アリスがオレンジぷらねっとに入社して、初めてアテナと出会う場面では、アテナのドジっ子ぶりにも注目

さらにアテナ先輩とアリス先輩が好きになりました

──先ほど(前編で)広橋さんは、「またアテナさんと話せることが嬉しい」と仰っていましたが、茅野さんの場合、アーニャとしてアテナと話すのは本作が初めてですよね?

茅野 そうなんです! だから、収録の日に利奈さんにも「アーニャにとってのアテナさんは利奈さんが演じるアテナさんなので、私にとっても利奈さんの演じるそのまんまがアテナさんなんですよ」って、お話しさせていただいたんです。

佐藤 収録を終えて、「良かったですよ」と皆さんが言ってくださったけれど、私は「本当でしょうか……」みたいな感じで電車に乗っていたんです。そうしたら、帰りが一緒だった茅野ちゃんが「やっと、アテナさんと喋れました」と言ってくれて……。天使かなって。

茅野 そんな(笑)。


佐藤 「私のアーニャちゃん!」って思いました(笑)。それに、きっとアーニャちゃんもそういう子なんだろうなって。

広橋 そうそう! そういう子なんです!

──アリスとアテナは、二人とも忙しくて長い間会えていないのに、なぜかアリスはアテナに会うのを避けていて。それを心配したアーニャは二人を会わせたいと思い行動する、というのが公式サイトなどで公開されている本作のあらすじです。今回の台本を読んだときの率直な感想を教えてください。

茅野 私はテレビシリーズから追いかけてきたから、アリス先輩とアテナ先輩が大好きなのですが、今回の台本を読んで、さらに二人のことが好きになりました。不器用さがすごく愛おしくて。これぞ『ARIA』って感じるお話でした。

──誰も悪い人はいなくて、アリスとアテナもお互いのことを優しく思いあっているのに、少しだけすれ違っていて……という展開ですよね。

茅野 ネガティブ過ぎないのも『ARIA』らしいところですよね。例えば、セリフの中にちょっとマイナス思考なところがあったりしても、Choro Club(feat. Senoo)さんの音楽があることで、バランスが取れてるのかなって、すごく感じました。

広橋 あ〜そうかも!

佐藤 うんうん。音楽も素敵だよね。

茅野 あの曲が流れるだけで、「『ARIA』だ!」ってなりますよね。

広橋 新しく収録された曲もあるのですが、良い意味で、どの曲が新曲か分からないくらい『ARIA』の世界に馴染んでるんですよね。オープニングテーマ(『フェリチータ』)とエンディングテーマ(『echoes』)を最初に聴いたときも、同じことを思いました。

佐藤 うん、思った! びっくりした!

広橋 びっくりするよね〜。

「5年ぶりの『ARIA』も誰にでも何かの気づきをくれる作品」メインキャスト鼎談<後編>
お互いに忙しくて長い間、会えていない二人の先輩を心配するアーニャは、練習仲間のアイとあずさにも相談。アリスとアテナが自然と会うことになるような機会を作ろうとするのだが……

──オープニングテーマとエンディングテーマを歌っているのは、アレッタ役の安野希世乃さんですね。

茅野 希世乃ちゃんが『ARIA』の主題歌を担当するのは初めてのはずなのに、ぴったりですよね。それに、エンディングテーマの『echoes』には、("Buddy's Vocal"として)東山奈央ちゃんも参加していて。"追っかけ"のところとかを歌ってるんですよ。

──豪華な体勢で収録された曲なのですね。

広橋 あの曲も良いよね〜。

佐藤 つい歌っちゃう!

広橋 わかる! エンディングの映像ともすごく合ってるし!

茅野 そうなんですよね!

広橋 って、質問の話題とは全然違う内容で盛り上がっちゃってる(笑)。

茅野 あ、そうだ(笑)。

佐藤 ごめんなさい(笑)。

──楽しいお話が伺えているので、全然かまいません(笑)。たしかに、安野さんの優しい歌声も『ARIA』の雰囲気にぴったりですね。

茅野 安野ちゃんも『ARIA』が大好きなんですよ。それに広橋さんも仰ったように、エンディングも曲と歌声と映像のすべてがマッチしていて、本当に素敵なんです。

佐藤 私も「ああ、『ARIA』だ」ってなりました。

広橋 「この調和は何? すごい!」って。色合いもすごくいいんです。あの映像は、やっぱりサトジュンさんとか、(監督の)名取(孝浩)さんの計算によって出来上がってるのかな?

茅野 やっぱり、そういう狙いはあったんじゃないですか? それにきっと、総作画監督とキャラクターデザインの伊東葉子ちゃんたちのお力もあるんだろうと思います。葉子ちゃんは、私も出演させていただいている天野先生の『あまんちゅ!』でも総作画監督とキャラクターデザインだったんですけれど。天野先生の作品が大好きすぎて、お仕事とは関係ない絵も「いっぱい描いちゃう」って言ってました(笑)。

──その絵を時々、伊東さん個人のTwitterで公開していますね。

茅野 「葉子ちゃんもただのファンだね」って話を『あまんちゅ!』のときにもよくしていました(笑)。今回もきっと、大好きな気持ちが溢れちゃっているのだと思います。だから、今までの『ARIA』の良さが全部残っている上に、新しい良さも加わっていて、「これぞ『ARIA』だ」と思わせる何かがあるのかなって。

広橋 初号試写で最初に観て。さらに今日に備えて完成版の映像をいただいたので、もう一度観たのですが、本当にすごく丁寧に作られているんです。限られた時間の中で作られた作品だと思うのですが、こんなにも一個一個のことを丁寧に作っているんだってことに驚くくらい。本当に宝物のような作品で、一個一個をすごく綺麗に梱包してくれているから、それを開くときがすごく楽しいんです。お話も含めてですが、「このシーン好き」「このセリフ好き」というところがいっぱいあって。なんという丁寧さ、優しさで出来た作品なんだろうって感じました。

「5年ぶりの『ARIA』も誰にでも何かの気づきをくれる作品」メインキャスト鼎談<後編>
『ARIA The CREPUSCOLO』のメインビジュアル。大きく描かれたオレンジぷらねっとの3人だけでなく、ARIAカンパニーの水無灯里たちや、姫屋の藍華・S・グランチェスタらももちろん登場

本当に『ARIA』は"みらくる"なことばっかりの作品

──最後に、『ARIA The CREPUSCOLO』の公開を楽しみにしている皆さんへのメッセージをお願いします。

佐藤 元来、私はわりとゆっくりしているタイプでして、周りの回転の速さに追いつかないことが多々あるんですけれど。「それもまた良し」と、アテナさんが思わせてくれました。ドジっ子のアテナさんと、とも子さんはよく似ていると皆さん仰るのですが、私もちょっと違うベクトルでドジなところがある気配で(笑)。そういうとき、以前は「また、やっちゃったな……」って下を向きがちだったのが、今回、アテナさんに触れあったことで「こういうことはよくあることですよ〜」って、「またやっちゃった。あはは」みたいな気持ちになれました。私は、そういう気づきをアテナさんからもらったのですが、『ARIA』って、誰にでも何かの気づきをくれる作品という気がするんですよね。しかも、たぶん、その時々の自分の状況や気持ちによって、違うところで違う気づきをもらえる。私はまだ「『ARIA』1年生」ですが、周りの皆さんもそう言ってるので間違いないと思います(笑)。だから、観てくださる皆さんにも、きっと今だからこその奇跡のような出会いがあるはず。しっかりと感染対策をした上で、可能な方は、ぜひ劇場の大きなスクリーンで素晴らしい音楽を聴きながら、綺麗な町並みや素敵なみんなを観てもらえたら嬉しいです。

茅野 今は、自分の行きたいと思うところに、なかなか行くことができなかったりしますよね。でも、お近くの映画館に行けば、ネオ・ヴェネツィアに旅行に行ったような気分になれると思います。何の荷物もいらないので、身体一つで……だと困りますね。お財布は持っていただいて(笑)。

広橋 お財布がないと観られないから、大事だね(笑)。

茅野 こういうご時世的なこともあるので、映画館じゃなくて、別の形で観られるタイミングを待ちたいという方もいらっしゃるかもしれないのですが、もちろんそれも大切なことだと思います。『ARIA』の世界って、いつでも本当に欲しい言葉をくれるんです。特に今、迷っているとか、ちょっと疲れたなって思っている方には、すごく効果のあるサプリみたいに元気をくれる作品だと思いますし、間違いなく、そういった方の力になれる作品です。私自身、元気を受け取っているので、ぜひ皆さんにも観ていただいて、温かい気持ちになっていただけたらと思っています。

広橋 本当に『ARIA』は"みらくる"なことばっかりの作品で。それは、テレビシリーズもOVAも今回の劇場版もそうで、ずっと「すごく素敵」「こんな奇跡があるなんて」と思ってきたけれど、今ほど本当にこの世は"みらくる"だらけなんだなって、実感したことはなかったです。その"みらくる"を感じられるのも、今のような状況があるからこそで。ただただ悪いだけに感じていることも、ひっくり返してみたら、こんなに素晴らしいことが隠れているんだなって気づかせてくれる。それって、受けとる方の気持ち次第なんだなってことは、『ARIA』という作品を通して感じることです。今はご時世的に、「ぜひ劇場で観てください!」と声を大きくしては言いづらいんですけれど。もし行けるタイミングのある方は、ぜひ観てほしいです。大きいスクリーンで観るネオ・ヴェネツィアの世界は本当に美しくて、きっと何かまた新たなプレゼントを皆さんに届けてくれると思います。もちろん、劇場だけじゃなくて、配信とか、Blu-rayとか、DVDとかいろいろな方法はあると思うので、いつでも良いタイミングで作品に触れていただけたら嬉しいです。『ARIA』はなくならないですから。ネオ・ヴェネツィアで待っています!

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作品情報

『ARIA The CREPUSCOLO』
2021年3月5日(金)全国公開

【CAST】
アリス・キャロル:広橋涼
アテナ・グローリィ:佐藤利奈
アーニャ・ドストエフスカヤ:茅野愛衣
まぁ:渡辺明乃
水無灯里:葉月絵理乃
アリシア・フローレンス:大原さやか
愛野アイ:水橋かおり
アリア:西村ちなみ
藍華・S・グランチェスタ:斎藤千和
晃・E・フェラーリ:皆川純子
あずさ・B・マクラーレン:中原麻衣

原作:天野こずえ「ARIA」(ブレイドコミックス/マッグガーデン刊)
総監督・脚本:佐藤順一
監督:名取孝浩
キャラクターデザイン・総作画監督:伊東葉子
美術監督:氣賀澤佐知子(スタジオユニ)
色彩設計:木村美保
撮影監督:間中秀典
音楽:Choro Club feat. Senoo 
OPテーマ:「フェリチータ」安野希世乃
EDテーマ:「echoes」安野希世乃
音楽制作:フライングドッグ
音響制作:楽音舎
アニメーション制作:J.C.STAFF

製作:松竹
配給:松竹ODS事業室
(C)2020 天野こずえ/マッグガーデン・ARIAカンパニー

【公式サイト】
https://ariacompany.net/
【公式Twitter】
@ARIA_SENDEN

Writer

丸本大輔


フリーライター&編集者。瀬戸内海の因島出身、現在は東京在住。専門ジャンルは、アニメ、漫画などで、インタビューを中心に活動。「たまゆら」「終末のイゼッタ」「銀河英雄伝説DNT」ではオフィシャルライターを担当した。にじさんじ、ホロライブを中心にVTuber(バーチャルYouTuber)の取材実績も多数。

関連サイト
@maru_working