大ヒットコンテンツ「ウマ娘」あの天才ウマ娘は、なぜ天才になったのか?
ゲーム、アニメ、漫画などで展開しているCygamesのクロスメディアコンテンツ『ウマ娘』。ウマ娘のキャストには数多くの人気声優を起用。キャストによるライブなどのイベントも人気を集めている

(C) Cygames, Inc.

競走馬の名前と魂を受け継いだウマ娘を育成『ウマ娘 プリティーダービー』

2月24日に配信が開始されると、瞬く間にゲームアプリの各種ランキングで上位の常連になったCygamesの『ウマ娘 プリティーダービー』(3月10日にはPC版も配信開始)。

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舞台は、走るために生まれてきた「ウマ娘」たちによるレース「トゥインクル・シリーズ」が国民的人気を集めているパラレルワールド。長い耳と尻尾があり、時速70kmもの速さで走ることができる以外は人間の女性と変わりがないウマ娘たちは、異世界(我々の世界)で大活躍した競走馬の名前と魂を受け継いでおり、全国の精鋭が集う養成機関「トレセン学園」(日本ウマ娘トレーニングセンター学園)で担当トレーナー(プレイヤー)と出会い、二人三脚でトレーニングを重ねながら、「トゥインクル・シリーズ」での栄光を目指す。


育成シミュレーションとしてのゲームシステムの完成度の高さや、レースの後に開催される「ウイニングライブ」の楽曲と演出のクオリティなど、さまざな魅力がある中で特筆したいのは、独自の世界観の中で生み出されたウマ娘たちの巧みなキャラクター造形。

大ヒットコンテンツ「ウマ娘」あの天才ウマ娘は、なぜ天才になったのか?
レースに出場したウマ娘が全員参加し、1着のウマ娘がセンターを務められるウイニングライブは、映像、楽曲ともにアイドルゲームも顔負けのクオリティー。楽曲を収録したCDも販売中

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異世界の競走馬から、名前と魂だけでなく、魅力へとつながるさまざまな個性も受け継いだウマ娘たちは、競走馬や競馬に興味がなかったユーザーも惹きつけ、ゲームに先行する形で展開されてきたTVアニメ(世界観やキャラクターは、ほぼ共通)も、アプリの配信開始をきっかけに、改めて注目度が高まっている。

例えば、ゲームの育成キャラクターのひとりで、今年の1月から放送中のアニメ第2期『ウマ娘 プリティーダービー Season 2』では、メインキャラの一人にもなったライスシャワーは、黒にも見える濃い青色のドレス(勝負服)が似合う小柄なウマ娘。

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トレーナー(プレーヤー)を「お兄さま(お姉さま)」と呼ぶゲームのライスシャワー。性格も内気で優しいが、固有スキル「ブルーローズチェイサー」の発動ムービーは「黒い刺客」を彷彿とさせる

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競走馬のライスシャワーは、430~450kgと牡馬としては小柄な漆黒(黒鹿毛)の馬体で、長距離のGIレース(最高グレードのレース)を3勝した稀代のステイヤー(長距離レースが得意な馬)。ウマ娘のライスシャワーは、ビジュアル面でも競走馬ライスシャワーの個性を受け継いでいるのだ。

また、競走馬のライスシャワーがミホノブルボン、メジロマックイーンといった当時のアイドルホースの歴史的な記録樹立を阻んだことから「黒い刺客」とも呼ばれ、一時はヒール的な扱いも受けていたエピソードは、ゲームやアニメのシナリオにも生かされている。


その他のウマ娘の個性の中にも、競走馬がもつさまざまな特徴やエピソードが巧みに反映されている。

ゲームの育成キャラであるスーパークリークはトレーナーを溺愛し、自分よりもトレーナーが成長し、周りから評価されることを喜ぶ母性の強いウマ娘。この性格は、競走馬のスーパークリークが日本競馬界の数々の記録を更新し続ける武豊騎手に最初のGIタイトルをもたらした名馬で、後に「天才を天才にした馬」と呼ばれたことに由来するのだろう。

GI未勝利ながら、有馬記念での3年連続を含むGI 3着4回というブロンズコレクターぶりで多くのファンに愛された競走馬のナイスネイチャ。その名前などを受け継いだウマ娘のナイスネイチャは、いつも3着止まりの自分を「脇役」「モブキャラ」と捉え、周囲から過度な期待を受けることも、自分自身に期待することも避けている。

そんな彼女がトレセン学園で出会った担当トレーナーからの信頼や、学園近くの商店街のおじちゃん、おばちゃんの応援を受けとめながら、トップを目指して成長していく姿は、ぜひゲームでたしかめてほしい。


大ヒットコンテンツ「ウマ娘」あの天才ウマ娘は、なぜ天才になったのか?
下町生まれで、地元商店街のおじちゃん、おばちゃんに可愛がられて育ったナイスネイチャ。自分を過小評価する傾向があり、スター性にあふれる同級生トウカイテイオーを別世界の存在だと思っている

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さまざまなモチーフが個性と魅力になったウマ娘

現在、ゲームで育成可能なウマ娘の中で、キャラクター性の生まれ方が特にユニークだと感じたのが「大人のオンナ」に憧れるマヤノトップガン。さまざまな場面での「正解」が分かってしまう驚異的な直観力の持ち主で、ウマ娘としてのレースセンスにもあふれる天才少女だ。

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天才ウマ娘のマヤノトップガン。ウマ娘には競走馬と同様、得意な脚質(走り方)があるが、マヤノトップガンはすべてが得意。競走馬マヤノトップガンも変幻自在の脚質を誇り、4つのG1もすべて異なる脚質で勝利した

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しかし、競走馬のマヤノトップガンは、通算GI 4勝、1995年には年度代表馬にも選ばれた名馬であることは間違いないが、初勝利まで4戦を費やし、7戦目まではダート戦を走り続けるなど才能が開花するまでには時間を要しており、「天才」のイメージとはあまり結びつかない。

では、天才キャラは、どのようにして生まれたのかといえば、おそらく、競走馬マヤノトップガンの主戦騎手を務めた田原成貴がそのイメージの源泉となっているのだろう。

田原騎手は、デビュー2年目で関西リーディングジョッキー(年間最多勝利騎手)を獲得(全国リーディングでは1位に1勝差の2位)し、その後もトウカイテイオー、マヤノトップガンなどで伝説の名レースを演出し、多くのファンから「天才騎手」と賞賛された。さらに、マヤノトップガンにレースで騎乗した騎手は、田原騎手と、3歳時に4レースだけ騎乗した武豊騎手のみ。マヤノトップガンは、デビューから引退まで、「天才」にしか背中を預けたことがない競走馬だったのだ。


ちなみに、ウマ娘のマヤノトップガンの初期固有スキルが「勝利のキッス☆」で、レースで1位になったとき、投げキッスをするのも、田原騎手がマヤノトップガンで菊花賞と有馬記念を制した際、ゴール後に投げキッスをしたエピソードに由来するはず。

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一着でゴールすると、飛行機のようなポーズで走った後、こちらに向かって投げキッスをするマヤノトップガン。ちなみに、この衣装は全ウマ娘に共通の初期衣装で、フライトジャケットの勝負服を着せるには才能開花が必要

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また、ウマ娘のマヤノトップガンは父親がパイロット。その影響で、「アイ・コピー」(了解)、「ユー・コピー?」(了解した?)などの航空機用語(無線用語)を使い、勝負服もフライトジャケットを着ている。これは、トム・クルーズが戦闘機パイロットを演じた1986年公開の映画『トップガン』からインスパイアされた個性だと思われる。つまりウマ娘のマヤノトップガンは、少なくとも競走馬、騎手、映画の3つのモチーフから個性を受け継いでいるのだ。

このような小ネタが数え切れないほど詰め込まれた魅力的キャラクターたちとともに過ごせる『ウマ娘 プリティーダービー』。
さまざまな設定の由来などを知ることは、ウマ娘への愛情を深め、作品をより楽しめることにもつながる。ゲームやアニメをきっかけに、実在した競走馬や競馬に興味を持った人は、社会情勢次第ではあるが、ぜひ競馬場にも足を運んでほしい。目の前で見るサラブレッドの大きさやレースの迫力は、テレビやネットの動画などでは味わえないものだ。

もしかしたら数年後、自分が実際に見て応援した競走馬の名前と魂などを受け継いだウマ娘がゲームやアニメでデビューするかもしれない。そのとき、ウマ娘に感じる愛情は、単なるキャラクターに対するよりも、はるかに大きくなっている。

ライスシャワーに「おにいさま」と呼ばれ、スーパークリークによしよしされて、ナイスネイチャとGI勝利を喜び合い、マヤノトップガンから求愛される未来なんて約25年前には想像もしてなかったが、好きで良かった。


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関連リンク

『ウマ娘 プリティーダービー』公式ポータルサイト

▼『ウマ娘 プリティーダービー』『ウマ娘 ぷりティーダービー Season 2』全話配信


Writer

丸本大輔


フリーライター&編集者。瀬戸内海の因島出身、現在は東京在住。専門ジャンルは、アニメ、漫画などで、インタビューを中心に活動。「たまゆら」「終末のイゼッタ」「銀河英雄伝説DNT」ではオフィシャルライターを担当した。にじさんじ、ホロライブを中心にVTuber(バーチャルYouTuber)の取材実績も多数。

関連サイト
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