『おちょやん』第17週「うちの守りたかった家庭劇」

第85回〈4月2日(金)放送 作:八津弘幸、演出:原田氷詩 〉

朝ドラ『おちょやん』ついに道頓堀に空襲が……岡安は!? シズは!? 無事を祈りつつ次週へ
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

朝ドラって意外としんどい

「ものは言いよう」という言葉がある。『おはよう日本 関東版』の高瀬アナのこの日の朝ドラ送り「喜劇がすごく見たくなってきませんか?」「 これこういう戦略なのかな、みたいな」はまさに「ものは言いよう」であった。

【前話レビュー】みんなボロボロやで――戦争が劇団を、庶民の日常を奪う

高瀬アナがわざわざ言葉を選んで語っているのに無粋ではあるが、しんどい話が続いているってことなのである。
でも今週再放送がはじまった朝ドラ第56作『あぐり』も第1週からしんどい話が続いていて、見たら驚くこと請け合いである。姉二人と父がスペイン風邪で亡くなって、母はお金を騙し取られ途方に暮れているのだ。そんなはじまりあるだろうか。

しんどい話の連続は第87作『純と愛』が朝ドラ史上最高と認識されているが、ほかにも意外としんどいパターンもあるのである。こうなったらもう『おちょやん』のしんどさを見届けたい。

「あほばっかしやな」

戦争に屈して大好きな芝居を辞めることはできないと意地を張る千代(杉咲花)。「鶴亀 敗れたり」と掛け軸の書の「鶴亀」にバッテンをして「家庭劇」だけ残す。たったひとりでも芝居をやろうとする千代の心意気。

そこへ寛治(前田旺太郎)が現れ、さらに、ルリ子(明日海りお)、徳利(大塚宣幸)、天晴(渋谷天笑)、漆原(大川良太郎)、小山田(曾我廼家寛太郎)、香里(松本妃代)、千之助(星田英利)と続々稽古場に入ってくる。

ルリ子は初登場のころのカメラ目線になり、天晴と漆原は、雨のなか、かつての名場面のセリフをテロップ付きで登場する。演劇でよくある、主要な人物がチョン! チョン! と柝の音と照明(ピンスポ)で現れるみたいな雰囲気だった。

雨降って、地固まるように、家庭劇の面々はさらなる結束を強めた。みんな芝居が大好きなのだ。


そこにひとりだけ、一平がいない。「どうせどこかで飲んだくれているやろ」と千代は言うが、京都の劇場を抑えてきたのはほかならぬ一平だった。

「ほんまにあほばっかしやな」と笑う一平。こんなに笑う一平はじめて見た。

出征してここに集まれない百久利(坂口涼太郎)の好きだった酒を飲んで、彼を思いながら景気づける一同。千代はけっきょく、感情ばかり先に立って、具体策がないのだが、一平はやることはやる。千代のためというより、芝居が好きだからだと思うけれど。

それにしても、小山田役の曾我廼家寛太郎はいつもさりげなく役の印象を残そうとしていて、筆者はこういう俳優がとても好きだ。今回は最初赤い何かを手に持っていて、お手玉?と思ったら、あとでそれを開けて何か食べている。お手玉のなかに炒り豆とか入れているやつか。床がその欠片で散らかっている。大人数がただただ集まっていてもアクセントがなくて殺風景になりがちだが、何かしら役に寄り添いつつ悪目立ちしないことをするのは大事なことだと思う。


朝ドラ『おちょやん』ついに道頓堀に空襲が……岡安は!? シズは!? 無事を祈りつつ次週へ
写真提供/NHK


朝ドラ『おちょやん』ついに道頓堀に空襲が……岡安は!? シズは!? 無事を祈りつつ次週へ
写真提供/NHK

「死んだらしまいや」

昭和20年3月10日、東京で大空襲が起きた。大阪・道頓堀に空襲が来る日も近そうだが、シズ(篠原涼子)は凛としてそこにいる。梅の花なんか飾ったりして。

そこへ、菊(いしのようこ)が現れ、「死んだらしまいや」と「何がなんでも生き延び」とそれだけ言って去っていく。最近のシズと菊のシーンは、新橋演舞場などでやっていそうな女性が主役の芝居の雰囲気がある。とりわけいしのようこがカッコいい。

シズはかめ(楠見薫)宗助(名倉潤)と疎開するように言い、自分だけは残る意地を見せる。これはまるで、大河ドラマ『麒麟がくる』で明智光秀(長谷川博己)の叔父・光安(西村まさ彦)が城の者を避難させ、自分だけが城と共に残ったような雰囲気である。光秀の父であり光安の兄から預かった城と最後を共にする覚悟のような。

そして、京都公演の日。「これでよかったんやろうか」と改めて考える千代に、「ええで。おまえのやったことは間違うてへん」と肯定する一平。あほで勝手なことをしても肯定してくれる人に守られている。
これでこそ千代が主役。金曜日にようやく千代が主役らしくなった。ところが、そこへ、道頓堀が空襲にあったという知らせが……。道頓堀の空襲は3月13日。

ちなみに、家庭劇のモデルである松竹家庭劇は、『喜劇の帝王 渋谷天外外伝』(大槻茂著)によると、戦前、東京にも進出していて、真珠湾攻撃の報せを聞いたのは築地の東京劇場公演中。大阪大空襲で本拠地・中座が焼けて、地方公演をするようになる。モデルの劇団は解散させられてはいず、細々と活動を続けていたのである。

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■杉咲花(天海千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
■成田凌(天海一平役)プロフィール・出演作品・ニュース
■いしのようこ(富川菊役)プロフィール・出演作品・ニュース
■星田英利(須賀廼家千之助役)プロフィール・出演作品・ニュース
■明日海りお(高峰ルミ子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■曽我廼家寛太郎(小山田正憲役)プロフィール・出演作品・ニュース
■渋谷天笑(須賀廼家天晴役)プロフィール・出演作品・ニュース
■大川良太郎(漆原要二郎役)プロフィール・出演作品・ニュース
■松本紀代(石田香里役)プロフィール・出演作品・ニュース
■前田旺志郎(松島寛治役)プロフィール・出演作品・ニュース
■篠原涼子(岡田シズ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■桂吉弥(黒衣役)ニュース


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番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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