![水原希子・さとうほなみW主演『彼女』殺人を犯した・依頼した2人の当て所ない逃避行](http://imgc.eximg.jp/i=https%253A%252F%252Fs.eximg.jp%252Fexnews%252Ffeed%252FExcite_review%252Freviewmov%252F2021%252FE1618731307844_b0dd_1.jpg,quality=70,type=jpg)
水原希子・さとうほなみの新鮮な顔合わせ『彼女』
Netflixの『彼女』は、水原希子が脱いだりしたことで話題になっている作品である。しかし、この作品で最も見るべきポイントは、真木よう子と鈴木杏の役者としての力だろう。この二人のためだけでも、『彼女』を見る価値はある。【関連レビュー】赤楚衛二×町田啓太『チェリまほ』が教えてくれたもの
夫を殺させた女と殺した女、二人の逃避行……ではあるけれど
『彼女』の原作は、中村珍のコミック『羣青』である。主人公は、異性愛者の江崎草子と同性愛者の大高智代美の2人。草子の「夫を殺してほしい」という頼みを聞いた智代美が実際に草子の夫を刺し殺し、そこから始まる2人の当て所ない逃避行を描いた内容だ。![水原希子・さとうほなみW主演『彼女』殺人を犯した・依頼した2人の当て所ない逃避行](http://imgc.eximg.jp/i=https%253A%252F%252Fs.eximg.jp%252Fexnews%252Ffeed%252FExcite_review%252Freviewmov%252F2021%252FE1618731307844_96de_2.jpg,quality=70,type=jpg)
2人の愛憎、子供の頃から厳しい環境に置かれ暴力を振るわれ続けてきた草子の感情、2人の周囲の人間たちの情念や考えが、あらゆる技巧を駆使して読者に叩きつけられる怒涛のような作品だ。正直好き嫌いは分かれる内容だが、身を削って描かれた作品であることは誰にでもわかる、壮絶なコミックである。
この原作を映像化したのが『彼女』である。ストーリーの大筋は同じ。
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が、しかし、情報量が原作コミックの1/4程度になってしまっている。原作では意味のあった要素(例えば原作で智代美の仕事が獣医であることにはちゃんと意味があったのだが、レイが整形外科医であることの意味は特に説明されない)が削り落とされ、2人が互いに対して向け合う攻撃的な感情とどうしようもない愛着の厚みは、ずいぶん薄くなっている。
原作に比べ、状況の絶望度合いが随分低いというのもちょっと……というポイントである。
![水原希子・さとうほなみW主演『彼女』殺人を犯した・依頼した2人の当て所ない逃避行](http://imgc.eximg.jp/i=https%253A%252F%252Fs.eximg.jp%252Fexnews%252Ffeed%252FExcite_review%252Freviewmov%252F2021%252FE1618731307844_1f9d_11.jpg,quality=70,type=jpg)
その代わりに挟まれているのが、水原希子とさとうほなみのヌードである。確かにコミックでもセックスは重要な要素でもあるし主人公2人の裸も出てくるのだが、しかし冒頭いきなりレイ役の水原希子が脱ぐのには「まず一発目に客をびっくりさせよう!」という意図を感じる。
しかし、おっぱいが出ていれば客がびっくりするだろうというのは、ちょっと安直ではなかろうか。Netflixの日本製オリジナル作品では裸やセックスシーンが話題になることがままあるが、地上波でやれないことって、またそれか……という気持ちにならないでもない。
真木よう子と鈴木杏の存在感が凄まじい
と、文句ばかり書いてしまったが、撮影は相当うまい。冒頭からタイトルが出るまでの夜の東京のしっとりした質感や、逃げ延びた先でオープンカーを走らせて感じる開放感など、映像だけで2人の感情や空気まで感じさせようという意図がちゃんと当たっている。この辺りは、さすがにベテランの廣木隆一監督が作っているな……と思った点だ。![水原希子・さとうほなみW主演『彼女』殺人を犯した・依頼した2人の当て所ない逃避行](http://imgc.eximg.jp/i=https%253A%252F%252Fs.eximg.jp%252Fexnews%252Ffeed%252FExcite_review%252Freviewmov%252F2021%252FE1618731307844_4821_5.jpg,quality=70,type=jpg)
![水原希子・さとうほなみW主演『彼女』殺人を犯した・依頼した2人の当て所ない逃避行](http://imgc.eximg.jp/i=https%253A%252F%252Fs.eximg.jp%252Fexnews%252Ffeed%252FExcite_review%252Freviewmov%252F2021%252FE1618731307844_2474_4.jpg,quality=70,type=jpg)
そしてこの映画をギリギリのところで踏ん張らせているのが、真木よう子と鈴木杏の二人である。真木よう子はレイに振り回される元恋人、鈴木杏はレイの兄嫁としてそれぞれ登場するのだが、この2人の存在感がなかなか凄まじい。
この映画の厳しいポイントとして、脚本の不自然さがある。「いや、この状況でそんなセリフは言わないでしょ……」「最近の女の人って、こんな喋り方だっけ……?」という、微妙に違和感のある言い回しや、製作陣の意図を強めに感じてしまう台詞が頻出するのだ。しかし、真木よう子が電話でレイと話すシーンでは、役者の腕力でこの違和感をねじ伏せる瞬間が見られる。このシーンで画面に映っているのは、真木よう子一人。彼女の表情とセリフと動きで、好きな女に置いていかれた女の心情を見せきっているところに注目してほしい。
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子沢山の母親として登場する鈴木杏も、存在感は抜群である。マジョリティらしい無神経さと肉親に対する優しさを両方持ち合わせた自分の夫に対し、彼女が毅然とした態度でぶつかる姿は迫力満点。小娘二人の逃避行という風情だった物語が、鈴木杏のどっしりとした風格で一気にギュッと締まるのには驚いた。考えてみれば鈴木杏は子役時代から演技経験を重ねている上に一人芝居の経験まであるわけで、画面が締まるのも当たり前である。
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いろいろと不自然な点や残念なところもある『彼女』だが、演技力とは一体どういうものなのかを考える上では、かなり参考になる作品ではある。役者に力があれば、多少不自然なセリフや状況であっても、見ている方はなんとなく納得してしまう。
作品情報
『彼女』![水原希子・さとうほなみW主演『彼女』殺人を犯した・依頼した2人の当て所ない逃避行](http://imgc.eximg.jp/i=https%253A%252F%252Fs.eximg.jp%252Fexnews%252Ffeed%252FExcite_review%252Freviewmov%252F2021%252FE1618731307844_d0d0_12.jpg,quality=70,type=jpg)
4月15日(木)よりNetflixで配信中
配信ページ:https://www.netflix.com/jp/title/81261676
出演:水原希子 さとうほなみ
真木よう子 鈴木杏 田中哲司 南沙良 植村友結 新納慎也 田中俊介 烏丸せつこ
監督:廣木隆一
原作:中村珍
脚本:吉川菜美
<ストーリー>
裕福な家庭に生まれ育ち、何不自由ない生活を送ってきた美容整形外科医の永澤レイ(水原希子)。レイはバーで誰かを探し、探し当てた男に酒を振る舞い、彼のマンションへ。そしてベッドに入った彼女は、彼の首に持参したメスを突き立てる……。
その前日、パートナーの美夏(真木よう子)の誕生日を祝っていたレイは、高校時代の同級生・篠田七恵(さとうほなみ)からの電話を受ける。当時、思いを寄せていた七恵から10年ぶりに「これから会えない?」と呼び出されたレイは美夏を残し、彼女が待つホテルへ向かう。ぎこちなくも再会を喜ぶレイだったが、全身あざだらけの七恵の姿を目の当たりにし愕然とする。
七恵は夫からのDVで「死」をも覚悟していた。そんな彼女にレイは、七恵が死ぬなら、彼女の夫が死ぬべきだと諭す。すると、「だったら殺してくれる?」と七恵。男を殺したのは、七恵に生きてほしいがためにレイがくだした決断。その後、当てもなく彷徨うレイを車で追いかけてきた七恵に、「もう誰もあんたを殴らない!」と笑顔を向けるレイ。行く場所も、戻る場所もないふたりは共に逃避行に出るが……。
2021年/142分
しげる
ライター。岐阜県出身。元模型誌編集部勤務で現在フリー。月刊「ホビージャパン」にて「しげるのアメトイブームの話聞かせてよ!」、「ホビージャパンエクストラ」にて「しげるの代々木二丁目シネマ」連載中。プラモデル、ミリタリー、オモチャ、映画、アメコミ、鉄砲がたくさん出てくる小説などを愛好しています。
@gerusea