
夜の東京を舞台に擬人化された動物たちが繰り広げるミステリー群像劇『オッドタクシー』
『セトウツミ』でヒットを博した漫画家・脚本家の此元和津也が脚本を書き下ろし、P.I.C.S.が原作を手掛けるアニメ『オッドタクシー』が、4月6日よりテレビ東京で放送スタート。アニメ専門局「AT-X」でも放送するほか、Amazonプライム・ビデオでも独占見逃し配信が行われている。【関連記事】中川家×ナイツ×サンドウィッチマン『アメトーーク!』M-1の礼二に「胸詰まる」兄・剛のピュア
この作品は、夜の東京を舞台に擬人化された動物たちが繰り広げるミステリー群像劇。
主人公・小戸川役を演じるのは、『鬼滅の刃』竈門炭治郎で話題を集めた花江夏樹。ヒロインのアルパカ・白川美保役に飯田里穂、さらに大塚芳忠、山口勝平、三森すずこら実力派の声優陣が参加しているほか、ミキ(昴生・亜生)、ダイアン(ユースケ・津田篤弘)、村上知子(森三中)、たかし(トレンディエンジェル)、ガーリィレコード(高井佳佑・フェニックス)といった人気の吉本芸人たちが名を連ねる。
抱腹絶倒、ギャグ的な展開を想像してしまうかと思いきや、その予想は大きく覆されることになる。
花江夏樹の暗く沈んだ台詞と、“笑いを封じた”芸人たちのシリアスな演技が刺さる
花江演じる主人公のセイウチ・小戸川は、暗く無愛想で、ボソボソとした語り口のキャラクター。『鬼滅の刃』竈門炭治郎役で見せたアグレッシブなキャラクターとは対照的に、その佇まいはどこか鬱屈としており、言葉の節々に深い闇を感じさせる。芸人陣が演じるキャラクターにもギャグの要素はほとんどなく、笑いを封じてシリアスな役柄に徹している。テレビでにぎやかにネタを繰り広げる、普段の彼らからはまったく想像のつかない「顔」が、そこにあるのだ。ポップで愛くるしく平面的なキャラクター描写と、深い夜の闇に沈み、陰影の濃いシーンが両立しているのが、このアニメの魅力だ。ときにはドス黒い血だまりが広がるシーンすらあるのだが、キャラクターの雰囲気によって絶妙な加減で緊張感はほどよく中和され、流れる夜の車窓を見ているかのような、穏やかな感情をも抱かせる。
キンと冷たい深夜の空気を体現するように、静かに静かに、そして深く進行していくストーリー。深夜のタクシーで感じる「あの空気」に取り込まれ、いつしか画面から目が離せなくなっていくのだ。
ミキ演じる「威圧的なミーアキャットの警官」にゾクゾク
なかでも目が離せないのが、ミキが演じるミーアキャットの警官兄弟、大門。昴生演じるしっかりものの兄を亜生演じる弟は強く慕っているが、家庭の事情からタクシー運転手を憎んでいる彼らは小戸川に対して威圧な態度をとる。兄は女子高生の失踪事件について小戸川がなんらかのカギを握っていることをつかみ、ドライブレコーダーの映像が記録されたカードを押収するが、「警察には行くな」とひとこと。「もし行ったら?」といぶかしがる小戸川に、兄は「わかんないけど拳銃持った指名手配犯がお前を殺すんじゃない?」と吐き捨てる。さらに裏で兄は街のチンピラ・ドブ(浜田賢二)とつながっており、雨の降る夜、小戸川から押収したカードをすれ違いざまに横流しする……。
はっきり言って、怖い。まさかアニメで、こんなに怖いミキを目にすることになるとは。普段とのギャップがあいまって、このふたりからは目が離せなくなってしまうのだ。
シリアスだが「細かすぎて伝わらない」小ネタの数々にも注目
全体的に緊張感の漂うストーリーなのだが、登場するキャラクターたちが交わす台詞には「わかる人にはわかる」ニッチな小ネタが所狭しと詰め込まれており、本筋とは別に笑いを誘う。車中のラジオで、賞レースへの不満をぶちまけるお笑いコンビ・ホモサピエンスのボケ担当・柴垣(ユースケ)が「何かしらの癒着を感じんねん」「なんで俺らよりおもんないヤツらに評価されなあかんねん」と参加した賞レースへの不満をぶちまけ、ツッコミ担当の相方・馬場(津田)があわてて止めようとする展開は、これまでにあった数々の騒ぎを彷彿とさせる。
どうしてもバズりたいカバの大学生・樺沢(たかし)のスマホには「スタバで隣の席にいた高校生の話」などTwitterでおなじみのバズネタが踊り、バズったツイートにテレビ局が取材依頼のリプライを送るところまでを忠実に描写していたり、かかりつけのゴリラの医師・剛力(木村良平)の急な話題転換に小戸川が「『ウィー・アー・ザ・ワールド』のブルース・スプリングスティーンくらい唐突だな」とツッコんだり。しかもこの話題に剛力は「アル・ジャロウのあとに入ってくるヤツな!」とさらに細かく乗っかっていく。
アニメと連動した主題歌PVも必見
この不思議で深いアニメを彩るのが、スカートとPUNPEEによる書き下ろしのテーマ『ODDTAXI』。公開されているオフィシャルPVでは、本編と同じくP.I.C.S.が手掛けるアニメーションのなかで、ふたりが実写、ときには擬人化された動物キャラに姿を変えながら、深夜のけだるくミステリアスな雰囲気をドラマチックに表現する。【視聴】スカートとPUNPEE『ODDTAXI』Official Music Video
このPVもまた小ネタが満載だ。劇中でキャラクターの声を演じる声優陣や芸人たちが実写で登場し、現実と虚構が幾重にも組み合わさる。お笑いコンビ・ホモサピエンスを演じるダイアンのふたりも登場するのだが、彼らのシーンは、以前『やすとものいたって真剣です』(ABCテレビ)でも披露された「解散危機」のエピソードがモチーフになっている。これもまた、元ネタを知る人にとってはニヤニヤが止まらないことと思う。さらにこのシーンには、アニメのストーリーのヒントとなる場面も隠されているので、そこにも注目だ。
さて、このアニメをいつ観るか。テレビでは深夜帯の放送、Amazonプライム・ビデオではいつでも見放題だが、ここはひとつ、真夜中の真っ暗な部屋での視聴をぜひともオススメしたい。騒音が漏れない程度に窓を開け、夜風を感じながら見るとさらに最高。つぎの瞬間、あなたの部屋は小戸川タクシーの車内に早変わりすることだろう。
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番組情報
『オッドタクシー』テレビ東京 毎週月曜26:00〜26:30
AT-X 毎週水曜23:30〜24:00
Amazonプライム・ビデオでも配信中
天谷窓大
ライター・構成作家。エンタメ媒体で芸能人インタビューを多数行うほか、音声配信アプリを主戦場にラジオ番組の企画構成を手掛ける。焼き芋アンバサダー・熱波師としての顔も。著書に「サラリーマンは早朝旅行をしよう!平日朝からとことん遊ぶ『エクストリーム出社』」(日本エクストリーム出社協会名義、SB新書)
@amayan