『おちょやん』最終週「今日もええ天気や」

第114回〈5月13日(木)放送 作:八津弘幸、演出:梛川善郎〉

朝ドラ『おちょやん』一平と別れ輝きを増す千代 生きててよかったお茶子らも集まり、いよいよ明日は最終回
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

「お母ちゃん、行かんといて」

いよいよ千代(杉咲花)が鶴亀新喜劇に出演する本番の日がやって来た。公演の題名は「お帰り竹井千代 笑って泣いて珠玉の傑作集」。道頓堀新ゑびす座に続々訪れる千代の旧知の人たち。
皆が固唾を呑んで見守る中、幕が開く。「今度はお母ちゃんがあんた(春子)に魔法を見せる番だす」と千代は気合を入れる。

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本番までの稽古は5日間という短い期間ながら、千代はラジオドラマの仕事の合間を縫わなくてはならず、スケジュール調整が大変。ラジオドラマ『お父ちゃんはお人好し』の相方・当郎(塚地武雅)は千代が舞台にとられたと嘆き、「捨てんといて」とすがる。ちょうどドラマの読み合わせの内容が、お父ちゃん(当郎)がお母ちゃん(千代)の外出を嫌がっているものだった。

作家・長澤(生瀬勝久)も舞台にとられるのが悔しいので『お父ちゃんはお人好し』を舞台化しようと思いつく。その言葉どおり舞台化、さらに映画化もされて、ますます人気になったとナレーションが入る。

千代は一平と別れてからというものツキに恵まれている。出会い運がよくなって、その出会いが連鎖して、昇っていく一方。ここに教訓を見出すとすれば、父や夫を大事にしないといけない。彼らに尽くさないといけない。彼らが絶対的に必要な存在である。
……というような一般的な常識に縛られる必要はない。千代は父や夫から離れてからのほうが、どんどん幸せになっていく。とりわけ一平と別れてからの千代は輝きを増した。年齢が上がるにつれ逆に若々しくなっているように感じるのも意図的なのではないかと思うほどである。

千代は渋めの紅い着物を着て(帯の柄も渋いが華やか)、「遅なりました」といちばん後(あと)に稽古場にやって来る。売れっ子女優の堂々たる貫禄である。

「もし私ら一緒にいてたら、どないな人生あったやろうか」

亡くなった大山社長(中村雁治郎)の肖像画も相変わらずでーんと見守っている稽古場で稽古は順調に行われ、今日はこれまでとなったとき、千代は一平に最後の場面にセリフを足せないかと相談する。

「もし私ら一緒にいてたら、どないな人生あったやろうか」

なんとも思わせぶりなセリフである。千代のせいいっぱいの抵抗とでもいおうか。おんな心が滲む。そのときの一平の表情。成田凌はいつもリアクションの滞空時間が長い。そこがいい。


千代のセリフに一平が応えたセリフはーー。
一平が最初に考えたものはあまりにも口当たりが良すぎて、あとから考えたもののほうが当然ながらよかった。

劇団員たちは帰りかけた足を止めてふたりのやりとりをじっと聞いている。セリフが決まると、安心したように帰っていく。この場面が舞台の一場面のよう。

岡安のメンバーがやって来た!

公演初日。熊田(西川忠志)は大きな瞳から涙がこぼれそうになりながら「千代ちゃんにはここがよう似合ってるわ」と喜ぶ。

客席は、春子(毎田暖乃)、シズ(篠原涼子)、みつえ(東野絢香)などの一角と、当郎、長澤ほかラジオドラマの一角がある。とそこへ、元岡安のお茶子たちがやって来た。

不景気で岡安の経営が危ぶまれたときも残っていた彼女たちだが、戦争でバラバラになってしまった。みんな無事でよかった。富士子(土居志央梨)、節子(仁科紗和)、玉(古谷ちさ)……そしてかめ(楠見薫)。かめはおいおい泣いている。
生きててよかった。

客席に座ったかめは他の席を気にしている。当郎たちがいると気づいて騒いでいるようだ。当郎たちの場面では、当郎と長澤とNHK大阪の人たちがしゃべっているとき、後ろに座ったラジオドラマの出演者たちが春子に気づいて挨拶に動き出している。

広い客席の中が連携していて、それがみんな千代の家族のような存在であることの多幸感。ただ、京都のカフェー「キネマ」の人たちなども出てきてほしかったなあと思っている視聴者も多いのではないだろうか。山村千鳥(若村麻由美)はもう亡くなってるのだろうか。

女ののど自慢

『おはよう日本 関東版』で高瀬アナが「いやあ、深い」としみじみしていたのを聞いて、昔あった朝のワイドショー番組『ルックルックこんにちは』(日本テレビ)の1コーナー「ドキュメント女ののど自慢」を思い出した。情報番組の1コーナーで、辛く苦しい人生を背負った女性参加者の話を司会がねばっこい口調で語り、そのあと参加者が歌う。生々しく波乱万丈なエピソードによって歌が劇的に聞こえるという相乗効果。筆者の家では祖母が朝ドラのあと『ルックルック〜』を観ていた記憶がある。『おちょやん』はこのテイストがあるような気がしてなつかしくなった。



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番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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