『おちょやん』第22週「うちの大切な家族だす」

第110回〈5月7日(金)放送 作:八津弘幸、演出:佐原裕貴〉

朝ドラ『おちょやん』栗子が亡くなり、千代と春子が“ほんまの親子”に
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

『1ダースのお帰りなさい』

ラジオドラマ『お父さんはお人好し』の1時間の特別番組は、ギリギリ脚本が間に合って、無事、放送された。

【前話レビュー】『おちょやん』一生うちが守る――血の繋がりはなくとも大切な“家族”

この回は第30話『1ダースのお帰りなさい』。次女・乙子(辻凪子)の夫が長い時を経て戦争から帰って来る話で、関係者たちは大泣き。
聴取率はその週のNHKの番組のなかで1位だった。

ほどなくして栗子(宮澤エマ)が亡くなり、千代(杉咲花)春子(毎田暖乃)を養子に迎えることにする。

最終回まであと5回(1週間)まで来た感覚は、飛行機が目的の空港に近づき着陸態勢に入ってゆるゆると高度を下げていくときに近い。朝ドラは何十時間も飛行機に乗るような長い旅。最終回という名の空港にようやく到着かーという安堵と、でもちょっとだけまだ気が抜けないあの感じである。

ラジオドラマのレギュラーたちが帰って来た次女の夫に「お帰りなさい」と次々にあたたかい言葉をかけるところは次回作『おかえりモネ』へのバトンのようにも見えた。
徐々に新作に切り替わっていく感じも朝ドラならではである。

さて、1時間特番の放送当日、台本が6分の1しかできていなくて、陰鬱な空気の会議室(リハーサル室?)へ長澤(生瀬勝久)が病を押して入ってくる。全部の台本が仕上がっていた。

読み終えた俳優たちは満足げ。でも、わはは!と爆笑するのではなく、しんみりした表情だった理由が、本番の展開を見てわかる。戦争で引き離された家族が再会するという、戦後、きっと誰もが夢見た物語なのだろう。
長澤の想いがこもったドラマを、岡福に集まった劇団員たちやお客さんたちも自分のことのように夢中で聞いていた。とりわけ、夫を戦争で亡くしたみつえ(東野絢香)の深刻な表情は印象的だった。そしてそれを優しく見守るシズ(篠原涼子)も。

仕事や旅を終えて疲れて帰って来たとき、「おかえりなさい」と迎えてくれる人がいる。それは嬉しいことである。そんなことを思った『1ダースのお帰りなさい』。
まったくの余談だが、ワードで原稿を打っていて、一端やめて短期間で再び立ち上げると「お帰りなさい」と出てくる。

「ほんまの親子になれへんか?」

大切な特別番組を、栗子と春子も聞いている。栗子はちゃぶ台に千代の父母の写真を飾って一緒に聞く。千代が栗子の家に来たときは遠慮してタンスの中にしまっていたものだ。

栗子は春子に「千代おばちゃんのお父さんとお母さんや」と説明する。春子のおじいちゃんのほうがわかりやすいと思うけれど、そうすると、お母さん(サエ)の説明が面倒になるからであろうか。もしや、春子はテルヲの血縁ではないのではないか疑惑が沸いてくる。
だからこそ「テルヲの血を引いている」とわざわざ言うし、千代も「血がつながっていようといまいと、そないなこと、どないでもよろしいのや」と応えたのかもしれない。そこはぼやかしていろいろな解釈に任せるところは向田邦子的か。

朝ドラ『おちょやん』栗子が亡くなり、千代と春子が“ほんまの親子”に
写真提供/NHK


朝ドラ『おちょやん』栗子が亡くなり、千代と春子が“ほんまの親子”に
写真提供/NHK

栗子が亡くなって、千代は春子に「ほんまの親子になれへんか?」と持ちかける。養子にしたいという申し出を春子は居住まいを正して「うん、ええで」と即、受けるが、「せやけど、死んだお母ちゃんとお父ちゃんのことも好きなままでええ?」と付け加える。あんなに春子になついているが、やはり生みの両親と親戚のおばちゃんとは違うのだ。

千代は養子という形式をとろうと考え、春子はあらかじめ死んだ父母も自分にとって大事であることを表明する。
血の繋がりなど関係ないと言いながらも人は血の繋がりを拭いきれない。千代がテルヲと絶縁できなかったように。切ることのできない血の繋がりは生温かい。だからこそ、それを超えた関係性が尊く感じるものなのである。

実の子を成した一平(成田凌)は、千代のラジオを聞いていたのかいないのか、思い立って台本を書き始める。それを子ども抱きながら見守る灯子(小西はる)
ここにもまたいろいろあるけれど、繋がっている家族の形があった。さんまのはらわたのようになんとも生温かくて苦い。

この日の『あさイチ』のプレミアムトークのゲストは杉咲花。成田凌も登場して、イメージ回復につとめていた。初期、距離を縮めるために、腕のほくろの毛を抜いてもらった話は妙に生々しく、こういうオリジナリティあふれる行為が脚本にもあったなら独特の夫婦関係が見えて面白かったのに。

一平のイメージを払拭すべく、すっごい爽やかな役をやりたいと『あさイチ』で発言する成田凌であったが、弱さが色気になる得難い俳優である。

また、テルヲ役のトータス松本が裏設定で千代のためにビー玉をたくさん買っていたことにして、それを杉咲に渡していたエピソードにはほっこりした。

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■杉咲花(天海千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
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■篠原涼子(岡田シズ役)プロフィール・出演作品・ニュース

■桂吉弥(黒衣役)ニュース


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番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami