『おちょやん』第22週「うちの大切な家族だす」

第109回〈5月6日(木)放送 作:八津弘幸、演出:佐原裕貴〉

朝ドラ『おちょやん』一生うちが守る――血の繋がりはなくとも大切な“家族”
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

静子の家出

ラジオドラマ『お父さんはお人好し』が人気で1時間の特別番組をやることになったが、脚本家・長澤(生瀬勝久)が盲腸で入院、静子役の島田祥子(藤川心優)が家出するなど問題が多発。プロデューサーや編成、演出家たちは頭を抱える。

【前話レビュー】『おちょやん』生瀬勝久が脚本家・長澤を演じる因縁

ラジオドラマで「お母ちゃん」がすっかり板についた千代(杉咲花)は祥子に「お母ちゃん」と頼られる。
祥子の家族の話をきっかけに、千代も“家族”について思いを致す。今の千代を支えているのは、花かごを送ってくれる栗子(宮澤エマ)と千代を慕う愛くるしい春子(毎田暖乃)。「(春子は)一生うちが守る。栗子さんもそうやで」と千代はその言葉に力を込める。

「たまには私も見せ場がほしい」と言っていた静子(祥子)が家出して、千代の家を訪ねて来た。「聞いてよ、お母ちゃん(千代のこと)、お母ちゃんがな(本当の親のこと)」とややこしい。
ラジオドラマがあまりにも“家族”らしくなっているので現実とドラマがまぜこぜになってきている。千代は祥子に「千代」と呼ぶように諭す。

祥子の父は医者で、わりと裕福な家庭。だからこそ俳優は趣味の域。勉強と両立することを条件にやらせてもらっているが、おろそかになるなら辞めさせられてしまうと千代に相談する祥子。途中でまた呼び方が「お母ちゃん」に戻ってしまっていた。
「千代さん」より「お母さん」のほうが馴染んでいるのだ。

その頃、祥子の両親はNHK大阪局を訪ねていた。編成の四ノ宮一雄(久保田悠来)は、1時間特番もやるし、これからもっと人気が出てくるから、いま辞めるのは「もったいない」と説得する。

家族になれたらええんやけどな

その晩、祥子は栗子の家に泊まる。千代が外で月を眺めていると祥子が出て来た。

「ドラマのなかとおんなじように、あんたともみんなとも家族になれたらええんやけどな」

そうつぶやく千代。本当の家族にはかなわないと思う千代は「チヨ子お母ちゃんにできんのは、こないしてあんたと一緒に月を見上げることくらいどす」と祥子の肩をやさしく抱く。


家のなかでは春子が眠れず外を気にしていて、それを栗子が心配げにみつめる。

その後、栗子は千代に、春子は正真正銘、栗子とテルヲの血を引いているから守ってやってほしいと託す。「血がつながっていようと、いまいと、そないなことどないでもよろしいのや」と千代は言うけれど、血がつながった家族がいない孤独が千代はどうしても拭えないのではないかと栗子は心配したのではないだろうか。

朝ドラ『おちょやん』一生うちが守る――血の繋がりはなくとも大切な“家族”
写真提供/NHK


朝ドラ『おちょやん』一生うちが守る――血の繋がりはなくとも大切な“家族”
写真提供/NHK

千代も血縁にこだわっていないようで、本当の「家族」がいないことにコンプレックスがあるように見える。それが、祥子との会話で出た「ドラマのなかとおんなじように、あんたともみんなとも家族になれたらええんやけどな」に表れている。深読みすれば、一平(成田凌)は千代との絆よりも血のつながった子供を選んだことが影を落としているとも考えられる。
そんな千代の迷いを断ち切るトリガーに栗子がなっている。

栗子「(花籠を)なんやったらいまのうちに十年分、まとめて渡しとこか」
千代「それありがたみが薄れるわ」

こんな会話も交わせるのだから、血縁じゃなくても十分いい関係である。

一難去ってまた一難

祥子は両親を説得し、『お父ちゃんはお人好し』が終わるまでは続けていいと許可をもらった。出演者一同は祥子を優しく迎える。まるで家族のように。いや、実の家族よりもたぶん優しい。疑似家族のいいところは、家族よりも遠慮と思いやりの分量が多くなることであろうか。


だが、肝心の台本が20ページしかない。いつも60ページだが、特別編は1時間なので120ページ必要。本番まであと4日。「こりゃまたスリル満点ですな」と当郎(塚地武雅)は笑うが……。

病院では長澤が頑張っている。痛み止めを飲むと頭がぼーっとしてしまうので、飲まずに執筆(口立て)をしている。
さりげなくもその人の職業らしさが感じられた。こういうディテールの積み重ねを好む視聴者もいる反面、『あさイチ』で鈴木アナが「ラスト1分くらいでぐっと泣かせる」と言うようなパターンを好む視聴者もいる。そう考えると、様々なニーズに過不足なく応えたドラマと言えるだろう。

『おちょやん』最終回まであと6回。『おはよう日本 関東版』では高瀬アナが『もうすぐ「おかえりモネ」』が放送されはじめたことに、「わかるけど、ちょっと早い」と意見を述べ、それを受けたのか『あさイチ』では「まだまだおちょやん」と華丸が言った。みんな千代の幸せと『おちょやん』完走を応援している。

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■杉咲花(天海千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
■宮澤エマ(上田栗子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■塚地武雅(花車当郎役)プロフィール・出演作品・ニュース
■川添公二(富岡竜兵役)プロフィール・出演作品・ニュース
■久保田悠来(四ノ宮一雄役)プロフィール・出演作品・ニュース
■野田晋市(林田伸一郎役)プロフィール・出演作品・ニュース
■大橋梓(長女・京子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■辻凪子(次女・乙子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■久保田直樹(三男・浜三役)プロフィール・出演作品・ニュース
■久保山知洋(長男・米太郎役)プロフィール・出演作品・ニュース
■細田龍之介(次男・清二役)プロフィール・出演作品・ニュース
■大石昭弘 プロフィール・出演作品・ニュース
■生瀬勝久(長澤誠役)プロフィール・出演作品・ニュース

■桂吉弥(黒衣役)ニュース


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番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami