『コントが始まる』最終回は終わりではなく始まりだった 結論のないドラマの要因を考える
イラスト/おうか

※本文にはネタバレがあります

コロナ禍がドラマに与えた影響は? 『コントが始まる』最終回

『コントが始まる』(日本テレビ系 土曜よる10時〜)最終回は終わりではなく始まりだった。

【前話レビュー】『コントが始まる』は次なるステージの準備の時間、人生の「客入れ」の時を描いている

まずはいつものようにコントから始まる。最後のコントは「引越し」。
途中で春斗(菅田将暉)のセリフが止まってしまって、どうなる? と思ったら――本番前のリハーサルだった。

そこへ春斗の兄・俊春(毎熊克哉)が差し入れに来る。水だったからまたマルチのヤバい水かと怯むマクベスの3人。でも普通の水だった。お兄ちゃんの毒のあるユーモアはレベルが高い。『コントが始まる』全話の中で最も面白い場面だったような気がする。

ということを踏まえると、やっぱりマクベスはプロとして売れっ子になるほどの才能はなかったのかもしれない。解散ライブも内輪の客ばかり(最初の単独ライブに来た客5、6人もいる)という感じなのは必然なのかなと思うと、うーー寂しい。が、気を取り直して、続きを観ていこう。

前半は一言で言うと総集編。登場人物がこれまでを振り返ったり、これまで出てきた脇役の人たちが再登場したりする。中浜の立ち直るきっかけをくれたファミレスの女性客が焼き鳥屋の大将(伊武雅刀)の妹で、双子で還暦で独身というものすごく盛った設定の持ち主だったこととか、海外冒険の旅で瞬太(神木隆之介)がファミレスの店長・恩田(明日海りお)の話に出てくるカルロスらしき人に会うことなど、最終回らしいサプライズもあった。


里穂子(有村架純)はめっちゃきれいにして解散ライブに出かけていく。彼女はマクベスと関わって変わった。いや、変わったというか取り戻したというほうが正しいような気がする。社会に出て仕事や恋愛で失敗し。学生時代の積極的な頑張り屋の面を抑えなくてはならなくなった彼女が、マクベスを支えに復帰することができたのである。

奈津美(芳根京子)と隣の席で、ドラマの第1話に出てきたコント「水のトラブル」を観ながら過去を振り返る里穂子。マクベスとの出会いは偶然か必然か。答えは出ないかもと考える。

舞台上でのコント「引越し」では、「あとで振り返ったときに正解だったと思えるように生きていくしかないだろう」と春斗が言う。このコントのオチはブラックだった。解散ライブの最後のコントも何かすっきりしたものではない。

「おれにとってマクベスとはいったいなんだったのか」と楽屋でメイクを落としながらしながら考える春斗。
「この10年にどんな意味があったのか」。コントでは「あとで振り返ったときに正解だったと思えるように生きていくしかないだろう」と言うけれど、春斗は振り返ってもこの10年が正解だったかわからずにいる。

尊い時間の終わりのとき

打ち上げは、焼き鳥屋ボギーパットが一次会、つむぎ(古川琴音)のバイト先だったスナックが二次会、三次会はマクベスの3人だけでラーメン屋。「喜多方」と「とんこつ」と「喜多とん」ラーメンのある店。

瞬太は解散の境界線を美しく引こうと考えてこの店を選んだようだ。ラーメンを食べ終わった瞬間、良い話をするのがお決まりだったから。ところが、つゆを全部飲んで咳払いして沈黙した春斗は、「意外とうまかったな」としか言わない。ここでもすっきりしたオチはつかない。

後日、引越しの準備をしている時、冷蔵庫の争奪戦ジャンケンを行う。あいこが続き、「奇跡、まじで」と大笑いしながら、おなじみのへんな言動をしながらジャンケンをし続ける3人。

「このままあいこが永遠に続いてくれたら、この時間を終わらせずに済むと思った」「このじゃんけんが終わってしまったら、もう二度とこのアホみたいな瞬間が訪れないんじゃないかという恐怖でもあった」と思った春斗がけっきょくは勝って、尊い時間を終わらせてしまう。ハァハァハァ ハァハァハァと荒い息遣いがどんなセリフよりも演技よりも哀しみが募る名演技であった。

ライブでも三次会でもすっきり終われなかった3人。
ジャンケンも終わらないでほしかったのに、春斗が勝って終わってしまった。どれもこれも全然すっきりしないまま、冷蔵庫を春斗がもらってひとり暮らしがはじまる。こういうほうがリアリティーがあるような気がする。素敵な幕切れのある人生は幸福で、世の中は、それすらなく、なんとなく生きている人のほうが多いのかもしれない。

「売れてはないけど、愛されてましたよ」

ある日、久しぶりにファミレスに春斗が行くと、里穂子のバイト最後の日だった。最後の注文はコント「水のトラブル」に出てきたメロンソーダ。飲んでいる間に里穂子はバイトが終わって先に帰ってしまう。

が、いつもの公園で、春斗を待っていた。たくさんの缶ビールを携えて。その公園には池があって、里穂子は、女神が出てくるのを待っていたとふざける。これもコントのネタである。でもその池はとても汚い。里穂子は、解散ライブのアンケートに書ききれなかったマクベスの思いを春斗に語る。


「精魂込めて作ったコントは消えることはない」
「ファンの心のなかにしっかりと残り続けていきます」

里穂子と春斗は何かあるかと思って何もない。最後までマクベスのメンバーとファンで、丁寧語で話す。「瞬太が戻ってきたら、またみんなでご飯食べましょうよ」と言って別れる。ここもまた、良いセリフはあるけれど、すっきりした終わりではない。

はっきり終わりにしなくても、時は過ぎ、物事は変化していく。春斗と里穂子が出会って一年半。濁っていた池の水が透明になった。とてもキラキラ光っている池。3人の住んでいた部屋には若い芸人3人が入りそう。前も芸人が住んでいたと聞いて、「出世部屋なんですか」と不動産屋に聞くと、「売れてはないけど、愛されてましたよ」と答える。

やがて春斗の就職が決まる。その職業は――。
それまでずっと暗い瞳をしていた春斗の瞳には光が宿っている。この終わり方には多様な解釈ができる。いくつか解釈例をあげてみよう。

その1:自分の人生自体をコントにしてしまった説。潤平(仲野大賀)も瞬太もコントは人生の第一ではなく、ほかの選択肢を選んだわけだが、春斗はコントに生きた。それは例えると、又吉直樹の『火花』。主人公の師匠はひたすら面白いことを目指し続けた結果、選択したことには、誰かに笑ってほしいばかりにそこまでやるのかという衝撃があった。

春斗の就職もそれに近いことなのではないか。マクベスのコントに意味を見出すためにコントを追体験することは、ちょっとブラックな、たとえ他者に理解されずとも本人は真面目であることの壮絶さ。

その2:人生、死ぬまで終わりはない説。無理して途中でオチをつけたり、感動譚にしたりすることはない。恋したり、結婚したり、立派な仕事についたりするのがゴールではない。
迷い続けていていいのだというメッセージ。

ほかにもいろいろ解釈することができるだろう。問題は、どうして、こういうふわっとして確かな手応えのない、結論のないドラマができたのだろう(これについての是非は問わない)。やっぱりコロナ禍が最大要因ではないだろうか。

この一年半のように人類がここまで行動を制御されたことはかつてない。未曾有の出来事で何をするのが正解かわからないし、ただただ家にいて、他者との肉体的接触をしないようにして、ニューノーマルに慣れようと思いながらも、それには手応えがまったく感じられない。

何もかも失くなってしまったゼロの時間ではなく、なんとなく生活は続いていて、でも全力で何かをやることのできない謎の時間。ただただ時が過ぎ去ることを待っている間に、断捨離したり過去を振り返ったりすることが増えたことと、『コントが始まる』は少し似ているような気がする。

そういう時、潤平や瞬太のように身近の愛を大事にすることもいいし、里穂子のように新しい仕事を見つけるのもいい。でも春斗のように迷ってまだ何も見つけることができず、とりあえず動いてみるに至るくらいでもいいのだ。いわば、人生のライブの幕間のような時間。このまま幕が開かないことはないのだから。
(木俣冬)

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番組情報

日本テレビ系
『コントが始まる』
毎週土曜よる10時〜
※放送終了

出演:菅田将暉 有村架純 仲野太賀 古川琴音 神木隆之介
芳根京子 伊武雅刀 鈴木浩介 松田ゆう姫 明日海りお 小野莉奈 米倉れいあ

脚本:金子茂樹
音楽:松本晃彦
主題歌:あいみょん「愛を知るまでは」(unBORDE / Warner Music Japan)
チーフプロデューサー:池田健司
プロデューサー:福井雄太 松山雅則(トータルメディアコミュニケーション)
演出:猪股隆一 金井 紘(storyboard)

制作協力:トータルメディアコミュニケーション
制作著作:日本テレビ

番組サイト:https://www.ntv.co.jp/conpaji/


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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