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月9「夜の朝ドラ」シリーズのひとつ?『ナイト・ドクター』第2話
夜間の緊急救命で働く若者たちの群像劇、月9『ナイト・ドクター』(フジテレビ 系 月曜よる9時〜)第2話。24時間365日、どんな患者も受け入れる理念を掲げるあさひ海浜病院がはじめたナイト・ドクター。当直を廃止し、昼・夜の2部制にして、夜の部を受け持つ部署にある晩、運ばれてきた患者は浮気がバレて妻に刺されていた。【前話レビュー】『ナイト・ドクター』桜庭の心身の調子は復調するのか、成瀬の上腕二頭筋が活躍するときは来るのか 第1話
「こんな仕事していて、まともに恋愛などできるわけないだろう」と嫌味を言う成瀬暁人(田中圭)。第2話のテーマは「普通」とは何か。昼間の裏側の夜の仕事は普通ではないのか。仕事に夢中で恋愛に時間を避けないのは普通ではないのか。簡単に「普通」と定義される事々に疑問を呈し、普通じゃないと思われていることを普通にしたい願いを描く。
人の命を救う仕事に全力を注ぎ、時にはデートより仕事を優先する美月に対して、大輔は普通にデートを楽しみたかった。ちょっと前は、「私と仕事、どっちが大事?」と女性が男性に聞くパターンが当たり前だったが、いまや「俺と仕事、どっちが大事?」と男性のほうが問う男女逆転時代。
逆転は、男女のみならず、昼夜も逆転。働き方改革が叫ばれる中、長時間働いていて、日中、病院にも行けない人たちも多い。そんな人たちはしかたなく夜間にやってくる。それは医師の間では「コンビニ受診」と呼ばれていた。
美月の父・哲郎(佐戸井けん太)が患者のふりして診療に来ると、激しく怒る美月。変装していたが保険証などで誰かわかるはずではないのか。保険証を忘れたと言って嘘の名前で受診したのかと思ったら、モニターに「朝倉」とある。正体を知って、速攻カルテを書き換えたのだろうか。医療に詳しくない筆者には気がつけていない点があるのだろうか。まあそんなところにこだわるのも大人気ないので先に進もう。
桜庭瞬(北村匠海)が哲郎に亡くなった美月の母のことを訊ねる。どうやら桜庭と美月にはなにか関わりがありそう。さらに桜庭の体調はよくないようである。体が悪くても医療に従事できることは、北村匠海も出ていた『にじいろカルテ』(テレビ朝日)でやっていたので、知識として把握している視聴者もいるだろう。
病を抱える桜庭の「世の中は不公平で満ちている」という言葉
桜庭の病気も気になるが、目下、気がかりなのは、美月がやたらとけんけんしていること。父親にもきつく当たるし、大輔にもわりと当たりがきつかった(第1話の最初の会話がきつい言い方だなあと感じた)。コンビニ患者にも手厳しい。物事をテキパキ処理しようと頑張っているのだろうけれど、彼女に診てもらうのはちょっといやかも……。それでもちゃんと仕事ができるならいいけれど、赤ちゃんを連れてきた母親・鮎川希実(谷村美月)にきつく当たった挙げ句、赤ちゃんの不調に気づけないから、残念過ぎる。代わりに深澤がなにげに気づき、そのお手柄によって、第1話の何もできず大事な妹・心美(原菜乃華)が緊急搬送された時、知らずに受け入れを断ってしまう失態をしでかしたことを挽回できたといえるだろう。
第1話では深澤の未熟さが際立ち、第2話では美月。未熟さのバトンリレーが成されている。
深澤は第1話で、緊急患者に対処できない、受け入れられない弱さを露呈したが、第2話では、のっぴきならない重症は苦手でも、日常の不調を訴える人たちには優しくおだやかに接することができるところを見せた。美月の場合は重症患者だと俄然やる気になる。それぞれ一長一短である。
深澤は親がいなくて、持病を抱えた妹・心美の親代わり。母を亡くしたものの父はいる美月に親に優しくしてやれという。
大輔の期待する普通の付き合いができなかった美月。仕事で普通に診療に来ることのできない人たちの苦労も知った。「普通は変えられるんだよ」「昼間忙しい人たちが気軽に病院に来られるのが普通になるときが来るといいよね」と未来を思い描く。
その頃、桜庭は心臓を苦しそうしながら「どんなに願っても、普通に生きられない人だっている。世の中は不公平で満ちている」とつぶやいていた。心美も子どもの頃から病気と闘っている。誰もの人生を「普通」に「公平」にすると言うだけなら簡単であるが、実行するとなったらなかなか難しい。
美月のセリフに思い出す『半沢直樹』
そんな時、変質者が患者として治療を受けていて、美月が狙われる。第1話は、美月が大輔の部屋に行ったら別の女性がいて――つづく、だった。第2話は、美月が診療していた患者が急に彼女に襲いかかって、つづく。「朝倉離れろ! そいつ変質者だ」と叫ぶ成瀬。走る桜庭。
それにしても「朝倉離れろ! そいつ変質者だ」という展開は深刻のようで脱力感も否めない。恋人にフラれたと思ったら、変質者に唇を奪われそうになる美月……、男運が悪すぎる。
第2話の注目ポイント。
「あの窓明かりひとつひとつにいろんな事情を持つ人たちがいて、彼らにとっては重症も軽症もない」と言った美月のこのセリフ。これを聞いて、『半沢直樹』シーズン1の第5話、半沢が妻の花(上戸彩)と並んでキラキラした街の光を見つめながら言った「あの小さな光のひとつひとつのなかに人がいる。俺はそういう人たちの力になれる銀行員になりたい」というセリフを思い出した人もいるのではないだろうか。
この手のセリフはドラマによくあって、古いところでは、昭和22年に戦後初の新聞小説として連載され、後に朝ドラの原作のひとつにもなった林芙美子の『うず潮』の終盤にこんな文章がある。
<向こうの、きらめく灯火の下には、それぞれの人の世があり、悲劇や喜劇が演じられているのであろう……>
主人公が月夜の浜を歩きながらこんなことを考えるのである。朝ドラ『あさが来た』のヒロインだった波瑠が、月あかりとイルミネーションに灯されるお台場の海を見ながら、「あの窓明かりひとつひとつにいろんな事情を持つ人たちがいて、彼らにとっては重症も軽症もない」という、朝ドラ初期のヒット作(第4作目)の原作のようなセリフを言うことには感慨深いものがある。
同じく月9の『監察医 朝顔』がホームドラマだったことから、筆者は「夜の朝ドラ」と表したことがあるのだが、『ナイト・ドクター』も月9「夜の朝ドラ」シリーズのひとつのように感じる。人の役に立つ仕事をしながら、自分たちだってより良く生きたいと思う人たちが、女性が男性を待たせることや、夜に診療を受けることを普通(ニューノーマル)にしようと奮闘する、夜の朝ドラ。いろいろな価値観が変わっている今らしいドラマである。
(木俣冬)
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番組情報
フジテレビ 系『ナイト・ドクター』
毎週月曜よる9時〜
出演:波瑠 田中圭 岸優太 岡崎紗絵 北村匠海
一ノ瀬 颯 野呂佳代 櫻井海音 梶原善 真矢ミキ 小野武彦 沢村一樹、ほか
脚本:大北はるか
音楽:得田真裕
プロデュース:野田悠介
演出:関野宗紀 澤田鎌作
制作著作:フジテレビ
番組サイト:https://www.fujitv.co.jp/NightDoctor/
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami