
ミステリーの醍醐味を味わえる、宇佐美まこと著『黒鳥の湖』
本を開いてすぐ、これ、シリアルキラーが主人公のミステリー? 好物好物! と盛り上がった。なにしろ物語の出だしからして、とっても不穏。絶対、人に言えないような悪いことしてるでしょ、というシチュエーションであり、登場人物なのである。【無料試し読みあり】宇佐美まこと『黒鳥の湖』を購入する
宇佐美まことの『黒鳥の湖』は、そんな「で? それで? それから?」とページを繰る指がもつれそうになるほど気が急く、まさにミステリーの醍醐味を味わえる小説だ。
物語の主人公である財前彰太はザイゼンコーポレーションの社長。妻の由布子、高校生の娘・美華と高級住宅地の一軒家で幸福な生活を送っている。ところが女性が拉致され、その所持品が次から次へと家族の元に送りつけられるという世間を震撼させる事件が起きてから、彰太の心はかき乱される。
ザイゼンコーポレーションを立ち上げる前に興信所の調査員をしていた彰太は、18年前にある男から、娘が拉致され、着ていたワンピースの切れ端や髪の毛や剥がされた爪などが送られてくる、という気味の悪い事件の調査を依頼されたことがあったのだ。
調査を進めるうち、その事件が当時頭を悩ませていた問題の解決に役立つと思った彰太は悪いことだと思いつつも事件を利用し、今の幸福を手に入れたのだった。それゆえ、あまりにも18年前と何もかもが似すぎている事件を前に不安と恐怖を覚えるようになるのだが、そうした彰太をもてあそぶように娘の美華が行方不明になる。そして次々と美華の所持品が送られてきた。
過去に犯した罪が因果応報として返ってきたのか……誰にも言えない秘密を抱え戦々恐々とする彰太だが、一方で妻の由布子も決して口にはできない秘密を胸に自分を責めるようになっていく。そんな彰太と由布子は救いを求め、ある寺の住職代理である若院と、その母の大黒のもとに通うようになる。娘の安否が心配でならない彰太はワラをも掴む気持ちで美華を探し始めるのだが、18年前の報いなのか、幸福の歯車はきしみながら狂い始める──。
荒筋を非常にザックリ言うと、そういうことになる。だが本を開いてすぐに感じたシリアルキラーのミステリー小説という印象は、読み進めるにつれて少しずつ変わってきた。どうやらこの話、自分にも思い当たるフシがあるぞ、それもそうとうヤバい部分でだぞ、正直これはかなりな闇だぞ……と。
これ以上言うとネタバレの反則になるので差し控えるが、実は言いたくて言いたくてたまらない。あの人、こんなことがあってね、そのときこんなことされちゃってさ、そしたらアイツが本当はこういう奴だってことがわかって、それを知ったソイツが今度はあんなことをして……。
現在と過去が複雑に絡み合い、人の心の闇や傷が次第に明らかになっていき、驚愕の事実と衝撃のクライマックスに雪崩れ込む。あ~しゃべりたい、教えたい。ハッキリ言おう、極上のミステリーほどネタばらしをしたくなる。だってあまりに仕掛けが面白いから。トリックがとっても美しいから。そのすごさを言いたくなってしまう。
『黒鳥の湖』もそういう小説だ。
藤木直人主演でWOWOWがドラマ化
その『黒鳥の湖』がWOWOWでドラマ化された。過去の過ちに罪悪感を抱きながら翻弄される財前彰太を、17年ぶりにWOWOWのドラマに出演する藤木直人が演じる。そして事件に巻き込まれるなかで過去の秘密が明らかになる彰太の妻・由布子を吉瀬美智子、若いながら寺をしっかりと支える若院はWOWOWのドラマ初出演の三宅健、若院の母親で人望の厚い大黒を財前直見と、豪華キャストが集結して人間の悪に迫るダークミステリーを構築している。また、登場人物の18年前の姿も、CGなどを用いながら同じキャストが演じているところも見どころのひとつだ。「ブラッド・ピットさんの『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』のように説得力のある18年前になってるといいなと思ってますけど(笑)」(藤木直人)というように、18年前の藤木と今の藤木、ドラマそのものとはちょっと違う意味で楽しみだったりする。
『愚者の毒』で第70回日本推理作家協会賞を受賞し、その後も傑作ミステリー小説を次から次へと発表している人気急上昇中の作家・宇佐美まことの初映像化作品でもあるドラマ『黒鳥の湖』。それは、“因果応報”というテーマで見る者の心をも翻弄する作品と言えるだろう。
(前原雅子)
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放送概要
WOWOW『連続ドラマW 黒鳥の湖』
2021年7月24日(土)放送スタート(全5話)
毎週土曜よる10時
出演:藤木直人
吉瀬美智子 三宅健 服部樹咲 板尾創路 杉本哲太 財前直見
大澄賢也 宅麻伸 中島ひろ子 酒向芳 飯田基祐
原作:宇佐美まこと「黒鳥の湖」(祥伝社文庫刊)
監督:岩田和行
脚本:小峯裕之
音楽:池田善哉
チーフプロデューサー:青木泰憲
プロデューサー:村松亜樹 水野綾子
製作:WOWOW 共同テレビ
番組サイト:https://www.wowow.co.jp/drama/original/kokucho/
何もかもが似過ぎている……。女性が拉致され、持ち物が次から次へと家族のもとに送られてくるという事件が発生する。ザイゼンコーポレーションの社長、財前彰太(藤木直人)は興信所の調査員をしていた18年前に、谷岡という男性から、ある事件の調査を依頼された過去があった。それは、娘が拉致されワンピースの切れ端、?がされた爪が送られてきたという不気味な事件だった。
そして現在。酷似した事件に動揺する彰太。美しい妻の由布子(吉瀬美智子)と今の生活があるのは、彰太がその事件を利用して大きな“細工”をしたからだった。そして、事件の真犯人は逮捕されていない。そんな中、彰太のまな娘が行方不明になり彼女の持ち物が送られてくる。由布子は不安と誰にも言えない秘密を抱え、救いを求めてある寺の住職の妻・大黒(財前直見)とその息子・若院(三宅健)のもとに通い始め……。
すべては18年前の過去の報いなのか、歯車が狂い始めていく――。
前原雅子
フリーライター、音楽系が多い。読書、ジャンクから高級物まで広く食するお菓子、気の向いたときにする家事が趣味。