『おかえりモネ』第17週「わたしたちに出来ること」

第84回〈9月9日(木)放送 作:安達奈緒子、演出:中村周祐〉

『おかえりモネ』第84回「あなたが闘う場所は私が死守するから」高村(高岡早紀)がいいセリフ連発
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

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朝岡(西島秀俊)から莉子(今田美桜)にキャスターが変わってから番組の視聴率が思わしくない。テコ入れに内田(清水尋也)をキャスターにする案が浮上した。カメラテストをしている内田を目の当たりにして、呆然とする莉子。
「あんまりだと思いません?」と『おはよう日本 関東版』では高瀬アナが莉子を応援するのだった。そう思うのは当然である。

【レビュー一覧】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第84回掲載中)

「あなたが闘う場所は私が死守するから」

メガネをとって髪型も変えてグレーのスーツを着た内田はモデル経験もあるだけにしゅっとしてカメラ映えした。知性が尖りすぎず柔らかな雰囲気もあって、好感度が高く見える。

ウェザー・エキスパーツの社内プレゼンでも説明の巧さ(説得力)を見せていた内田。しゃべりも申し分ない。カメラテストを見ながら莉子は降ろされるのではないかと危機感を覚える。

「私みたいなのは……」かわいさしか求められてないと自虐的になる莉子に、かつて同じ経験を味わっているらしき高村(高岡早紀)は助言する。

「仕事に優劣つけてるならそれは失礼よ」
「自分で自分をおとしめるのはやめなさい」
「誰よりも自分があなた自身で実力で勝負できるって信じなさい。信じられるくらいになりなさい」
「あなたが闘う場所は私が死守するから」

高村がいいセリフ連打。想像するに、彼女はかつてきれいどころとしてしか見てもらえずキャスターの座を降ろされた。その経験があるから「あなたが闘う場所は私が死守するから」と宣言するのだ。こんなふうに言ってくれる上司がいたら、なんて心強いだろう。


『おかえりモネ』第84回「あなたが闘う場所は私が死守するから」高村(高岡早紀)がいいセリフ連発
写真/NHK

今週のサブタイトル「わたしたちに出来ること」のひとつは、かつて苦渋を飲んだ上の世代が、私たちもそうだったからと下の世代に同じことを強いるようなことはなく、むしろ同じようなつらい目に合わないように守ることの提言ではないかと感じる。

朝岡もそう感じていて、莉子を心配して電話してきた沢渡(玉置玲央)に「我々の世代も苦い思いをしてますからね」と言う。だからこそ莉子を奮い立たせるために内田をキャスターに推した。

「試練はチャンス」。いわば内田は「当て馬」(相手を刺激する存在)である。「当て馬」の存在は恋愛ドラマだけではない。仕事においても必要なのである。とはいえ、朝岡が彼を単に「当て馬」にする気はなく、内田自身の能力も伸ばそうとしている。上の世代として若者のために道を開こうとしている。

結果、莉子と内田が交代でキャスターをやることになった。番組を見た明日美(恒松祐里)は内田を「育てたい」とひとりで盛り上がる。



「わたしたちに出来ること」

莉子のいいところは、どんな時でも明るく毅然としていること。怒っても泣いてもギリギリのところで顔を崩さない。
「降ろされますよね」と聞く時なんて微笑んでいる。自虐的なようで心底自虐していない。そこがいい。

内田キャスターが人気で視聴率もいいとわかって、きーっとなるが、そこでもとりつくしまがある。百音に対してもそうだったが内田にも悪意を向けない。状況には怒ったり疑問を感じたりするが、人を憎まない。そこが見ていてホッとする。

朝岡が指摘する「真面目さや強さ」が滲んでいる。ただ、ドラマの中では彼女のその、かわいいだけじゃなくて報道を行おうと考えているところが見えてこない。報道に興味があるふうに見えないのである。社会情勢に対する話題もないし、勉強しているふうでもない。ハッピーに恵まれて生きてきたというところしかわからない。
だからこそ自分には何もないとしょげるのだろうけれど。莉子はなぜ報道をやりたいのだろう? 彼女のことをもう少しじっくり見ていこう。

やけになって炭酸飲料をあふれさせ、ずぶ濡れになった莉子。以前のように汐見湯で風呂に入り、コミュニティスペースで寛ぎながら、自分に欠けているのは「経験」だと思うと百音に語る。

その経験とは「傷ついた経験」のことである。ハッピーな経験はたくさんしてきているが、それでは足りないのだと感じる莉子。「傷ついた経験」が人を強くするもので、ついつい百音にはそういう経験があるという話をしそうになって、百音の経験は次元が違うと言い直す。

莉子の中の報道志向を見出すとすれば“ここ”である。以前から彼女は、ずけずけ言うが、基本、客観的であり、言葉足らずのことをすぐにリカバリーするし、物事を深く考えようとしている。学んだり伝えたかったりするテーマはなくても、彼女のこの理性的なところが報道に向いている萌芽のようにそっと描かれている。

『モネ』では一貫して結果ありき(この人はこうだからこういうことを必ずするというような属性を明確に規定しない)で描かず、小さな「芽」が少しずつ育っていくことを描いている。そこは見逃してはいけないポイントである。


『おかえりモネ』第84回「あなたが闘う場所は私が死守するから」高村(高岡早紀)がいいセリフ連発
写真/NHK

その頃、百音の故郷では悲願の橋が架かっていた。島と本土に橋がないことで不便だった昔。百音の誕生がそうであったように、時には命を失いかねないこともある。橋が架かったことで可能性が広がった。

ドラマが都会の恋とお仕事ものみたいになってきつつも、着々と地元復興も動いている。橋が架かったことの喜びを百音が共有するのは父・耕治(内野聖陽)で、彼はかつて屈託がないと芸術には向かないのだろうかという問題に悩んだ経験者である。

今、莉子は耕治と同じようなところで悩んでいる。だが「影」とか「傷」とかは容易に求められるものではない。“過去の傷ゆえに影があり、芸術的才能を発揮する”というような属性に、『モネ』は精一杯抗い、回り道しているように感じる。朝岡や高村のように自分たちの受けた傷を次世代の人たちが受けずに済むように考えて行動する。「わたしたちに出来ること」とはそれなのではないだろうか。とはいえ朝岡は「試練」を莉子に与えているのだけれども。

(木俣冬)

『おかえりモネ』をさらに楽しむために♪










番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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