『おかえりモネ』第19週「島へ」
第94回〈9月23日(木)放送 作:安達奈緒子、演出:梶原登城〉

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「私 こっちに戻ってきてもいいかな?」
「もう一度やり直させてほしい」
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百音(清原果耶)は未知(蒔田彩珠)に覚悟を話す。百音の人生が急展開。いったん東京に戻ると、汐見湯で待っていた菅波(坂口健太郎)から「会わせたい人がいる」と言われ……。
「まだなんもしてない」
百音が地元に戻る決意をまず未知にしたのは未知を意識しているから。学生時代、未知は百音より勉強ができて将来を嘱望されていた。震災後、すっかりふさいでしまった百音に代わって未知は家業の水産業に勤しむようになっていく。家を支えていることが未知の矜持になっていたが、百音が東京で活躍するようになると、島と東京のスケールの違いを意識してしまう。しかも好意を寄せている亮(永瀬廉)の気持ちが百音に向いているものだから余計にもやもやする。
どちらかが調子のいい時、どちらかが調子が良くない。姉妹がバランスをとっているようであることを母・亜哉子(鈴木京香)は気づいていた。そんなふうだから、百音も未知と役割がかぶらないように気遣っている節もあっただろう。とりわけ震災時、地元にいなかったことを「お姉ちゃん、津波見てないもんね」と言われてしまってからは百音は未知に対して腫れ物に触るように接して来た。
未知としては精一杯の自己主張というか、自分が家業を継いでいるのだと自分に言い聞かせる意味もあっただろう。そういうことでもしないと、なかなか自分を奮い立たせることは難しい。ただの意地悪ではない、いたましさが未知にあるから、百音も何も言えなくなってしまうのである。今回も「カキとわかめの研究しているだけだよ」と自虐的なことを未知は伏し目がちに言う。
「ホントはもっと受け止めてあげたかった。でもできなかった。自分のことで精一杯で」。百音は百音でそんな状態で、「私はここから逃げたから」と自覚している。

あの日、地元にいなかったことに負い目があることは事実。その負い目に耐えかねて地元を離れた。ここで初めて、百音は地元の辛い状況に立ち向かうことから逃げたかったのかもしれない可能性が示唆されたように筆者は感じた。百音はたまたま地元にいなかったことを理由に逃げていたのかもしれない。
誰もが明るくしぶとく対処できるわけではない。受け止めきれず、逃げたくなる人だっているだろう。百音の鬱々とした気持ちはその後ろめたさだったのかもしれない。百音の気持ちは容易に言葉にできないものである。
洗濯機のくず取りネットになんかよくわからないくずがからまっているみたいな心の澱のひとつである未知とのわだかまりがすべて溶けたわけではないものの、少しだけほどけてきた。それでも「まだなんもしてない」と百音は眉間にすこし力を入れる。ここからが本番なのである。
そして朝、おぼつかない手付きでおかずの仕度をする。そんな百音に父・耕治(内野聖陽)は「もう東京に帰れ。百音には百音の仕事があるんだから」と声をかける。亜哉子も慈愛に満ちた顔で頷く。百音の決意をまだ知らない父母。このふたりは常に子どもたちのやりたいことをやってほしいと願っている理解ある親である。
ここで何もかもすっきりして長女が地元に戻ってくる雰囲気ではなく、どことなくずれた感じにしているところが『モネ』の慎重さである。ここであっけらかんとなったら、いかにも“ドラマ”だから。
「ふたりで島ごと? 気仙沼ごと? 盛り上げよ。盛り上げるって柄でもないけど」と言って自室に戻った未知の涙は喜びともやるせなさともわからない。人間はお互いにこんなにも忍耐しながら付き合っていかないとならない繊細なものだ。そんな中で「盛り上げるって柄でもないけど」と姉妹2人が決して陽気ではないことを自覚しているところが微笑ましい。

「会わせたい人がいる」
百音が汐見湯に戻ってくると、菅波がいて、「会わせたい人がいる」と言う。ボイラー室には宮田(石井正則)がいた。先日修理に来たが、古いボイラーゆえ再び調子が悪くなって再訪したのである。彼のことは以前、菅波が過去の悔恨として百音にも話したことがあるので、百音は感慨深い顔つきになる。命が助かる代わりにホルンが吹けなくなった宮田だったが、プロとして吹けなくても楽しむことはできる。それに気づけた話を明るい顔と声でする宮田(やたらと声がいい)。古いボイラーが直ってあたたかいお湯が出るようになったことは、百音の門出とも重なるようであった。
だがしかし、百音が東京に戻って来たら菅波は登米に戻る。ここは恋愛ドラマの王道「すれ違い」で気をもませるのである。
(木俣冬)
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番組情報
連続テレビ小説『おかえりモネ』
2021年5月17日(月)~<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら
作:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami