人間って……『侵略! 外来いきもの図鑑 もてあそばれた者たちの逆襲』

今年の夏も暑かった。日本の夏はとーっても暑い。35度超えなんて言われても、もはや驚きもしない。
昔の日本はいくら盛夏といっても、もうちょっと涼しかった。どんなに暑い日でも、せいぜい起床と同時にエアコン、オ~ン!で済んでいた。今や外出する時以外はエアコンを切ったことがない。いつのまにか夏=電気代に怯える季節ということになってしまった。恐るべし温暖化、である。

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それもこれも人間が招いたことだ。自分たちの都合だけで木を切り、山を削り、海を埋め立て……。環境破壊などおかまいなし。南極や北極の氷が溶けるところまできて、ようやく長年にわたってしでかしてきたことのツケにあわて始めた。きっと地球の他の生き物たちからしたら、「やっとですかー?」なのだろう。「ずっとメーワクだったんですけどー」と言いたいところだろう。

そういう「しでかしちゃった」ことを別の角度から見たのが『侵略! 外来いきもの図鑑 もてあそばれた者たちの逆襲』(ウラケン・ボルボックス著 / パルコ刊)だ。
簡単に言うと他の地域から入ってきた、もともとはその地域にいなかった「外来生物」の生態をイラストと解説で非常に面白くまとめ上げた図鑑なのだが、読めば読むほど、知れば知るほど、「人間って……」と思わされる。

生態系を狂わせる外来生物

ところでなぜ外来生物は疎んじられるのか。理由は簡単、生態系を狂わせてしまうからだ。

そもそも動物、鳥、は虫類、魚、虫、植物……すべての生きものは、その地域の環境のなかで独自に進化し、在来種として生息してきた。だが途中からやって来た外来生物にとって環境が最適だったりすると、彼らはあっという間に増加。在来種のテリトリーを脅かすにとどまらず、在来種を襲ったり食べたり、在来種のエサとなるものを食べ尽くしたり、在来種と交雑して雑種を増やし純粋な在来種を減らしたり、鳥インフルエンザのように在来種に病原菌をまき散らしたり……。つまり在来種を駆逐する勢いで幅をきかせてしまうのである。

例えばブラックバス。外来生物と聞いて真っ先に頭に浮かぶ生物だが、そもそもは大正時代に実業家が北米から持ち帰り、釣り用や食用にするため芦ノ湖に放流。その後、バス釣りブームなどによって生息域は一気に拡大し、日本中で激増してしまった。

侵略! 外来いきもの図鑑_ブラックバス1

侵略! 外来いきもの図鑑_ブラックバス2


というのもこのブラックバス、とにかく環境適応力に優れていて、なおかつネズミなども丸飲みしてしまうくらいの大食らい。おかげで在来種はブラックバスに食べられてしまうだけでなく、エサも食べ尽くされるという深刻な影響を受けることになる。

また、外来生物の人間への被害も見逃せない。
感染症の病原として人体に影響を与えるケースはもちろん、経済被害も大変なものがある。

このところ話題になることの多いヒアリもそうだ。これに刺されると火傷のように痛む(なので火蟻と呼ばれる)。アレルギー体質の人が刺されるとアナフィラキシーショックを引き起こし命に関わる危険性もあるため、見つけても自分で駆除せず、すみやかに保健所に連絡することをオススメする。

さらにヒアリは産卵数が他の蟻に比べてケタ違いに多く、繁殖力も恐ろしいほど強い。非常に攻撃的なため、農作物や家畜を襲うのみならず、配線をかじって火事を起こすこともあるほど。一説によるとアメリカ全体の経済被害は5,000億円とも6,000億円とも言われている……。



ワカメが人を侵略する!?

その一方で同じ生物でも地域によって「悪玉」「善玉」に評価がわかれる場合もある。日本人の食卓にとって欠かせない健康食品のワカメも、「世界の侵略的外来種ワースト100」に指定されているというのだから驚きだ。日本以外でワカメが食べられる地域はほとんどないため、船舶に付着して運ばれ繁殖したワカメは、ただ迷惑な海藻でしかないのだという。

日本で準絶滅危惧種のオコジョも「世界の侵略的外来種ワースト100」に指定されている。ニュージーランドなどにネズミをはじめ害獣退治のために持ち込まれたオコジョだが、その意図に反してキーウィ(=鳥。果物のキウイではない)をはじめとする在来種を食べてしまい、天敵もいないため激増。
今や害獣とされている。

こういう、ところ変われば……は国内でも起きている。日本の生物であっても本来の生息地以外の場所に持ち込まれ、そこの生態系を崩してしまった場合は「国内由来の外来生物」とされてしまう。琵琶湖固有種のビワマスが好例だ。ビワマスの味の良さが評判となり他の湖に持ち込まれた結果、中禅寺湖ではもともと生息していたサクラマスと交雑して雑種を産みだし、在来種の危機を招くことになった。

ではなぜ、ここまで国内外からの外来生物が増えることになったのか。その理由の大半は「人間」。ひとつは食用として、ペットとして、毛皮などの材料として意図的に持ち込まれたケース。なかでも人間が意図的に持ち込んだケースの顛末にひどいものが多い。

有名なのがアライグマだ。アニメの影響で一時ブームとなったのだが、かわいらしいイメージとは裏腹に実際は気の荒い動物であるため、ペットとして飼いきれなくなって捨てる飼い主が続出。日本中で大繁殖し押しも押されぬ害獣となり都会でも堂々と生きている。


捨てられた犬や猫が野生化するなんていうのもよくあることだ。飼い始めたら最後まで飼育、今さらではあるが肝に銘じたい。

侵略! 外来いきもの図鑑_アライグマ1

侵略! 外来いきもの図鑑_アライグマ21


外来生物も懸命に生きている

そしてもう一つが意図的にではないが、物を運ぶ際の船にくっついたり、荷物に紛れたり、人が身につけていた靴や衣服についていたりして持ち込まれたケース。便利になった現代では移動手段が多岐にわたっているため、意識せずに外来生物を移動させてしまうことも多いようだ。

なにも外来生物は最初から悪意を持って侵略しに来たわけではない。いきなり縁もゆかりもないところに連れてこられて懸命に生きた結果、外来生物となってしまったのである。

そう思うと、少しでもそれを食い止めるためには特定外来生物や侵略的外来種のことを理解しておくことが大事なのかもしれない。それが、この図鑑を読んでいちばんに感じたこと。

これまでなんとなく外来生物=悪と思ってきたが、そうじゃない。意図的かそうでないかによって罪深さは違うけれど、びっくりするほど多種多様な外来生物を生んだのは間違いなく人間。だからこそ、その生態や歴史的背景を知ることで、未来の外来生物を少しでも減らすことができるのかもしれない。
(前原雅子)


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あそこの沼にも! 身近な外来生物「アメリカザリガニ」

『侵略! 外来いきもの図鑑 もてあそばれた者たちの逆襲』生みの親は人間 肩身が狭くなる外来生物のお話

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『侵略! 外来いきもの図鑑 もてあそばれた者たちの逆襲』生みの親は人間 肩身が狭くなる外来生物のお話

●日本の外来種対策<アメリカザリガニ>
――環境省ホームページより


Writer

前原雅子


フリーライター、音楽系が多い。読書、ジャンクから高級物まで広く食するお菓子、気の向いたときにする家事が趣味。

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